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生成AIが経営分析をサポート 名古屋鉄道の利用法は? 1000時間超の業務削減も生成AI 動き始めた企業たち(1/3 ページ)

» 2024年03月18日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

連載:生成AI 動き始めた企業たち

 生成AIがビジネスを大きく変えようとしている。従来のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となり得る新技術に、企業はどう向き合うのか。生成AIの独自開発・活用に名乗りを上げた企業に構想を聞く。

これまでの掲載

日本IBMサイバーエージェント日立製作所富士通NECパナソニック コネクト

NTTデータ情報通信研究機構(NICT)三菱電機村田製作所JR西日本

アサヒビール九州電力住友生命保険住友化学

今後の掲載予定

  • 名古屋鉄道(本記事)
  • ライオン
  • 旭化成   ※順不同、今後も追加予定

 連載「生成AI 動き始めた企業たち」第16回は、名古屋鉄道を紹介する。同社は2023年7月から、AIスタートアップのエクサウィザーズ(東京都港区)の法人向けChatGPTサービス「exaBase」を導入。24年2月末時点でグループ約400人が利用している。

 ユースケースは経営分析の補助、プログラミングなど多岐にわたり、業務時間の削減効果は同年2月末時点で1000時間を超えたという。

 生成AIに限らず、同社はカメラのAI画像解析による踏切事故の未然防止などにも取り組む。先端技術を積極的に活用し、従来の業務をどのように変革しているのか。同社デジタル推進部グループDX担当の山田敏大氏に聞いた。

ビジネスへの影響 自社の強み 競争優位性 リスクと対処法 ルール整備
NTTデータ 新しいビジネスの登場も考えられる 言語の生成AIでの技術的なノウハウに強み 既存の強みを生かし、他社との差別化と強みを作っていく リスクを詳細化し対処法を網羅する必要がある 外部サービスの選定と生成指示について注意喚起した
情報通信研究機構(NICT) 人材不足など日本社会の重要課題で生成AI活用が進むと期待 大量の高品質な日本語学習データを蓄積済み これまでの研究知見を民間企業に提供し日本の産業の底上げを狙う 生成AIの副作用の抑制に柔軟に対応できる体制、技術の整備が重要 規定の手続きに則り研究者らが申請を行って承認を得て研究開発や利活用
三菱電機 専門知識がなくてもAIと対話しながら機器を操作できるようになる さまざまな分野の現場データや機器の知見を生かしたAI技術を保有 コンパクトな言語モデルで生成AIを活用する際の実用性と安全性を高める 機密漏えい、権利侵害、輸出管理違反、虚偽情報などを対処 自社の生成AI利用環境やガイドラインを整備済み
村田製作所 ルーティン業務の自動化でアウトプットに集中できる データの活用におけるAI利用に強み 過去からのAI活用に関するノウハウ蓄積が競争力に 「守り」「攻め」の2つのリスクを見る必要がある 利用規則で制限を設けている
JR西日本 さらなる生産性向上に期待 通話要約の業務で18〜54%の効率化を実現 人と生成AI両輪で事業を展開 個人データを機械学習に利用しないことが必須 ルールブックを作成し対応者全員に研修
アサヒビール 人がより創造的な活動に従事できる 文量の多い技術資料を要約できる 早期の試行で生成AIの適応範囲を理解 政府や業界の動向に注視が必要 グループ会社で注意点などを共有
九州電力 業務の品質維持や高度化でより低廉で安定した電気を届けられる これまで自社設備の保守・維持管理でAIを積極活用 自社にとっての最適ツール・活用法を検討 情報セキュリティ対策の徹底が必要 生成AI利用のガイドラインや解説動画を作成
住友生命保険 自身では思いつかないアイデアを得られる 顧客から得たデータを価値に換え還元する「顧客価値増大モデル」に強み ウェルビーイングサービス領域でトップを目指す 国の方針も踏まえ社内規定を見直しリスク抑制を図る ガイドラインの作成・運用や勉強会による啓蒙活動も実施
住友化学 従来の暗黙知を共有知化し新しいビジネス価値を創出 独自生成AI「ChatSCC」を導入し最大50%以上の効率化を確認 独自のコア技術を活用したビジネス展開や競争力の確保を目指す 社内データを情報源として回答生成する仕組みを設けハルシネーション低減を検討 独自のプロンプト集や指示文書作成テクニックの動画を社員に公開
名古屋鉄道 生成AIを第2の自分として使うヒトが評価される社会に AI画像解析で踏切事故の未然防止を推進 鉄道現業部門や顧客向けサービスでも生成AI活用を検討 セキュリティ教育、リスク対策を継続して実施 「入力情報」と「生成物」の2点をポイントにガイドラインを整備
各社の回答(要約)

Q. 生成AIはビジネスと社会にどんな変化をもたらすか

 生成AIは使用者自身の手と脳を拡張するツールになるであろうと考えています。

 今後、生成AIの浸透により、業務における「作業」の大部分を生成AIが担い、作業のために割かれていた時間が大幅に減少するとともに、作業時間と思考時間が平行するようになることが考えられます。

 現在の業務遂行のプロセスでは「業務1を思考→業務1を作業→業務2を思考→業務2を作業」と、ヒトが作業時間と思考時間を担いつつ分離して進めることが多いですが、今後は「ヒトが業務1を思考→業務1を生成AIが作業しつつ、ヒトが業務2を思考→業務2を生成AIが作業しながらヒトは業務3を思考」というフローが当たり前となり、ヒトのマルチスレッド化が進むでしょう。

 このヒトのマルチスレッド化は生成AIの浸透・汎用化により、一部のみならずPCを利用する全てのヒトが対象となると予測しています。

名古屋鉄道が考える「生成AI活用が基底」の世界の姿とは(同社提供、以下同)

 また「思考」の領域にも生成AIは効果を発揮します。膨大な学習データによって、文字通り、自身の経験を超えるヒトの積み上げてきたプロセスや歴史を用いた思考が可能となり、自力を超える思考も可能となっていきます。

 あらゆる領域で生成AIはインパクトを与えますが、例えば営業職では「前の訪問先の議事録を生成AIで作成すると同時に、次の訪問先のプレゼン戦略を生成AIと壁打ちして、その内容をもとにスライド資料を改善する」というように、従来限界があるとされていた時間当たりの仕事量の基準が変化していくことが考えられます。

 このように生成AI活用が基底となる世界では、業務時間のうち「思考」が大半を占め、「思考力」がより重視されるようになります。単なる知識ではなく、より論理的かつ柔軟に物事を考え、生成AIを第2の自分として使役するヒトが評価される社会が到来すると考えています。

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