生成AIの進化が目覚ましく、人間が命令したことは何でもやってくれる「AIエージェント」が2025年には登場してきそうだ。これまでの生成AIは「何かについて教えてください」と検索や質問をすると、即座に返事が返ってきていたものの、答えの実行まではしてくれなかった。一方AIエージェントは検索、質問の返事をするだけでなく、手続きの申請や問題の解決までやってくれる。
こうしたプロダクトを世界最速で実現しようと、孫泰蔵氏、馬渕邦美氏は共同代表CEOとしてAIスタートアップ「XinobiAI」(シノビエーアイ)を12月5日に創立。東京都内で記者会見をした。孫共同代表は「まだ世界でどの企業もできていないAIエージェントを、来年中には実装させたい。これが達成できれば、行政を含めて人手不足の解消に大きく貢献し、社会を根本から変えることができます」(孫共同代表)と話し、実現に強い意欲をみせた。孫・馬渕共同代表に今後の展望をインタビューした。
孫泰蔵(そん・たいぞう)大学在学中に起業して以来、一貫してテック・スタートアップの立ち上げに従事。2014年に社会的インパクトの創出を使命とするMistletoeを立ち上げ、世界の問題を解決する起業家の育成を開始。16年には子供を未来の社会づくりに包摂するムーブメントであるVIVITAを創設。23年からはシンガポールにThe Edgeofを共同創業し、スタートアップ・エコシステム構築とVCファンドによるスタートアップ支援を開始するなど、活動範囲は年々拡大している。孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長の実弟。52歳。佐賀県出身(以下撮影:河嶌太郎)
馬渕邦美(まぶち・くによし)シリコンバレーと外資系企業の役員を歴任、日本の産業界と世界を結ぶテクノロジー・グローバルビジネスリーダー。2012年にWPPグループ世界NO.1広告代理店オグルヴィ株式会社のCEOに就任。その後、2020年にPwCコンサルティング合同会社のパートナー執行役員に就任、24年にデロイトトーマツコンサルティング合同会社シニアパートナー執行役員。59歳。京都市出身孫共同代表は「行政手続きをなくしたい」と意気込む。
例えば引っ越しをしたときに、住民票や健康保険証などは異動届けを出して住所を変更しなければならない。これまでの生成AIならば「引っ越しの際に、どういう手続きが必要か」と質問すると「住民票の異動届などは、市役所の何番窓口に行って手続きをしてください」とは答えてくれるものの、異動届までは出してくれなかった。しかし、AIエージェントが実装されていれば、これが画期的に変わる。
孫共同代表は「『手続きもよろしく』と言っておくと、全てAIが自発的に異動届まで出しておいてくれるので、文字通り『エージェント』になるわけです」と説明した。ただし、その自治体のデジタルシステム対応ができていることが前提になる。
新幹線の切符の予約などは、自分が乗りたい時間帯の切符が取れるかどうかを検索したら、切符の購入までしてくれる。まさに優秀な秘書がいるのと同じになるのだ。こうしたことが全て音声対応でできるので、いちいちキーボードを打つ必要がなくなる。
孫共同代表は「行政は手続きの集合体です。自治体にAIエージェントが導入されれば、公務員の働き方は大きく変わり、面倒な手続き業務から開放されて、住民に寄り添う本来の仕事ができます。学校の教員も雑務をしなくてよくなります」と話す。行政自治体への実装に期待を寄せている。
馬渕共同代表は昔と現在のAIの違いについて「これまでのAIは道筋を立ててやらなければ動きませんでした。今度のAIは一度音声で指示したら、後は自分で考えて自動的に進んでいくので、圧倒的に使い勝手が良くなっています。自然言語で普通に話しかけるだけで動かせるので、専門家でなくても簡単に操作できます」と指摘する。
自治体にフォーカスした理由について馬渕共同代表は以下のように強調する。
「人手と資金不足によって、新しいサービスは何もできないと言っている自治体の人たちに、このAIエージェントの便利さを実感してもらうのが一番良いと思っています。最初に地方の自治体に使ってもらいたいと考えています。人手不足は自治体にとって切実な課題なので、導入のチャンスです」
こうした動きの中で、新潟県三条市(人口9万1000人)が2025年にはAIエージェントを導入しようと、既にXinobiAIの担当者と話し合いを始めているという。
導入に向けて中心的役割を担っているのが2023年4月に経済産業省のキャリア職から三条市の副市長に就任した上田泰成氏(32歳)だ。この日の会見にオンラインで参加し「職員の数が減る中で、業務は複雑化、多様化してきています。XinobiAIとは、どうしたら職員の業務軽減になるかを検討していきたいです。例えば市民からの電話対応などは、ほとんどはWebサイトを検索すれば分かることですが、全てに答えていると本来の業務ができなくなります。このためWebサイトにAIエージェントの表示があり、それをクリックすれば自動的に答えてくれるようになれば、電話対応の負担が減る」と話した。
馬渕共同代表は「自治体で1カ所でも成功事例が生まれれば、いろいろな自治体が組み合わせて使える。AIエージェントを組み合わせればオーケストラのようになり、より高性能のシステムを創れます」と話す。自分の自治体ではできなくても、隣の自治体でそのサービスができないかどうかもAIが調べ、可能なら隣の自治体のAIエージェントにやってもらうような広域自治体による連携サービスも可能になってくる。
これまではお困りごとの相談などで「うち(の自治体)ではできないので、他を当たってください」と自治体の担当者から言われ、たらい回しされることが多かった。AIエージェントが広がってくれば、孫共同代表は「最初から最適な所を紹介して手続きもしてくれるので、たらい回しされることもなくなります」と話す。
病院に行く場合も、最適な病院が見つからずにたらい回しされることがあった。馬渕共同代表は「AIエージェントがあれば、かかっていたいくつかの病院のカルテも統合してくれて、今の病状から考えられる最適な病院を見つけて紹介してくれる。その病院までのタクシーの送り迎えの手配までしてくれる」と語る。AIの進化により、至れり尽くせりになる時代が来るのだ。
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