新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、さまざまなものがオンラインへ移行している。特にビジネスの世界では、これまでなかなか進まなかったテレワークがようやく定着し始め、Web会議ツールが活用されている。このWeb会議ツールを使って、これまでにない採用支援活動を展開し始めたのが福岡県の北九州市役所だ。
地方部では人口流出が都市部以上に課題となっており、地域の学生だけでなく、エリア外の学生にもアプローチする必要に迫られている。そこで北九州市役所では、これまで北九州商工会議所と共同で、学生向けにオフラインでの合同会社説明会を実施していた。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大してからは企業や学生の感染リスクを避けるため、オフラインでのイベントを実施することが難しくなった。そこで、ブイキューブが展開しているWebセミナーツール「V-CUBE セミナー」と同社が提供している配信支援サービスを活用し、急きょ合同会社説明会のオンライン化に取り組んだ。参加企業や学生の数が増加するなど、反響も大きいという。
一般に、民間企業と比して官公庁や自治体といった公的機関では「前例主義」が強く、変化へタイムリーに対応することがなかなか難しいとされている。いったい北九州市はどのように合同会社説明会のオンラインシフトへ成功したのか。北九州市雇用政策課の大前亜弥係長に、これまでの説明会が抱えていた課題やV-CUBE セミナー選定のポイント、そして今後の地方における採用難をどう解決するかの展望などについて話を伺った。
地方の人口流出、課題は「仕事がない」?
昨今「人手不足」がより顕著になり、特に地方部において若い世代の都市部への流出が問題となっている。その大きな原因が「雇用機会の不足」だ。総務省が2017年に発表した「地域におけるICT利活用の現状に関する調査研究」によると「地方自治体が考える人口流出の要因」は「良質な雇用機会の不足」が断トツ。
とはいえ、地方にも数多く魅力的な企業は存在する。そうした企業を学生向けに発信するため、北九州市では長年、北九州商工会議所と共同で地元企業の合同会社説明会を実施してきた。大前氏は「地元就職を考えている学生は、結構いらっしゃいます。そうした方々に向けて、学生の採用をしたいと考える地元企業の説明を積極的に行うことで地元就職を後押ししたい、と合同会社説明会を始めました」と振り返る。
こうして学生・企業双方のニーズを受けた形で開始した合同会社説明会だったが、課題がなかったわけではない。
場所・時間の制約が課題だったオフライン説明会
オフラインの説明会では、当然ながら特定の時間・場所で開催することしかできない。そのため、北九州市外、特に遠方に住む学生だとなかなか参加がしづらい。
中には熱心な学生もいて、「業界研究のため」と大阪から来訪するケースもあったが、こうした例はあくまでレアケース。学生にとっては交通費も大きな負担となってしまう。さらに、実際に説明会を開催したとしても当日どれほどの参加者が来訪するかは未知数だ。「過去の説明会では、参加したはいいが、1日待っても数人の学生としか接点を作れなかった企業もあったようです」と大前氏。
このように、オフライン開催がネックとなるポイントは数多くあった。結果的に、説明会の参加学生数が伸び悩み、それに比例して企業も効果的なマッチングを図る上での課題が生まれてしまっていた。
一方、オンラインへシフトすれば、どんな場所にいてもライブ配信に参加することができる上、配信したコンテンツを撮影しオンデマンドで時間の制約なく視聴することも可能になる。こうした課題と解決策は理解しつつも、対面でのやりとりを求める学生・企業双方のニーズがあるのも事実であり、以前はなかなか「説明会のオンライン化」が話題にあがることも少なかったという。
選定のポイントは「柔軟な対応」
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって事態は急変する。2月下旬ごろから、リクナビやマイナビといった大手新卒求人サイト主催の合同会社説明会が軒並み中止に。北九州市では3月開催分の説明会準備を行っていたが、こうした波を受けてオフラインでの説明会から、急きょオンラインへと切り替えることになった。「新型コロナで大きく環境が変わり、かつて経験したことのないような採用活動の停滞を目の当たりにしたのがオンラインシフトへの大きな要因となりました」と大前氏は話す。
とはいえ、これまでオンラインでの開催は未経験で、ノウハウも持っていない。その中で、オンライン開催の決定からソリューションの選定まで、わずか1週間ほどで全ての段取りを決める必要があった。そんな中、ブイキューブが採用される決め手となったのが、専任のスタッフがさまざまな提案やサポートを行う点だ。
「ブイキューブさんには、こちらがどういう風に考えているのか、そしてどういう風にやりたいのか、ということにきめ細かく対応してもらえました。こちらのいろいろな希望を形にしてもらえた点だけでなく、われわれは動画配信のプロでもないので、配信中のトラブルなどを考えたときに、専任のスタッフもいるため安心できました」(大前氏)
アーカイブ化で学生との継続的な接点づくりも実現
北九州市は、参加した学生側からアンケートなどでアーカイブ化の要望が強かったこともあり、4月からオンライン説明会で撮影した動画を市公式就職支援サイトで配信している。「もともと、オフライン説明会をしていたときにも継続的にコンテンツを出していけないか、説明会を単発的なもので終わらせない『エブリデイ合説』はできないか、という課題意識がありました。オンラインへ切り替えることで、こうした継続的な接点づくりが図らずも実現できています」(大前氏)
こうしたケースでは、ライブ配信したデータをそのままアップロードすることも多いが、ブイキューブでは配信者の資料映像、プレゼンターのカメラ映像などをキャプチャーし1つの画面にまとめ、さらに音声などもミキシングして視聴しやすいデータへ加工した上で納品しているという。こうしたきめ細かな対応も、選定のポイントの一つとなった。
また、採用活動は学生などの個人情報を扱う、センシティブなものでもある。参加した学生の顔や氏名などの流出は絶対に避けなければならないが、V-CUBE セミナーはASP/SaaS情報開示制度に認定されており、セキュアな状態で説明会を実施できたのも安心材料だ。オンデマンドでの配信動画の編集も、個人情報に配慮した上での納品データとなったのも、北九州市からブイキューブに出した要望によるものだという。
肯定的な声が相次ぐ一方で課題も
参加した企業からは、オフライン説明会と比較してオンラインの場合は事前エントリーがあるため、これまで以上に学生側とのつながりを持てているという肯定的な声が多くあがっている。さらに、九州外などこれまでになかった地域の大学生や専門学生の参加も増えているという。
学生側からも地元企業を知るいい機会になったという声や、説明会に参加する企業をもっと増やしてほしいなどの声も相次いでいる。さらに、各地の大学内キャリアセンターからの歓迎の声も増えているという。
一方で、企業側の「オンライン慣れ」が課題として浮上している。新型コロナウイルスの感染拡大によって学校のオンライン授業化なども進んでおり、これまで以上にオンラインネイティブな学生が増えてくることは容易に推定できる。こうした層にアプローチするため、プレゼンする側である企業はこれまでとは違った発信が求められている。
「オンラインだと、似たり寄ったりの説明になってしまい、違いが見えづらくなりがちですよね。見せ方を工夫することが課題だと感じています。合間にタイムリーな話題を入れてみたり、あるいは社員同士で掛け合いをしたりと各企業も模索しています」と大前氏。
また、オンラインだけではカバーできない部分があるのも事実だ。新型コロナウイルス感染症拡大の状況にもよるが、今後は遠方の学生をカバーできるオンライン説明会を「間口」とし、選考が進むごとにオフラインでのイベントを交えるといった活用方法も思い描いているという。
採用のオンライン化で「地方格差」の解消なるか
新型コロナウイルスの感染拡大は、さまざまなもののオンラインシフトを大きく進めると同時に、さらなる大きな変化を生み出しつつある。例えば、大手企業でもオフィスの見直しが進んでいるし、都市部ではなく地方への移住にも注目が集まっている。学生の間では、これまで以上にUターンやIターンの機運も高まっていくだろう。
北九州市では、ブイキューブのソリューションを活用した課題解決型のオンラインインターンシップの実施にもチャレンジするという。オンラインだけで採用を完結させるのはなかなか難しいが、適材適所の心構えで活用すれば、採用の幅は広がっていくはず。北九州市の取り組みは、地方における採用難を解決するモデルケースとなるのか、注視したい。
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