地震、津波、台風などの自然災害に多くさらされている国・日本。防災に力を入れる自治体や企業は多いが、いざ災害に見舞われた際、被害状況を迅速かつ正確に把握することは難しい。いかにして情報を入手して従業員に的確な指示を行えるかは事業継続性の観点からも多くの組織にとって課題になっている。
そんな中、毎年3、4回も台風の直撃に遭うだけでなく、津波や高波、土砂災害なども絶えない沖縄県の南東部に位置する南城市が、テクノロジーを駆使した対策に乗り出した。
災害に備えてどんな取り組みを行っているのか。市役所で防災を担当している真境名 学(まじきな まなぶ)さん(総務部総務課防災係係長)と、津波 茜(つは あかね)さん(総務部総務課防災係主事)に話を聞いた。
現場の緊急度は電話では分からない
南城市の災害について、真境名さんは「最も危険なのは高波だが、内陸部は起伏が激しく、土砂災害の警戒地域を多く抱えている」と話す。
南城市は三方が海に面しており、台風が近づけば、沿岸部では津波や高波の心配が絶えない。一方、内陸部は緑豊かな反面、冠水や土砂災害が起きやすい。実際、2018年には台風24号と25号が間を空けずにやってきたため、高波だけでなく、塩害や道路の冠水、護岸の崩落などが立て続けに発生。市民への影響も大きかった。
しかし、南城市は自前で消防本部を持っておらず、災害発生時の頼みの綱は、隣町の八重瀬町と南城市を管轄する消防組織「島尻消防組合」のみ。もちろん市でも積極的に対策に取り組んでいるものの、「市役所や消防ができること(公助)は限られている。それだけでは行き届かないところもある」と津波さんは言う。
そこで津波さんなど市の防災係は、広報誌などを通じて積極的に防災情報を発信。市民に、自分自身の命や財産を守る「自助」や、近隣の人と互いに助け合う「共助」の意識を持ってもらえるようにはたらきかけている。その結果、地域の人々がともに防災活動に取り組む「自主防災組織」の立ち上げが進むなど、地道な啓発活動の成果は徐々に実を結び始めている。
とはいえ、大規模な災害発生時は市役所が設立する災害対策本部が要となる。特に台風被害は広範囲に及んでいることが多く、緊急度の高い現場から対応することになる。しかし、平時なら車で5分から10分程度の距離でも、台風が来れば移動すらままならないこともある。災害現場がどうなっているかは、現地の人に電話で説明してもらうことがほとんどで、実際に被害の規模や緊急度を判断するのは難しかった。
そこで、南城市ではまず沿岸部に3台の監視カメラを設置。高波や津波の危険がないか、災害対策本部を設ける市庁舎から確認できるようにした。さらに、市民の避難などをスムーズに促せるよう、内陸部にもスピーカーの設置を進めている。
さらに災害対策を進めるきっかけとなったのは、市庁舎の建て替えだった。これまで2棟に分かれていた市庁舎が1棟にまとまり、市役所内での連携の仕方も変わるのにあわせて、以前から挙がっていた拠点間情報共有システム「xSync Prime Collaboration(バイシンク プライム コラボレーション)」を導入したのだ。
現場の様子はスマホですぐ共有
xSync Prime Collaboration(以下、xSync)は、Web会議ツールなどを手掛けるブイキューブが提供しているシステム。本部に設置した電子黒板の画面を、タブレットやスマートフォンなど、複数の端末とリアルタイムで共有できる。共有した画面は全ての端末から操作できるため、画像を表示して複数の端末から同時にメモを取ったり、資料を見せながらWeb会議で通話したり――といったことが可能だ。市内で同時多発的に災害が発生した場合の情報共有には、もってこいのシステムだった。
南城市では、2018年5月の新市庁舎開庁に合わせて、10人分のxSyncアカウントを用意。まずは災害対策本部用として市庁舎に設置する電子黒板1台と、現場に向かう職員用スマートフォン2台で運用を始めた。
ある台風の日には、災害発生場所に到着した職員が、スマホで現場の様子を撮影。対策本部では共有された画像を電子黒板に表示することで、その場にいる関係者全員が一度で状況を把握できた。現場と本部がそれぞれ書き込んだ情報も、スマホと電子黒板の両方にリアルタイムで反映されるため、真境名さんは「その場で説明を受けているかのように、お互いの意識を共有できた」と説明する。
津波さんも「台風接近が夜間で現場が暗かった時も、想像以上に見やすい画像を送ってもらえて助かった」という。画像を見ながら、Web会議で「今見えている場所からもう少し左を確認したい」といった具体的な指示を出すことができたのもxSyncならでは。電話では現場の様子が分かりにくく、緊急度の判断が難しかった冠水や土砂災害もスムーズに対応できるようになった。
大地震の備えにもxSyncを活用
南城市では災害発生時だけでなく、避難訓練にもxSyncを活用している。18年9月には、大規模な災害の発生を想定して県が定期的に行っている総合防災訓練の実施場所として立候補。県南部のサブ会場として、新しい市庁舎とxSyncが使える環境を提供した。
訓練では地震による津波が発生したという想定で、南城市を含む複数の市町村が合同で実施。参加住民に避難所まで退避してもらった他、自衛隊の協力のもと炊き出し訓練や離島にいる避難者のヘリコプター輸送なども行った。通常の防災訓練と比べて大掛かりなものだったが、スムーズに進めることができたという。こうした訓練や実践で得たノウハウは、他の自治体にも共有し、県全体の災害対策に生かす考えだ。
現在、南城市で平時から防災係として災害対策を行っている職員は3人のみだが、真境名さんは「人が増えれば、広範囲で活動できるようになる。いざという時に迅速に動ける体制を整えたい」と意気込む。
非常時でもスムーズに使いこなせるよう、市役所の通常業務にもxSyncを活用する他、xSyncを使える端末も徐々に増やしていく考えだ。さらに遠隔のWeb会議を使って、消防組合と連携することも検討している。
新しいシステムを活用するだけでなく、新市庁舎に合わせて防災計画を見直したり、津波浸水警戒区域の更新に合わせて新しい防災マップを作ったりと、真境名さんや津波さんの仕事はまだまだ山積み。それでも真境名さんは「市民の皆さんを守り、安全に暮らしてもらえるようにすることが、私たちの務めであり、願いですから」と笑顔を見せる。
災害が絶えない場所だからこそ、「次に何ができるか」を常に考える。それこそが、台風に立ち向かう南城市の一番の強さかもしれない。
関連記事
- 街を守る消防の最前線が“映像共有”でスマート化 「無線だけでは伝わりにくい情報を瞬時に共有できる」
- 「半日かかっていたやりとりが15分で」 スマートグラスを使った遠隔作業支援、水処理大手・オルガノの活用法は?
- JALの整備士がコミュニケーション基盤を刷新した理由
- 電力インフラを支えるプロフェッショナルの働き方がドローンとスマートグラスで変わる 岳南建設の挑戦
- 「USENといえば音楽配信」からの脱却 “進化”に必要だったもの
関連リンク
- Zoom スタイル | Zoom ミーティングで働き方改革
- 火災や災害の備えとして「警防本部情報システム」を整備 現場映像を警防本部でリアルタイム共有し迅速な判断・指示を実現
- 災害対策用Web会議をリプレースし電子黒板、タブレット端末も導入 職員研修や福祉など日常業務での幅広い活用も視野に
- 災害発生時における航空局関係者間での情報格差解消のため 現場からの迅速で確実な情報共有ができる遠隔会議システムを導入
- 「V-CUBE Board」を新・防災センターの指揮台として導入 県と市町村、災害現場をつないでのWeb会議も可能に
- 災害・設備事故などの緊急時に備え「V-CUBE Board」を導入 日常業務での活用で“ワークスタイル変革”も推進
- 新「危機管理システム」と65インチ大画面の「作戦テーブル」を連携 あらゆる情報を地図情報に紐づけて集約し、災害時の意思決定を迅速化
- 連続テロを想定した実践的な国民保護訓練で地図上での情報集約のために「V-CUBE Board」を活用
- 熊本地震の被災で実感した“庁舎内での情報共有強化”のために ブイキューブの電子黒板と遠隔会議システムを導入
- 国民保護のための危機管理訓練に 地図情報と写真、手書きで情報を書き込める「V-CUBE Board」を活用
- 監督官の現場視察回数は約5分の1に大幅低減 緊急の確認事項への迅速な対応に期待も
- ハンズフリーを実現する「スマートグラス」からの映像を遠隔共有 高所における鉄塔工事の施工検査にかかる工数を大幅低減
- 緊急時の被害情報の収集や指示命令などを一元化するために 本社と拠点間の情報共有システムをWeb会議と電子黒板で構築
- 検査員が装着したメガネ型ウェアラブル端末を活用し水処理機器の現場検査を遠隔支援
提供:株式会社ブイキューブ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2019年5月10日
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.