趣味であれ職業であれ、またいかなるジャンルであれ、写真というヤツは実に多くの、主に高価な道具を必要とし、猛烈に金がかかる。これは大昔から変わらぬ現実だ。戦前はライカ1台の値段で家が買えたそうだ。今はそこまでいかないものの、カメラ、レンズのみならず、バッグや三脚、PCなどなど、多くの周辺機材を必要とする。
さらに自然写真の場合、撮影地に赴き、そこで過ごすためのフィールドギアなどもそろえねばならない。そしていかに優秀な道具であっても、形あるものはいずれ壊れるのがこの世の理であって、遅かれ早かれ買い替えが必要となる。不思議なのがそのタイミングだ。別に同じ時期に入手したわけでもないのに、なぜだかさまざまなものが一斉にダメになる時がたまにやってくるのだ。私の場合、去年の終わりごろから年明けにかけてが正にそうだ。
ことの発端は2014年11月、ボツワナのセントラル・カラハリ動物保護区から戻ってきた時だ。旅自体は、12月に書いた通り実に楽しかったし、戯れるライオンや、サバンナに落ちる稲妻など、撮影結果も大いに満足のいくものとなった。
ところが、帰国後に自宅で荷解きをしていると、三脚の脚が2本折れた状態で出てきた。三脚は機内持ち込みができないので、預けるときに衣服でぐるぐる巻きにしてケースに入れるのがいつものやり方だ。過去15年間この方法で問題が起きたことは一度もなく、今回も厳重にくるんでいたにもかかわらず発生した事態だった。飛行機の貨物コンテナに積まれた際に壊れたのだろうが、一体どれだけの力をかけたらこのようなことになるのか、はなはだ疑問だった。よっぽど多くのスーツケースを上に重ねたのだろう。
いずれにしても迷惑千万な話で、長年愛用してきたハクバの「HG-613CF」カーボン三脚はお役御免となり、新たな三脚の購入を余儀なくされた。仕方がないので、東京・中野にあるフジヤカメラの用品館で中古品でも探すかと思案していたところ、知人から使っていないジッツォ「GT3530LS」があるとの連絡を受けたので、それを譲ってもらうことにした。
海外での撮影に使う三脚は、重量の観点から、どうしても軽量なカーボンモデルのほうがよい。アルミ三脚に比べるとはるかに高価なのだが、ここは妥協するわけにはいかなかった。ただでさえ物入りとなる年末を目前にしての、手痛い出費であった。
三脚破損事件から程なくして、今度はカメラバッグがお釈迦となった。メインのファスナーが開閉できなくなってしまったのだ。かなり年季の入った代物で、そこら中に破れやほつれがあり、限界が近付いていることは明白だったのだが、まさかこのタイミングでくるとは思っていなかった。ロウプロの「スーパートレッカーAW」(初代)という、600mm f/4や800mm f/5.6クラスのレンズにボディを付けたままで楽々収納できる、リュック型カメラバッグとしては最大サイズのモデルで、購入当時10万円近くした。
最近の大型リュックは、収納スペースが上下に分かれているものばかりで不便なのだが、スーパートレッカーはフロント全面を開閉するタイプで、内部レイアウトを中仕切りで自由にカスタマイズできるため、大変重宝していた。撮影機材運搬用のみならず、スーツケースの代わりとしても便利で、どこに行くにもこのバッグを使っていたので、ダメージは甚大だった。そして、これの代わりを探すのは三脚以上の難問だった。というのも、スーパートレッカーは、二代目のAW IIというモデルが数年前に生産中止になって以来、後継モデルが出ていないのだ。あまりにデカすぎて買う人が少なかったのだろう。当然新品での入手はすでに不可能で、他社製品に同等の使い勝手を有するものは存在しない。
こうなると、頼みの綱はネットだ。何とかどこかに中古品が出ていないかと検索しまくった。そして数日後、某オークションサイトに中古良品のAW IIが一点出品されたのを発見!写真を見る限り、決して悪い状態ではなさそうだったし、他に選択肢があるとも思えなかったので即座に入札した。普通なら競合相手の動向を見極めるため、オークション終了直前まで入札は控えるところだが、こんな物に興味を持つ人間は他にいないという確信が私にはあった。何しろ日本国内でスーパートレッカーを使っている人間などいまだかつて見たことがない。
予想は的中し、首尾よくバッグを落札。届いた商品はかなり使用感の少ない状態で、これで今まで通りに機材/荷物の運搬ができると胸を撫で下ろした。三脚にしても、バッグにしても、アフリカのフィールドにいる最中に壊れなかったのが不幸中の幸いだったが、それにしてもタイミングが重なり過ぎて閉口した。
そして、とどめの一撃と言わんばかりに年末からデスクトップPCの調子がおかしくなった。マウスやキーボードが反応しなかったり、立ち上げにものすごく時間がかかったり、勝手にリブートしたりと、諸々の作業にかなり支障をきたした。挙げ句に、買った先から「ご購入になられてからそろそろ3年になりますが、不具合などはございませんでしょうか?」などというメールまで来る始末。3年たったら自動的に壊れるタイマーでも入っているらしい。
ただでさえ昨今のハイエンドデジタル一眼レフカメラは高価な上に製品のライフサイクルが短く、数十万円するボディもよくて3〜4年、ひどい時は2年しかもたない。減価償却する暇などまったくないまま次から次へと新機種導入を迫られる。事実、昨年ニコン「D800」から「D810」へ乗り換えたばかりだ。それに加えて三脚、カメラバッグにPCと、周辺機材の数々を、同じ時期に入れ替えるとなると、さすがにため息が止まらない。新年一発目から貧乏臭い話で恐縮だが、これも写真を生業とする人間が直面する現実の1つなのだ……。
先日アストロアーツから「デジタルカメラ 超・動物撮影術」というムック本が発売となった。ペットから野生動物まで、さまざまな動物の撮り方を解説した本となっており、私もアフリカでの作例を用いて、いろいろなシチュエーションでの撮影方法や、機材に関するページを担当している。動物写真に興味をお持ちの方に是非ご覧いただきたい。
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