「ファシリティとIT」双方のベンダーが限界突破に挑むグリーンIT次の一手

データセンターなどIT機器が集積された空間での電力消費抑制は喫緊の課題だ。ファシリティとIT双方のソリューションベンダーが稼働情報の共有によって新たな手法を生み出した。

» 2009年07月01日 10時35分 公開
[ITmedia]

ファシリティ単独ではおのずと限界

 地球温暖化対策の中で、IT関連産業は重要な役割を担っている。昨今話題のクラウドコンピューティングの進展は、ITを利用するすべてのユーザーに大きな恩恵を与えるものとして期待される。しかし同時に、集積されたサーバ、ストレージなどのIT機器が生み出す熱を密閉されたデータセンターなどの空間の中で、どのように冷却していくかという問題も、より大きなものになってきた。

 IT機器自体も電力を消費し、そこから出た熱を冷却することにも電力が必要になる。ハードウェアベンダーは製品の消費電力を抑えようとさまざまな機能改良を重ねているが、一方で、電源・空調システムなどの企画・設計から維持管理などをつかさどるファシリティソリューションベンダーも、効率的な熱対策に取り組んできた。今回は一つひとつの単体の製品として、消費電力はどれぐらいか、冷却能力はどうかといった話ではない。それらの製品が何百台、何千台と集積した環境でいかに消費電力を抑制し、効率的に運用をしていくかという課題を担ったファシリティベンダーが、どのように限界に挑んでいるかという例だ。

NTTファシリティーズ データセンター環境構築本部 小泉泰之本部長

 増加の一途をたどるデータセンターの電力消費の削減。長年の実績を持つNTTファシリティーズもこの問題に取り組んでいる企業の1つだ。同社データセンター環境構築本部の小泉泰之本部長は次のように語る。

 「当社は、データセンター内で特に電力消費の大きい空調と電源の効率化という観点から、PUE(Power Usage Effectiveness、データセンター全体の消費電力を、サーバやストレージなどのIT機器の消費電力で割った値。最も効率が良いデータセンターはPUEが1.0になる)を指標としたデータセンターのグリーン化に取り組んできました。しかし空調や電源といったファシリティ単独での省エネには自ずと限界が出てきます。サーバやストレージなどのIT機器とも連係した全体最適なアプローチにまで踏み込まなければ、抜本的な省エネ対策は見いだせないと考えていました」

サーバ、ストレージの稼働情報と連動

NTTファシリティーズ 研究開発本部 環境・エネルギー部門 植草常雄部門長

 ここでいう「サーバやストレージなどのIT機器とも連係した全体最適」とはどういうことか。

 データセンターのある空間に設置されたIT機器群は複数のラックにそれぞれ納められ稼働している。そして稼働中に熱を持ち始めるわけだが、すべてのラックが均等に温まりだし、空間の室温を上昇させているのではない。数カ所で熱源となる稼働が起こり、室温を上昇させ、しかもその熱源の場所は時間の経過によって変化する。

 ファシリティ単独の省エネの場合、熱源をセンサーでとらえて冷却するポイントを探り、どこまで冷やすかを設定するわけだが、現実にはそう簡単な話ではなかった。研究開発本部 環境・エネルギー部門長の植草常雄氏は次のように語る。

 「これまで空調機は、センサーでフロア内の温度は感知できても、その先にあるサーバやストレージがどのような稼働状態にあり、どの程度発熱しているかまでは知ることができなかった。このため温度を適正に設定できずエネルギーを浪費するケースが少なくなかったのです」

 消費電力を抑え、効率的に冷却するには熱源となるサーバやストレージの稼働状況の情報を使って冷却すべき対象とタイミングを把握することが必要となるわけである。これがIT機器とも連係した全体最適の中身である。

NTTファシリティーズ 研究開発本部 環境・エネルギー部門 藁谷至誠主幹研究員

 2008年7月、NTTファシリティーズは日立製作所との協業を発表し、互いのノウハウを駆使した新技術の共同開発に着手。翌2009年4月に完成させたのが、サーバと空調機、相互の稼働状況を統合システム運用管理「JP1」上で一元管理できる省電力運用管理基盤システムだ。

 研究開発本部 環境・エネルギー部門 主幹研究員の藁谷至誠氏は、このプロジェクトがもたらすデータセンターの省電力運用に関して次のように語る。

 「ITベンダーもファシリティベンダーも、これまでは互いの設計思想を理解し合う機会が足りませんでした。しかし今回、それぞれの運用情報を1つの画面で統合的に管理し、連係制御できる基盤ができたことで、全体最適を図るためのシナリオが次第に明確になってきました」

CO2排出量を年間約7万トン抑制

NTTファシリティーズ データセンター環境構築本部 手島周正副本部長

 この基盤システムのプロトタイプでは、NTTファシリティーズの高効率空調機「FMACS-V」と、日立の統合サービスプラットフォーム「BladeSymphony」の稼働状況をJP1で一元監視し、運用ポリシーに沿って制御する。両者から送られる温度や風量、消費電力などの情報をJP1がSNMP(簡易ネットワーク管理プロトコル)を使ってトータルに収集・管理し、設定された運用ポリシーに沿って各機器を柔軟に制御する。

  「IT機器とファシリティ、双方の運用情報を同一画面上で"見える化"できたことが最大のポイント」と前出、植草氏が語るように、エネルギー制御の運用管理においても、単一画面で一目瞭然であることは管理者にとっては非常に利便性が高い。

 また運用ポリシーに沿ったIT機器とファシリティの連係制御でも、JP1の持つ機能特性が存分に活用されている。例えば複数のサーバルームがある場合、仮想化技術などを利用して1室のサーバに負荷を集中させることで、他の部屋のサーバと空調機の運転を停止するといった運用も実現できるという。このようにIT機器との連係によって実現した全体最適という手法は、熱源に対して対応するのみの段階から、熱源のコントロールを含めたアプローチを可能にしている。

 熱源の発生する箇所までコントロールすることで、冷却、送風を極力抑えることができる。それによって空調機の消費電力は約10%削減可能と予想されている。既存のデータセンターに適用すれば、CO2排出量を年間約7万トン抑制できる計算だ。この数値は電力換算で約1.2億キロワット時、一般世帯なら約3万4000世帯が1年間に消費する電力に相当するという。

 データセンター環境構築本部 副本部長の手島周正氏は、クラウドコンピューティングへのニーズの高まりによって、仮想化技術とハードウェアの機能進化がますます進むことから、データセンタービジネスはさらに巨大化するはずだと話す。

 「そうした流れを考えれば、今後はIT資産やファシリティも含めたデータセンター全体でのコスト低減と運用の効率化が、さらに重要な課題となります。今回の基盤技術はこうしたニーズに応える強力なポテンシャルを持ったソリューションといえます」

 今回はファシリティ分野でのリーディングカンパニーがIT機器の稼働情報にまで踏み込んで、限界を突破することに成功したわけだが、今後もグリーン化の流れの中で、ファシリティとIT機器双方のベンダーの協業による新しい手法の開発は進むものと考えられる。

サーバと空調機、相互の稼働状況を統合システム運用管理「JP1」上で一元管理できる省電力運用管理基盤システム

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