日立HDD事業の買収で賭に出るWestern Digital、その狙いは

Western Digitalは日立GSTを買収し、世界のHDD市場の約50%を握ることになる。危険な賭に見えるが、Western Digitalは利益率の高い法人向け製品で勢力を伸ばすことができるだろう。

» 2011年03月08日 12時37分 公開
[Chris Preimesberger,eWEEK]
eWEEK

 既に世界第1位のHDDメーカーである米Western Digital(WD)は、3月7日に世界第3位の日立のHDD事業を43億ドルで買収すると発表し、さらなる規模拡大を図っている。

 すべての契約が完了し、財務および規制当局ですべてが正式に登録された暁には、Western Digitalは世界のHDD市場の約50%を握ることになる。非常に目覚ましい。

 しかし、これには裏話がある。NAND型フラッシュメモリを使ったSSDが急速に台頭していることを受けて、WDは、ほとんどのIT関係者が黄金期を過ぎたと考えているHDDで大きな賭に出ているようだ。

 タブレット、iOSやAndroid搭載スマートフォン、新型デジカメなどのおかげで、NANDフラッシュの出荷量は今年400%拡大する見込みだ。IntelやSamsungなどの大手はSSD開発に数十億ドルを投じており、ハードウェアにNANDフラッシュを使ったドライブを搭載する新たな企業も頻繁に現れている。

 NANDフラッシュメーカーの未来が明るいことはたやすく分かる。だが、それは必ずしも、HDDメーカーの不利益とはならない――少なくとも、近い将来は。

 おそらくWDは、見た目ほど危険な賭には出ていないのだろう。WDは創業から41年、ITの世界では悠久といっていい長さで、「地位を確立した」と言われるだけの資格はある。日立グローバルストレージテクノロジーズ(GST)の併合は、WDの歴史においては断トツで最大規模の買収だ。これだけ長い歴史を持つ企業がここまでしなかったのは、戦略的な誤りだ。

法人市場狙うWD

 では少し、表からは見えない部分を見てみよう。

 日立は消費者市場でAppleのコンピュータ、iPod、サーバ向けHDDのほとんどを製造しているが、同社のビジネスの大きな部分を占めるのは企業向けのサーバやストレージアレイだ。ストレージアレイは成長市場であり、WDがあまり勢力を持たない分野だ。

 WDは、薄利なことが多い消費者向け製品で十分に採算を取る方法を知ることで、世界ナンバー1になり、昨年ライバルのSeagateを追い抜いた。これは決してたやすいことではない。WDは、HDD事業をうまく経営する方法を知っていることを証明した。

 今回の買収で、WDは法人市場で約20%のシェアを握り、収益性を高めるチャンスを持つことになる。

 「日立GSTの買収で、WDは重要な法人向けHDDセグメントに参入できるだろう。WDは今はこの市場では小さなプレイヤーで、売り上げのほとんどはデスクトップPCやモバイルPC、セットトップボックス、ゲーム機などの消費者向け市場から得ている」とIHS iSuppliのストレージシステムアナリスト、ファン・チャン氏はメディア向け報告書で述べている。

 「法人向けHDD市場は消費者向け分野よりもかなり利益率が高く、HDD売り上げにおいて急成長市場となっている。WDはこれまで法人向けセグメントにはいないようなものだったが、日立GST買収で、この市場で競争していくのに必要な技術、製品ポートフォリオ、経験を得る」(同氏)

 日立GSTはSATAおよびSASインタフェースを採用した3.5インチ、2.5インチHDDを提供しており、これらは法人向けセグメントで広く使われている。同社はこの分野で幅広い経験があり、企業顧客の信頼を勝ち取るのに必要な実績があるとチャン氏は指摘する。

 このような利益率が注目される事業では、規模がすべてだ。そしてWDは規模を拡大している。

 「ここで重要なのは規模だ。規模の経済、研究開発の規模、ポートフォリオの規模……さて、規模のことは話したかな?」とEnterprise Strategy Groupの上級アナリスト、マーク・ピータース氏は語る。「大量の製品を扱うこのビジネスで利益を出すには、ほとんどの点で規模が必要だ」

 「ほとんど、と言ったのは、大きなライバルが1社減れば、価格攻勢が緩む可能性が出てくるからだ。Seagate(今回の買収前は出荷量において僅差で2位だった)とほかのライバル(東芝など)も、さらに競争する機会ととらえているかもしれない」

「信頼」も重要

 もう1つ重要な要素になるのが信頼だ。IT業界にはまだ、大型サーバへのSSD搭載に信頼をおいていない人が多い。彼らは、比較的安価なHDDを多数購入して、冗長化したデータセンターのHDDを必要に応じて交換することに満足している。

 HDDが今なおNANDフラッシュよりもコスト効率が高いストレージであることに疑問はない。おそらく、その状態は今後10年以上続くだろう。

 WDの買収は見た目ほど危険な賭ではないのだろうか? 確かにそうだ。HDDとSSDをめぐる議論はこの先10年以上続くだろうが、WDは今も世界の標準であるストレージメディアの市場の半分を握ることになる。

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