一方、企業が顧客ごとに最適化したマーケティング施策を行う上では、個人のプライバシー意識とどう向き合うかという課題もある。Adobeが今回発表した製品はいずれも顧客個人を特定せず、匿名で最適化を行うというものだが、ユーザーによっては「自分の行動履歴などが企業のマーケティング活動に利用されるのが気持ち悪い」という考えを持つこともあるだろう。
レンチャー氏は、「コンシューマーは自分が出す情報をコントロールしたいはずだ」としつつ、「ネット上でシグナルを出していくということは、システムの中に“預金”をしているようなもの」と話す。つまり、個人もネット上での振る舞いが企業のマーケティング活動に利用されるものだということを認識し、それによるコンテンツ最適化の利益を最大限受けていくべき――というわけだ。
もちろんユーザーとしては、コンテンツ最適化による利益を捨ててでも、とにかく自分の情報を使わないでほしい、という場合もあるだろう。同社のシャンタヌ・ナラヤンCEOも、初日の基調講演の中で「(パーソナライズを行う上では)明確にコンシューマーの承認許可を得ないとならない」と指摘している。
この課題を解決するためにAdobeが社内に置いているのが、マーケティング活動を通じて収集した個人情報の扱い方を顧客に明示する業務などを担うCPO(Chief Privacy Officer)という役職だ。同社も直販サイト「Adobe.com」内で収集したユーザーの行動履歴をターゲティング広告の配信などに利用していることから、サイト下部に「Ad Choices」というチェック項目を設け、ユーザー自身がターゲティング広告の配信有無を選択できるようにしているという。
CPOは日本では聞きなれない役職名だが、同社のCPOを務めるメメ・ヤコブ・ラスミュッセン氏によれば「米国ではCPOを設けている企業が多い」という。「広告主の企業がCPOを設けるかは会社による」ものの、顧客の個人情報を抱えやすい業界ではほとんどの企業がCPOを設置しているとのことだ。
だが今後、アクセス解析ツールなどと結び付いたデジタルマーケティング製品が普及すれば、業界を問わずユーザーの個人情報をマーケティング活動に生かそうとする企業が増えてくるのではないか。
これについてラスミュッセン氏は、今後は広告を配信する全ての企業にとって、顧客のプライバシーとどう向き合うかが重要になっていくだろうと指摘する。
「企業が顧客の情報を収集する上では、顧客に対して情報の透過性を担保し、それをどう使うかをはっきりさせることが重要」とラスミュッセン氏。企業が先進的なデジタルマーケティングを行う上では、CPOまたはそれに代わる組織を社内外に用意することが求められると述べている。
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