企業によるスマートフォンアプリの提供には多くのメリットがあるが、開発環境の特殊さが壁になりがちだ。この悩みを解決する「ハイブリッドアプリ」とは何か――。
スマートフォンの普及の勢いが止まらない。IDC Japanが3月に発表した調査結果によれば、2011年通年の国内スマートフォン出荷台数は前年比約3.6倍の2010万台に達したという。こうした中、インターネットサービスを本業としていない企業であっても、プロモーション活動などの一環としてスマートフォンアプリを提供することに注目が集まりつつある。
「スマートフォン向けネイティブアプリは、企業にとって“不動産”のようなものだ」――こう話すのは、アプリプラットフォーム事業などを手掛ける米Brightcoveのジェフ・ワトコットCMO(Chief Marketing Officer)。同氏によれば、ネイティブアプリの価値はユーザーに使ってもらうことが全てではなく、ホーム画面に“常駐”しているだけでも企業のブランド認知度向上などに役立つという。
このほか、顧客のメールアドレスを知らなくてもプッシュ通知で情報を発信できたり、各種ソーシャルメディアとの連携機能を搭載すればユーザーによる情報拡散を期待できたりと、ネイティブアプリにはWebアプリケーションとは異なる多くのメリットがある。実際、米国ではネイティブアプリに対する企業の関心が年々高まっているとワトコット氏は話す。
だが、ネイティブアプリを提供したい企業にとって課題となるのは、開発環境が通常のWeb制作などと異なる点だろう。iOS/Android向けアプリの開発では、ともに独自のスキルが必要となる。そのため、アプリのデザイナーと開発者の間に技術的な“壁”が生じやすく、開発が長期化したり高額な開発コストがかかるなどの問題があるとワトコット氏は指摘する。
そこで同氏が提案するのが「ハイブリッドアプリ」という手法である。ハイブリッドアプリは、スマートフォン標準の開発言語(iOSならObjective-C、AndroidならJava)とWebアプリケーションの標準技術(HTMLやJavaScriptなど)を「コンテナ」と呼ぶ技術で“橋渡し”するというもの。同技術の利用で、スマートフォン標準の開発言語を使うことなくネイティブアプリを作成、更新できるようになる。
ワトコット氏によれば、米Facebookや米Microsoftなどは、自社でこうしたハイブリッドアプリ開発プラットフォームを構築することで、iOS/Androidアプリの専任開発者を抱えることなくネイティブアプリの迅速な作成・更新を可能にしているという。
一般企業が使えるハイブリッドアプリの開発環境としては、従来からカナダのNitobiが公開しているオープンソースフレームワークのPhoneGapなどがあったものの、一般企業にとっては機能が複雑で使いにくかったとワトコット氏は指摘する。そこでBrightcoveが提供しているのが、プレビューを確認しながら開発を行える「ワークショップ機能」やアクセス解析ツールなどを備えた「App Cloud」だ。
App Cloudは、HTML5とCSS3、JavaScriptを使ってハイブリッドアプリを作成できるクラウドサービス。開発者はApp Cloud内でこれらの言語を使って「テンプレート」を作成しておけば、あとはコードを書くことなく、テンプレートに沿ってGUIで操作するだけでアプリを作成・更新できるという。
作成したアプリを公開できる商用版の価格は年間180万円からと、大企業向けを想定した価格設定となっている。ワトコット氏は、AppCloudの廉価版を発表する予定は「現時点ではない」としつつ、「Brightcoveの戦略としては(廉価版を出す可能性は)ある」「今後はどのような会社でもハイブリッドアプリを開発できるようにしていきたい」と話している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.