
AIが急速に業務へ普及する中で「AIの情報はどこまで信頼できるのか」という課題に向き合い、逆に苦心する企業も増えている。AIで効率化されるはずが、かえって“裏取り”のような確認作業が増え、業務効率が落ちてしまうといった声も聞こえてくるためだ。
では、IT業界で顧客向けにシステムを設計・推進・支援する立場のプロは、自身の業務の中で何に気づき、どんな対策を行っているのだろうか。1000名規模の独立系システムインテグレータ(SIer)でITインフラ・ソリューションの製品化を担うプロジェクトマネージャのK氏に、自社DXの試行錯誤から得たユーザー目線の実践知を聞いた。
「AIを使い始めたが、情報の精度が心配だ」「改善やツール選定に悩んでいる」「社内外を巻き込んでDXを推進するにはどうすればよいか」。そうした課題を抱える企業の経営層・事業責任者・担当者は、ぜひ参考にしてほしい。
DX実践前の課題
- 市場調査・情報収集に1カ月を費やしており、自社ソリューションの企画・提案スピードが上がらなかった
- AIを活用し始めたが、生成情報の「精度・信頼性」への対処に課題が残った
- 上層部承認向け製品企画書の作成を1人で担っており、情報収集から完成まで工数が重かった
DX実践後の効果
- 複数AIの組み合わせで、情報収集・整理の時間を「1カ月→半分以下」に短縮した
- AIで浮いた時間を展示会やセミナー等で得る一次情報収集に充て、情報の質と速度を両立できた
- AIと人によるフィールドワーク情報を組み合わせるサイクルを確立し、差別化した提案ができるようになった

目次
「1カ月」がすぐ消える調査タスク、大量の情報を1人で抱えるプレッシャー
関西圏に本店を構え、他エリアも含めて全国展開する中堅ITベンダー(社員数500〜1000人規模)A社。独立系SIerとして特定のベンダーに縛られることなく、幅広いプロダクト、プラットフォームに対応できる点を強みにしています。
今回取材に応じてくれたのは、同社でITインフラソリューション開発におけるプロジェクトマネージャー(PM)を務めるK氏。中途入社から3年、外部顧客向けプロジェクト推進と、AI、セキュリティ、仮想化基盤といった3つのトレンドを軸にした自社商材化という2つのミッションを兼任しています。自身は大阪エリアをベースとしながらも、都度東京エリアの上長と連携する複数拠点型のPMです。
- 情報収集と整理に時間がかかる
- 情報収集に時間をかけるほど、「付加価値を高める」ための時間を確保しにくくなる
K氏の担うミッションで大きな柱の1つが、複数のIT製品を組み合わせたソリューションを商材化することです。市場・顧客のニーズ調査、レッドオーシャン/ブルーオーシャン分析から始まり、商材としてまとめ、有望な領域でのパートナー代理店契約を結びつつ、顧客向けサービスに仕立てるまでを主体的に担います。
このプロセスに大きな壁がありました。まずは「情報収集とマーケット調査」。商品・商材化の基礎となる重要なタスクのため、このタスクに1カ月単位の期間を費やすこともあります。しかし一連の業務を1人で担うK氏にとって、情報収集に多くの時間を割くほど、商材化の生産性と付加価値を高めるための時間を確保しにくくなってしまうジレンマがありました。
続いて、商品化に向けて上層部の承認を得る「エグゼクティブレポート(企画書)の作成」も重要なミッションです。「なぜ自社がこの製品を担ぐ(他社の製品を売る)意味があるのか。会社にどんな成果をもたらすのか」について、開発部門や営業戦略部門とも事前に合意を取りながら説得力のあるレポートに仕上げ、承認を得ることで商品になります。複雑で、慎重さも要するこのフローを1人でこなすこともスピードの壁となっていました。
「週2日をマーケット調査に充てている」というK氏にとって、情報収集の効率をいかに上げるかが最重要の業務改善テーマでした。
AIが処理するのは「みんなが知っている情報」──生の情報は「人」にしか取れない
情報収集の効率化においてK氏が取り組んだプロセスは、「生成AIの特性を理解し、複数のツールを使い分ける」ことでした。
「一般情報の整理に『Microsoft Copilot』を、『ChatGPT』を使って社内の知見と結合させる工程で、情報収集と整理にかかる時間が半分以下に短縮でき、その分、より深い検証と本資料の作成のために時間を割けるようになりました。最近はエグゼクティブレポート(企画書)の作成にもAIをうまく用い、だいぶ効率化されました」(K氏)
同社では「Microsoft 365とCopilot」が全社員に展開されています。さらにK氏は社内認定メンバーとしての承認を得て「ChatGPT」の法人向けIDも使えるように動きました。
Microsoft Copilotは、情報の収集とサマリーの作成に活用します。社内の蓄積ドキュメントから正しく情報を拾い、的確にまとめる「一次処理」のためです。他方のChatGPTは「社内の知見と結合させる」ために使います。K氏は、Microsoft Copilotで社内に蓄積される情報や知見を踏まえて要点をまとめ、ChatGPTを使って社内の知見と結合させる方法によって、一般情報を超えた深い分析ができるようになったといいます。
2026年現在の生成AIはどれも同じではなく、サービスによって、あるいは契約プランやバージョンなどによって得意不得意、できること/できないことなどのいくぶんの差があります。
しかし「社内で、業務で、使えるかどうか(使ってもよいと許可されているかどうか)の壁」、(情報漏えい対策などのため)「会社が規定したツール以外の利用は厳禁」といった制限があることも日本の企業ではよく聞かれます。
以前の課題とAIの特性や機能を適切に把握した上で改善に取り組んだこと、併せて「会社のルールを厳守しつつも複数の生成AIを活用できるよう動いたプロセス」がポイントの1つです。
| 主なタスク | 導入前 | 導入後の成果 |
| 情報収集・整理の所要時間 | 1カ月かかる場合も顕在 | 半分以下 |
| 商材企画書の作成工数 | 多大(情報収集から完成・承認まで) | AIで大幅に効率化 |
| 独自・一次情報収集の注力 | 余力がなく限定的 | 定期化。週2日の調査活動日に組み込める範囲のタスクとなった |
おすすめ生成AIのセキュリティリスクとは? 企業が取るべき対策と安全な活用法を理解する
AIの活用とともに、改めて「自身が足で稼ぐ情報」の価値に気付いた
しかしK氏はAIに任せきりにはしていません。
「Webの情報は公開された情報、いわば“みんなが知っている”一般情報です。自社独自の優れたソリューション(商品)を創り出すにはそれだけではなく、『人』が改めて重要だということに気付きました。ベンダーの担当者とはできるだけ直接会い、展示会やセミナーにも頻繁に足を運んで『オフレコで話してくれる生の情報』『足で稼ぐ知られざる情報』のような情報も得てこそ成り立つのです」(K氏)
- 「自身が足で稼ぐ情報」の価値を理解する
AIが処理できるのはあくまで「多くの人が見られる、公開された情報」が基準になります。展示会やセミナーで担当者から直接聞ける話、公表前の製品ロードマップ、業界の実勢価格、噂話や実ユーザーのレビュー──こういった生の情報は、Webではなかなか手に入りません。仮に出力されたとしても「AIが“推定”して、想像で生成されたもの」はK氏が深く求めている情報ではありません。
AIで一般情報の収集負荷が下がった分、この「自身が“足で稼ぎ、手を動かさないと得られない”情報」の価値が上がり、自身にとっても、顧客にとっても極めて重要で有益な取り組みになったとK氏は語ります。
ハルシネーション対策にも「人の目と耳」が欠かせない
このため、K氏が重視するようになったのはAIのハルシネーション(もっともらしいウソ)対策です。これは「AIのミスを人間がカバーする後ろ向きの作業」ではありません。AIが下調べを瞬時に終わらせてくれるからこそ、人間は最も価値のある「質の向上」に多くのエネルギーを注げるようになったのです。
- 「質の向上」にエネルギーを注ぐ
「この“足で稼ぐ活動”は、AIのハルシネーション対策としての裏取りにも使います。例えば以前『メモリ不足による価格高騰がある。PCの価格も連動して上がる』という噂が立ったことがありました。この情報を聞いたのは噂が出たての時期でしたが、情報だけを鵜呑みにせず、ディストリビューター各社の担当者・営業担当者に直接会い、聞いて裏を取ったことが後に『信頼できる』として顧客成果に表れました」(K氏)
情報の正確性を高めるには、今も昔も、業界関係者への直接確認というフィールドワークは欠かせないとK氏は言います。「AI生成情報を起点に、人が裏取りをする」というサイクルを業務フローに組み込んだことで、「量的に効率的、質的に差別化された」情報の精度と収集スピードの両立を実現できたといいます。
「独自性」を高める──AI活用が本格化した今こそ問われる「次」の一手
生成AI活用によって定量的に得られた成果は、情報収集・整理時間の「約1か月から半分以下への圧縮」です。しかしより大きな変化は、定性的な部分にあります。
AIが一般情報の処理を担うことで、K氏は展示会・セミナーでの一次情報収集や、ベンダー担当者からのオフレコ情報といった、自分の足でしか取れない情報収集に時間を充てられるようになりました。情報の「量」「速さ」だけでなく「独自性」を高めることで、差別化したソリューションの提案が可能になったといいます。
──プロジェクトマネージャとして、同じ立場の方々へのアドバイスがあればお聞かせください。
「どのPMでも一番必要な資質はコミュニケーション力だと考えます。現代の若年層ならばチャット文化、デジタルでのやり取りのみで違和感はないと言われます。しかし決裁権を持つ経営者層から『どう言えば承認されるか』といった本音を聞き出すにはどうするか、また『個々の顧客が真に望んでいること』は対面で会わないと分からないことも多いのです」(K氏)
AIが多くの業務を担うようになるほど、人にしかできない活動の価値はかえって際立っていきます。展示会に足を運び、担当者と直接言葉を交わし、公開情報だけでは得られない現場の感触や本音をつかむ──。こうした「足で稼ぐ活動」は、一見すると古く、効率の悪い取り組みに映るかもしれません。しかし、誰もが同じAIやツールを使える時代だからこそ、そこで得られる一次情報や信頼関係が他社との差別化を生む源泉になります。
AIやツールの導入効果を急ぐあまり、人にしかできない活動への投資を後回しにしてしまう企業も少なくありません。DXの成果に焦りを感じるときほど、「人への投資を忘れない」という原則に、今一度立ち返ってみてはいかがでしょうか。
無料でIT製品選びをお手伝いします
ITセレクトではビジネスマッチングサービスである発注ナビと連携し、
IT製品探し、ITパートナー探しのご相談・ご紹介を無料で行うコンシェルジュサービスを提供しています
▼早速コンシェルジュ相談を申し込む










