整ったカラーバランスと透明感のある中明色の表現はDLPらしさと言えるかもしれない。イエローセグメントの効果も、中明色よりも明るい領域では確かに効果があるようだ。輝度の高い場面が多いビデオソースやアニメには良いかもしれないが、しかし映画にはあまり向いていない。
ホワイトセグメントやイエローセグメントを使った明色の表現は、明色における階調表現には効果が認められる。明るい肌色の表現もなかなかのものだ。しかし、深みのある赤や青などでは高い彩度があまり出ず、全体に平板な描写となる。
また輝度が低い部分の表現力は不得手で、ほとんどのシーン、ほとんどのピクセルが50%以下の輝度しかない映画ソースを楽しむには向かない。暗部のざわつきが多めで、暗部階調も潰れ気味。これならば、最近のコントラストが向上した透過型液晶プロジェクターの方が、映画を楽しむことができる。
またそれ以上に気になったのはカラーブレーキング。本機のマニュアルやWebなどでの公開情報には、カラーホイールの駆動速度が掲載されていないが、RGBセグメントが各1つずつしか配置されていないこともあり、カラーブレーキングはかなり盛大に見える。カラーブレーキングの見えやすさには個人差があるが、ここまで見える頻度が高いと、ほとんどの人が知覚できるだろう。
特に字幕など真っ白が表示されている部分は、視線を動かさなくとも頭が少し揺れた程度でカラーブレーキングが起きる。その見え方は一般的なDLPデータプロジェクターとほぼ同じと考えていい。
本機の画質調整は最低限のもので、コントラストやブライトネス、色あいなどの基本パラメータのみの調整で、RGBのゲイン7やバイアスを調整したり、あるいはホワイトセグメントの利用量を調整して白のピーク輝度と色純度、コントラスト感のバランスを取るといった調整は行えない。
また画調モードと独立してランプ光量を下げることはできず、静かな26デシベルの騒音に抑えようと思えば、選択肢はエコノミーモード(色調はシネマモードとほぼ同じで輝度が下がるのみ)しかない。明るさは家庭用としては十分以上あり、100インチ以上に投影する場合でも、エコノミーモードで特に輝度不足は感じないだろう。
特に極端な絵作りは行われていないため、さほど調整を必要とするとは思わないが、自分の環境や好みに合わせて画質を追い込もうというユーザーには向かないと心得ておきたい。本機は価格の安い低解像度のDMD素子を用いて、DLPの画質を家庭ユーザーになるべく安く届けることを意識したものだ。お手軽さが優先で、画質やカラーブレーキングの解決といった部分はやや取り残されている。
もっとも、TIによるリファレンスデザインの提供が行き届いているDLPの場合、ハイエンドのDMD素子を使えば、どのベンダーでもDLPらしい立体感溢れる映像を作れてしまう。そうした意味では、北米などで販売されている、より高解像なモデルの日本投入にも期待したいところだ。
ハイエンドモデルは2世代前のHD2を用いた製品のまま足踏みしているが、ミッドレンジのマッターホルンチップ(1024×576ピクセルのDMD)採用機である「PE7800」などもある。今後のラインナップ拡充に期待しよう。
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