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日本式コンテンツ利用への序章小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2009年04月06日 16時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

コンテンツ学会の民間審議会提言

 テレビのネット利用に関しては、もう1つの試案がある。デジタル・コンテンツ利用促進協議会とほぼ時を同じくして発足した「コンテンツ学会」では、「ネット利用調整制度に関する民間審議会」を開き、公開の場でテレビ放送のネット利用スキームを検討してきた。計4回の審議会を終え、最終提言案をとりまとめた。

 この民間審議会のそもそもは、いわゆる「ネット権」構想が出てきたときに「あれはないわー」ということで、早稲田大学大学院の境真良准教授(現 経産省商務情報政策局)を中心に立ち上げたものである。筆者も審議会のメンバーに加えていただいた。

 最初はネット権への対抗案としてスタートした民間審議会案も、おおざっぱに見れば、前出の会長・副会長試案と共通項は多い。結果的には細かい部分で補完的な構造となった。

photo ネット利用調整制度に関する民間審議会の試案

 まずコンテンツの登録は、放送法を改正して、放送局にデータベースへの登録義務を設ける。これは電波という公共財を独占的に利用して商売しているわけだから、それぐらいはやる責任があるでしょう、ということである。もっとも放送局は、自分たちの流した番組のID登録を行なうだけで、その時点で管理者(許諾者)となるわけではない。

 権利処理のための公的データベースを作るという点は同じだが、これを民間事業とし、既存のデータベースと相互接続する。これの意味するところは、税金を何兆円も大量投入して何とかセンターみたいなのを作るみたいなことはやめましょうよ、ということである。

 権利者は、1つのコンテンツに対して必ず1人の管理者(許諾者)を決める。会長・副会長試案では、この調整を法定事業者が行なうわけであるが、民間審議会案では権利者間で調整してもらうことになる。当然権利の調整が付かなかったもの、権利者が不明なものが出てくるわけだが、それらはいわゆる「経団連ルール」をもとに、コンテンツを利用する側が供託金を積む。

 この案では、利用は契約によってなされるべきという方針から、契約外の不正利用に関してはかなり厳しい制裁措置を設けている。管理者が利用差し止めができるほか、故意に不正利用を行なった者は、正常な事業によって得られたはずの10倍の損害賠償額を支払う。

 その一方でネット上における二次創作に関しては、管理者には拒否権はあるものの、特に意志表示がない場合は容認する方向をデフォルトにした。またネットビジネスは変化のスピードが速いので、5年で見直しを行なう時限立法とすることを盛り込んだ。

許諾権から報酬請求権へ

 もちろん利用するからには権利者にお金を払うのであるが、その前に誰が権利を持っているのかを探すこと、そして複数の権利者全員が納得して許諾をもらわなければ利用自体が始まらないことが、現在のネックとなっている。従って著作権法を巡る多くの試策の基本となっているのは、著作権法を契約によってバイパスし、著作物の利用を許諾権方式から、報酬請求権方式へ転換するという作戦である。

 基本的に著作権とは、権利者自身の訴えによって初めて機能する。逆に言えば、契約の中に著作権法上の権利よりも契約を優先するという条項があれば、著作権をオーバーレイすることができるわけである。

 もちろん許諾権もコンテンツの利用対価を取引として決める上で重要な権利ではある。だが時には気に入らない者には使わせないといったことすら可能になる強力な権利なので、著作者は是が非でも手放したくない部分である。従って許諾権を取り上げるというよりも、許諾を義務化するという形で納めようというわけだ。

 許諾権で何ができるのかということで昨今の大きな事件としては、作詞家の故・川内康範氏が歌手の森進一氏に楽曲を歌わせないとした「おふくろさん」騒動がある。

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