ビクタースタジオの全面協力によって生み出された「HA-MX10-B」は、一般的なコンシューマー向け製品とは異なり、ビクタースタジオの新世代リファレンス・スタジオモニター・ヘッドフォンとして開発された業務用機器である。そのためサウンド傾向も同スタジオのコントロールルーム内にあるラージモニターと統一感が図られているほか、大編成のバンドでも各楽器の音色やバランスが判断できる解像力や、プロユースならではの高耐入力、高耐久性なども考慮された造りとなっている。
ドライバーには、23マイクロメートル厚のPETフィルム素材を使った、新開発の40ミリ径の振動板をチョイスした。小型かつ密閉型のハウジングを採用しつつ音のこもりを回避するため、ハウジング内にクリアバスポートと呼ばれるユニークな構造を採用する。
ハウジング部が小さく、ボディー全体も軽いため持ち運びはかなり手軽だ。折りたたみ機構こそないが、それほどかさばる印象はない。また密閉型のハウジングを採用するため、完璧ではないものの音漏れが少なく、屋外でも活用できるのはうれしい。
ケーブルは片側入力なので、使用時にそれほどジャマに感じることははない。ちなみにケーブルは取り外しができない構造となっているが、この価格帯なら致し方ないだろう。逆にスタジオモニターとしての高耐久性と、高い耐入力性能を持ち合わせていることの方が魅力だ。人によっては(例えば筆者のような仕事上使い方の荒いタイプなどは)、こちらの方がありがたいと感じるはずだ。
カラーバリエーションはブラック1色のみとなっている。
新世代スタジオモニターにふさわしい、明瞭(めいりょう)でスピード感あふれるサウンド。なかでも分解能の高さが素晴らしい。各楽器のポジションがしっかり固定され、明確なステレオイメージをもつ立体的な演奏を存分に楽しませてくれる。音色もムダな装飾はいっさいなく、録音されたそのままが再生されているかのよう。良い意味でも悪い意味でも音楽の本質をさらけ出してくれる、そんな印象だ。いっぽうで振動板サイズに由来するものか、最低域の質感が中高域とは異なっており、音像がほんの少しぼんやりしてしまうことが残念だった。また解像度感や空間的な拡がりなど、ハイファイ系として重要視される項目に関しては疎い点も、スタジオモニターならではのキャラクターといえる。このあたりは、ユーザー次第で価値観が変わるため判断の難しいところだ。
とにもかくにも、ビクタースタジオのコントロールルームと同じ音がするスタジオモニターであることが、この製品にとって最大の魅力であろう。音楽ファンにとっては、ミュージシャンが録音時に聴いている音と同じサウンドが楽しめる、ということだけでも至上の喜びとなるはず。基本的なサウンドクオリティーの高さだけでなく、そういった付加価値的な魅力も存分にある製品といえる。
音質評価 | |
---|---|
解像度 | (粗い−−○−−きめ細かい) |
帯域幅 | (ナロー−−−○−ワイド) |
帯域バランス | (低域重視−−−○−フラット) |
音色傾向 | (ウォーム−−○−−クール) |
メーカー | 日本ビクター |
---|---|
型番 | HA-MX10-B |
型式 | 密閉ダイナミック型 |
周波数特性 | 10〜2万8000Hz |
感度(音圧レベル) | 108dB/mW |
インピーダンス | 56オーム |
ケーブル長 | 約2.5メートル |
重量 | 約260グラム |
価格 | オープン(直販価格は1万9800円) |
今回の試聴には、「iPod touch」を活用しつつもPCオーディオ環境での再生をメインとした。なぜなら、音質的だけでなくアンプ出力的にもiPod touchでは力不足となることが容易に想像できたからだ。
USB DACとして活用したのは、シンタックスジャパンから2月に発売されたRMEの新製品「babyface」。また、音質評価の基準とするリファレンス・ヘッドフォンには、シュアーの「SRH440」を使用している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR