今回は、”スマートテレビ”という言葉をもう少し整理してみよう。
この言葉は昨年から多く使われるようになり、今年1月の「2011 International CES」では、各メーカーのブースで数多く見かけるようになった。しかし、スマートテレビに対するイメージは、いまだ確定していない。この話は以前にも書いたが、いよいよスマートテレビをうたう製品が登場してもおかしくない状況になった今だからこそ、改めて復習しておきたい。
まず、スマートフォンと同じように、ネットワークサービスへアクセスするフロントエンドツールをインストール可能なアプリケーションとして利用可能にしたテレビが考えられる。前回、お話しした内容と重なるため多くは語らないが、少なくともリビングルームで映像を楽しむテレビに、そうした機能は似合わない。
映像を楽しんでいるときに、SNSのメッセージがポップアップしてほしくないというのも理由の1つだが、リビングルームのテレビがパーソナルな製品(すなわち個人と結びつけられる製品)ではないことが大きい。この点は、身に付けるように持ち歩く、スマートフォンやスマートタブレットとは違う。
もちろん、テレビに向いたサービスなら……という意見もあるだろう。それがもう1つのパターンで、代表例はGoogle TVだ。ご存じのように、Google TVはインターネット上にある動画や写真を手早く検索し、目の前のテレビで再生できる。とても手軽だし、素晴らしい製品だと想像できるが、実際にはあまり使われていない。
インターネットのコンテンツは、その大多数がインタラクティブに検索され、1つのコンテンツから別のコンテンツへと関連する情報を連鎖反応のように楽しめるよう作られている。テレビという商品の特性が、そうしたインタラクティブ性と無縁というところが問題だろう。テレビに向かい、キーボード付きリモコンでコンテンツを探して再生させるために、わざわざ最新のテレビは必要ない。手元にあるスマートフォンやタブレット、PCでやればいいし、その方がインタラクティブ性も高い。
Google TVが登場する前から、この問題に対して何ら考えられていないことを指摘してきたが、結局のところ、現在もまだ解決されていない。将来、大幅なテコ入れで位置づけが変化することはあるかもしれないが、今のままでは市場に出てきても売れないだろう。
結局のところ、”テレビをスマートフォンやスマートタブレットの映像を見せるディスプレイとして利用する”という、実にシンプルな方法が”テレビのスマート化”を果たす上でもっとも重要なことなのだ。すでに時代は動き始めている。シャープがCESで行った“手裏剣デモ”(手裏剣のようにタッチパネル上で写真などをフリックすると、それがテレビ画面に表示される)が、いよいよスマートフォンの”AQUOS PHONE”で利用可能になる。
またNTTドコモは自社のスマートフォンユーザー向けに、DLNAサーバ、コントローラ、レンダラーのいずれにもなることが可能なアプリケーションを配布しはじめている。これからはスマートフォンで見つけたコンテンツを、家庭内のLAN経由で簡単に楽しめるようになるだろう。
さて、ここで問題だ。
果たしてテレビはウェブブラウザを動かし、気に入ったウェブサービスをテレビ上で動かすためにインストール可能なアプリケーションに対応し、さらにネット上の動画コンテンツを直接再生できる必要があるだろうか?
もちろん、従来からIPTV機能として知られているものの中には、将来が有望なものもあるだろう。例えばソニーのBRAVIAシリーズに搭載されているベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「デジタルコンサート」再生機能や、欧州のテレビによくある“見逃し視聴”のアーカイブなどに素早くアクセス可能にする機能などだ。しかし、それらの機能にはインタラクティブ性を意図的に持たせていない。基本的に受け身で楽しむコンテンツの、流通経路として新たにインターネットを利用しているだけだからだ。
もっとパーソナルな、そしてインタラクティブ性の高いアプリケーションは、スマートフォンで動かす方が使いやすい。テレビはただ、ネットワーク上での接続性を高める方向に集中し、より良いネットワーク対応映像ディスプレイとして上手に機能してくれればいいのだ。
スマートフォンがデジタル世界を変える。携帯電話、パソコン、テレビ、カメラ、放送、ソーシャルメディア、書籍、映画、音楽。スマートフォンが普及を始めることで、世の中がどのように動いているのか。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークサービス、映像、音楽など、多くの業種にわたるスマートフォンの影響を読むだけで俯瞰(ふかん)できる一冊。
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