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「FLACと同様の使い勝手を目指した」、DSDのネットワーク再生を推進するバッファロー

» 2013年05月13日 16時20分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 バッファローがDSDをDLNAに準拠した方式で配信できるNASを開発し、「春のヘッドフォン祭2013」で参考展示した。DLNAのガイドラインでは対応ファイルフォーマットとしてDSDを規定していないが、どのようにしてDSDを伝送し、またユーザーにどのようなメリットがあるのか。バッファローでDSD対応NASの開発を担当した山田祐輝氏に詳しい話を聞いた。

ヘッドフォン祭で展示されたDSD対応NASの試作機(左)。バッファロー、事業統括本部ソリューション事業部開発部の山田祐輝氏(右)

 DSD(Direct Stream Digital)は、音声信号を1ビットのデジタルパルスの密度で表現する高音質フォーマット。SACDやハイレゾ音楽配信に採用され、熱心なファンが多いことでも知られるが、今のところ再生環境は限られている。それをWAVやFLACといったPCM系音源と同様、NASに蓄積してネットワークオーディオプレーヤーやAVアンプから再生できる仕組みを作ったのが、今回の骨子だ。

 山田氏はその仕組みについて、「DLNAは、HTTP(HyperText Transfer Protocol)でデータをやりとりするので、そこにDSDファイルを認識するための“拡張子”を追加しました。NASは、保存されたDSDファイルを読み込み、データベースに追加。メタデータを解析してリスト化する仕組みも備えています」と説明する。ネットワークやDLNAはあくまでパイプ(伝送路)であり、NASとプレーヤーが決められた機能を持ってさえいれば利用できる。つまり、「DLNAの対応ファイルが増えただけ、というイメージ」という。

 対応機器は、DSDとして一般的なDSF、DFF(DSDIFF)ファイルをサポートするほか、サンプリング周波数も従来の2.8MHzに加えて昨年で配信が始まった5.6MHzにも対応するなど、最新のトレンドをカバーした。また、プレーヤーが対応していれば、タブレットやスマートフォンに導入するDMC(コントローラー)アプリもそのまま利用できる可能性が高いという。「まだ検証中ですが、メーカー純正アプリについてはほぼ動作を確認しています」。

 さらに、NASが楽曲のメタデータを解析できると、曲名やアーティスト名、ジャケット写真などをプレーヤーやコントローラーに表示できるなど、使い勝手の良い環境ができあがる。「FLACと同様の使い勝手を目指しました」(山田氏)。

 もちろん、DLNAガイドラインで規定されているファイルフォーマットにDSDは含まれていないためイレギュラーな使い方ともいえるが、今後標準化を働きかける考えはあるのだろうか。「現時点では標準化までは考えていませんが、自分たちだけのものにするつもりもありません。デファクトスタンダードを目指しています」。

 実は、今回の企画は2年ほど前から検討していたという。「一部のプレーヤーメーカーさんには1年ほど前から話をしていて、半年ほど前から本格的に動き始めました」。その間、「OTOTOY」や「e-onkyo music」といったハイレゾ音源サイトにも話を聞き、「これは是非広めたい」と考えたという。

 ヘッドフォン祭では、初の対応ネットワークプレーヤーとなるスフォルツァート「DSP-03」(6月発売見込み)と組み合わせて展示とデモを行ったほか、ドイツで開催された「HIGH END 2013」ではパイオニアのAVアンプ「SC-LX86」を使用した。山田氏は多くを語らないが、昨年末に発売されたSC-LX86がDSDのネットワーク再生に対応していた理由は想像に難くない(注:パイオニアでは、今後改めて動作確認を行う予定。現状でDSDのネットワーク再生は非サポート)。

スフォルツァートの「DSP-03」は、電源部を別体とした高級ネットワークプレーヤーだ

 バッファローでは、自社製NASに順次DSD配信機能を搭載する計画で、まずヘッドフォン祭で展示したものとほぼ同デザインの製品を夏ごろに出荷するという。ただし、「まずはオーディオメーカーへの提供を優先する」ため、本格展開はその後になりそうだ。「既に5〜6社のプレーヤーメーカーにNASの試作機を提供しています。また、5月8日の技術発表後には海外メーカーを含めて複数社から問い合わせをもらっています」。

 なお、NASの容量など製品の詳細も明らかにはしていないが、放熱ファンに「日本メーカー製の大きなもの」を採用するなど、オーディオ用途にも適した仕様になるとしている。大型のファンをゆっくりと回すことで、排熱効率を維持しながら楽曲再生中のファンノイズを抑制する仕組みだ。

 「DSD再生はこれまで、リニアPCM変換やUSB DACにDoP(DSD over PCM)で送るなど、再生環境が限られていました。また“PCMのふり”をさせて伝送するDoPでは、一部でノイズが発生するケースも報告されています。対して、今回のDLNAは伝送方法も含めて“ネイティブ再生”。トラブルが起きにくいメリットがあります」と山田氏。FLACと同等の使い勝手も含め、DSDファンにとっては利便性の高いソリューションになりそうだ。

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