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» 2017年06月05日 18時13分 公開

4K/HDRプロジェクターのリファレンスにJVC「DLA-Z1」を選んだ理由――麻倉シアター大改革(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

[天野透,ITmedia]
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麻倉氏:次にJVCのDLA-Z1ですが、これがビックリ。「ついにビクターの絵作りの本物が出てきた!」という感じでした。JVCは絵作り、色作りが上手いメーカーで、気持ちよくさせる、良い心地にさせるという人間の感覚にフィットする絵を出すという点においてはピカイチなんです。ですが画質研究に対して長い蓄積があるがために、かなり過激に走ることもしばしばあります。最たるものが「フィルムモード」でしょう。

 一般的なシネマモードは見た目の映画っぽさを表現しようとしますが、テレビ・プロジェクターは光の3原色の原理に従った加法混色、つまり足したら白になります。対してフィルムは絵の具と同じ色の3原色に則った減法混色で、足したら黒になります。つまりフィルムとビデオプロジェクターの映像はは本質的に違うわけで、この矛盾をJVCはどうしても乗り越えたかったのです。減法混色の色を加法混色で出すために徹底研究し、ついにはIMAGICAと共同開発を行います。映画をフィルムプロジェクターとデジタルプロジェクターで同時投影し、絵を並べてできるだけ同じ質感になるようにプロジェクターを調整するのです。その結果できたフィルムモードは「最も映画に近い」というのがウリでした。

――何というか、もはや技術を使った哲学の領域で勝負をしているようです……

2016年12月に発売された「DLA-Z1」。価格は350万円(税別)

麻倉氏:求道精神は留まるところを知らず、さらに過激な「コダックモード」「フジモード」にまで発展します。ところが困ったことに、これだけ苦労したフィルムモードで出てきた絵は全然面白くなかったんです。全体的に沈んでいて、色の彩度感が淡く墨っぽい。もっとブライトな感じなのに、どうにもセピアっぽくなって、何だか色気がない。理屈で作った“頭の中の絵”で「確かにフィルムには近い、でも響くものがない」という状態でした。「正しい」けれど「楽しくなかった」のです。

――なんだか本末転倒ですね。僕達は感動のために映画を見るのであって、「フィルムに近い」ことは「感動のための手段」でしかないはずですから……

麻倉氏:そこでJVCはさらに一念発起します。フィルムモードはそれで置いておいて、“ビクターの絵”として本当の意味での「シネマモード」を作りました。4年ほど前からある「新・シネマモード」で、これがまた出来が非常に良いんです。階調性、色の滑らかさ、ビビットさ。解像感よりも色の良さに定評があるJVCですが、こういうものが本当の感動につながるのです。

 実は私のシアターにも「DLA-X9」があり、サブシステムとして時々使うと「これがビクターの色か!」とその都度、感動します。最近のeシフトはかなり良くなりましたが、リアル4Kではないという枷は、いわば“大リーグボール養成ギブス”状態で、JVCは強烈なハンデの中でひたすらに画作りを磨いてきたわけです。マイナス要素を補って余りある魅力が“ビクターの色”にはあった。そして、ついにリアル4K(4096×2160ピクセル)デバイスによって解放される時が来ました。これがすごかったのよ!

4K対応のD-ILAデバイス。画素ピッチはわずか3.8μm

麻倉氏:ソニーはVPL-VW1000ESからずっと4K SXRDだったので、リアル4Kの絵自体には馴染みがありました。しかしJVCのリアル4Kは超絶芳醇な色に、立体感と奥行き感が相まって、まるでギリシャ彫刻のような凛々しさと上品さに、感動性が宿ります。枷から解き放たれた時に感じた、圧倒的な情報に思わず唸ってしまいました。「これが本物のビクターの絵なのか!」

――“画質の鬼”にここまで言わせるとは……お見事です

麻倉氏:具体例を挙げましょう。2016年11月の「AVAC大商談会」で日本の一般ユーザーに初お目見えして、私の時間で毎度お馴染み「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」をかけました。マリア先生の肌色の滑らかさと階調感、粒状性のフィルム感と人物の立体感。そして遠景とのパース感。昨年秋に実地へ行ったザルツブルクのお話は以前にもしたとおりですが、映像で何百回と観て、実際にも目にしたという投影された景色は、その実まるで初めて目にする様な新鮮さというか、透明感というか、そんな生命力ともいうべきものを持っていました。

 これぞまさしく“ビクターの力”です。ソニーも大変素晴らしいですが、こちらは「元の情報に対して、なるべく足さず引かず、生成り的にそのまま出す」というモニター志向です。もちろん色々とやる技術はありますし、やろうと思えば実際できるでしょうが、それをしないのがソニー的な“正解”というわけです。対してJVCは、階調、フォーカス、立体感、いろんな価値を合計したところに新たな総合的な“絵の力”が出てくるという信念のもとに、さまざまな付加価値を付けます。こういうと「結構人工的?」と思うかもしれないですが、いえいえ、これが全然ケバくはなく、ナチュラルにして芳醇、そこに官能性やツヤがあります。

――JVCは以前にフィルムモードでソニー的アプローチを試みて、その上で「そうじゃないだろう」という答えを投げかけてきたというふうに見えます。映像の主体がどこにあるかという構図両者のスタンスの違いから見てとれますね

麻倉氏:そうしたところに魅せられて「これにしよう!」となり、3月に私のシアターへお迎えしました。最初にかけたのはやはり「サウンド・オブ・ミュージック」。「なんと色が濃いんだろう」という感動に打ちひしがれましたね。初期設定では50%になっていますが、これでもかなり濃いです。使い始めて1カ月程度で、今は30%後半くらいに濃度を落としていますが、それでもJVCならではの情報性と感動的な絵を4K HDRでしっかり出してきます。

 忘れてはいけないのがHDR。こちらもかなり感心しました。デフォルトの値も良いですが、JVCはユーザーでカスタムできる余地も結構あります。e-shift時代からMPC(Multiple Pixcell Control)という機能があり、元々精細感が高い絵はさらに精細感を上げることができました。一般的な操作として高域信号を上げますが(具体的に何の信号でしょう?)、JVCは同時に中域を下げて相対的な落差を付けます。中域まで上げてしまうと輪郭が強調されて力過剰になるところですが、ミドルを下げてハイを上げることでスッキリするのです。今回は4Kの正しいキレイな信号が入るという前提があるため、MPCなどの情報量調整はあまり効かせず、むしろ階調性や色に対して徹底する道を開いています。

 実際のところプロジェクターのHDRはテレビよりも難しいんです。ソニーはコントラストとダイナミックレンジ調整を連動させています。0から50までは全域をリニアに上げ下げし、50以上はピーク値を上げ下げします。ですが、これはHDRコンテンツに対して自由に好みの調整ができるという感じではありません。エプソンはあらかじめ数百nitsから10000nitsまで4段階くらいのダイナミックレンジ設定を作っておき、コンテンツに合わせて当てはめるという手法を取っています。確かにこれも1つの考え方です。例えばピークが1000nitsのコンテンツに10000nitsの設定で出してしまった時に、ダイナミックレンジ情報が10分の1に圧縮されてすごく暗くなります。逆に1000nitsを数百nitsの設定で出だすと情報があぶれてしまい、明るすぎて階調がトびます。このへんを設定であらかじめ合わせるわけですね。

 一方のJVCはどうしているかというと、1000nitsを中心の基本設定をして、さらにコントラストなどの調整をするという2段階構成です。いわば、ソニーとエプソンの合わせ技のようなカタチで、これはとても合理的です。

――プロジェクターにおけるHDRはまだ発展途上のように感じます。ここも各社各様の思想の違いが表れていますね

麻倉氏:このようにして私のシアターにおけるHDR時代のリファレンスプロジェクターが決まりました。

 1つ、気になる情報をお伝えしましょう。スクリーンメーカーのKIKUCHI(キクチ科学研究所)に最近行ったのですが、シアターに8K用スクリーンが登場していました。正確にはイーストンという会社が作ったもので、透過性を上げて8K解像度に耐えうるよう織りを細かくしたサウンドスクリーンです。織りの部分はOSスクリーンが担当しています。いわばオール・ジャパンですね。音を通すための微細な穴の影響でモアレが出やすいという弱点をサウンドスクリーンは抱えていますが、それも抑えてあります。これは何かというと、放送技術研究所に入っているものを民生用に出すということです。

――となると当然「いよいよプロジェクターも8Kとなる……?」という予想が立てられますね。しかも民生用で出てくるのではという期待が、否が応でも高まります。

麻倉氏:来年には左旋の8K放送が始まり、シャープがHDD内蔵の8K対応高度BSチューナーを出すというロードマップがもう確定していますから「もちろん出すよね??」というのは当然の意見でしょう。そうなるとAVラバーのサガとして「さて、8Kプロジェクターは何にしようか」と、ワサワサ妄想をし出すわけです(苦笑)

――今「やっと4K HDR時代のリファレンスを入れたゼ」っていう話をしたばかりなのに(苦笑)

麻倉氏:ちなみに技研は以前eシフトを使ったJVCの8Kプロジェクターを入れていて、今は同じくJVCのピュア8Kモデルです。

 少々話がそれましたが、私のシアターがビクタートーンによる4K HDRの感動的なシステムにアップグレードしたぞという話でした。そうこういっているとJVCがついに「Victor」(ビクター)ブランドを復活させたというニュースが飛び込んできたりもしています。ここで私から提案です。「イノベーティブなものにVictorブランドを与える」としていますが、画質やデバイスなど、本当の意味で第1号はやはりコレ(DLA-Z1)で間違いないでしょう。イノベーションを人間の感覚に寄せるという点が私は非常に素晴らしいと感じます。“ビクターのZ1”、このコには是非“Victor”のバッジを付けてあげるべきですね(断言)。

――次回は音にまつわるお話です。お楽しみに!

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