新たな付加価値と事業創造で「ダムパイプ」にはならない――NTTドコモ 辻村副社長に聞く (後編):新春インタビュー(1/3 ページ)
スマートフォンが本格普及期を迎え、タブレット市場の拡大も予想される2012年。ネットワークインフラも世代交代が進み、LTEなど次世代技術への移行が促進されるなど、まだまだ大きな変化の渦中にあるモバイルIT業界の中で、ドコモの目指す先とはどこなのか。代表取締役副社長の辻村清行氏に聞く。
スマートフォン本格普及期の到来から、タブレット市場の拡大、次世代インフラへの移行など、2012年もモバイルIT業界は大きな動きが続く。そのような中で、業界最大手であるNTTドコモはどのように考え、市場の舵取りをしていくのか。
前回に引き続き、新春特別インタビューとしてNTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏に話を聞いていく。
顕在化するスマートフォンの課題にどう向き合うか
――(聞き手:神尾寿) 2011年から始まったスマートフォンの本格普及期ですが、2012年はさらに多くの人がスマートフォンに買い換えていくはずです。この中でスマートフォンを取り巻く環境では、ネガティブな要因も顕在化してきます。
その筆頭になるのが、Androidスマートフォンで起きている「マルウェアへの不安」です。iPhoneやWindows Phoneと異なり、Androidスマートフォンではマルウェアの報告が相次いでおり、セキュリティ問題はのっぴきならないものになっています。
辻村清行氏 スマートフォンのセキュリティを確保することは、ドコモの経営課題においてもトップを占めています。極めて重要な問題だと認識しているということです。お客様に安心して使っていただく環境を、我々ドコモとしても用意していかなければなりません。
現時点では「ドコモあんしんスキャン」として、アプリの導入時などにウイルスを検出するサービスを用意していますが、これはあくまでチェックと警告を目的にしたものです。今後はさらに一歩踏み込んで、マルウェアを検出するだけでなく、駆除するサービスも用意しなければならないと考えています。
―― ドコモがマルウェアに対する防衛手段を提供していく、と。
辻村氏 それが1つ目のアプローチですね。そして、さらに今後で考えますと、(スマートフォンに関する)リテラシーがあまり高くないお客様にも安心してお使いいただく環境も作っていかなければなりません。
この取り組みとしましては、ドコモがマルウェアの心配がなく安心して使えるアプリを選別し、そこからお客様にアプリを選んでいただく仕組みを考えています。「ウォールドガーデン(壁に囲われた庭)」というと語弊がありますが、スマートフォンを初めてお使いいただく方には、ドコモが安全を確保した世界の中でご利用いただく。むろん、スマートフォンのよさは自由なところにありますので、お客様のリテラシーが向上して自ら望めば、(Androidマーケットなどから)自由にアプリを入手していただいて本来の使い方ができるようにしておきます。
―― Androidはその成り立ちもあり、iOSやWindows Phoneのような“管理による秩序と安全”が担保されていません。そこにドコモが「安全圏」を構築するわけですね。一般ユーザーからすると、安全な範囲が明確に分からないことが、スマートフォンに対する“ぼんやりとした不安”になっているわけですから、キャリアが一定の安全圏を確保することは大切と言えそうです。
辻村氏 そのとおりです。ただ、ここで気を付けなければならないのは、スマートフォンのよさを完全に損なってしまってはいけないということですね。お客様が望めば、“リスクはあるけれど、スマートフォンらしい自由な使い方”を選ぶこともできる。一方的な囲い込みにしないことが重要です。
―― セキュリティ以外の課題ですと、最近顕在化してきたものに「Googleアカウントの管理問題」があります。
これまでケータイしか使わず、PCもあまり使っていない人だと、Googleアカウントの利用や管理が大きなハードルになってしまっています。特に問題なのが、お客様がGoogleアカウントを忘れてしまった時です。従来のネットワーク暗証番号やiモード暗証番号は、本人確認が取れればドコモショップで再設定してもらえましたが、Googleアカウントを忘れてしまうとキャリアではサポートしきれない。しかもGoogleは対面サポート拠点はもちろん、電話でのサポート窓口すら用意していないので、PCが使えない人がGoogleアカウントの設定を忘れてしまうと、お手上げになってしまうわけです。この問題は今後、Androidスマートフォンのユーザーが増えるほどに深刻なものになっていくことが予想されます。
辻村氏 Googleアカウントのサポートに関しても、重要な問題として認識しています。実際、いくつかの対策を考えています。
1つは「Googleアカウントを使わない方式」でAndroidスマートフォンを使っていただくというものです。これだとGmailやGoogle MapsなどGoogleのサービスは利用できなくなってしまいますが、ドコモでもspモードメールや地図アプリなど類似のサービスは用意しています。ですから、Googleアカウントを使わないAndroidスマートフォンにも可能性があります。
―― Amazonの「Kindle Fire」がまさにその方式ですよね。Googleアカウントを使わず、Amazonアカウントで管理・運用することでシンプルで使いやすいものになっています。そういった方向性ということでしょうか。
辻村氏 1つの方向性として、(Googleアカウントの非利用は)ありだと思います。現在、その可能性について検討を進めており、2012年度の前半には実現の可否も含めて判断します。
そして、もう1つの方向性は、“Googleアカウントの取得から管理までをドコモが一括してサポートする”というものです。ドコモが現在取り組んでいるパーソナルクラウドのサービスで、お客様のGoogleアカウント情報などを管理する形でサポートするわけです。むろん、Googleアカウントやパスワード情報が漏洩したら大変なことになりますので、我々がセキュリティを担保できるドコモのクラウドを活用するわけです。
―― これからスマートフォン購入者となる一般ユーザー層にヒアリングをしますと、「キャリアショップに駆け込めば、サポートしてもらえる。助けてもらえる」ことへの期待感や重要性を痛感します。ドコモとして、そういったセーフティネットの準備を行っていく、と。
辻村氏 それは一般層にスマートフォンが広がってきたからこそ大切なことですね。いろいろな方法論があるとは思いますが、しっかりとやっていきます。
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