それは新しいカテゴリーへの挑戦――「GALAXY Note」の可能性を考える:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
Samsung電子が2011年に世界市場に投入した、5.3インチディスプレイとペン操作が特徴の「GALAXY Note」が、Xi対応スマートフォンとしてドコモからリリースされた。GALAXY Noteは、これまでのスマートフォンとは異なる新しいカテゴリーを作ろうとしている点が注目だ。
ユーザー体験が変わる「地図&ナビアプリ」
5.3インチの大型ディスプレイの効果により、“ペン以外”の部分でもGALAXY Noteは独自のユーザー体験を構築している。とりわけその変化・効果を大きく感じるのが、Google Mapsなど地図アプリの利用だろう。地図の表示エリアが大きいため自らが見やすいのはもちろんのこと、“タクシーに乗ったときに運転手に目的地を指し示す”といった用途でも使いやすい。スマートフォンとタブレットの中間サイズというメリットが、分かりやすいのが地図ともいえる。
ナビゲーションサービスではこのメリットがさらに際立つ。今回、ドコモの「地図アプリ」やナビタイムジャパンの「NAVITIME」を試してみたが、GALAXY Noteでは周辺状況やルートをつかみやすく、iPhoneなど一般的なスマートフォンで使うよりも、ナビゲーションがとても使いやすかった。GALAXY Noteのサイズとリアルタイムナビゲーションサービスは、ベストマッチと言ってもいい。
さらに相性がいいのが、クルマ向けのナビゲーションサービスだ。最近ではナビタイムジャパンの「NAVITIME ドライブサポーター」のようにスマートフォンをカーナビとして使うアプリやサービスが登場しているが、GALAXY Noteの画面は5.3インチなので、これらのサービスがとても使いやすい。むろん、運転中のスマートフォン保持や操作は違法だが、最近では“スマートフォンカーナビ”を安全に行うための車載用クレードルも登場している。
原稿執筆時点では、ナビタイムジャパンが4月10日に発売した「スマートフォンホルダー CKT-01」が「GALAXY Noteでも使用可能」(ナビタイムジャパン)とのことであり、実際に筆者の手元でも設置が確認できた。このスマートフォンホルダー CKT-01にGALAXY Noteを設置してNAVITIME ドライブサポーターを使うと、その使い勝手はまさに“通信カーナビそのもの”だ。
一方、ドコモの「ドコモ ドライブネット」は、今のところドライブネット対応クレードル (ドライブネットクレイドル 01)がGALAXY Noteのサイズに対応できていない。ドコモドライブネットは、クレードル側にGPSレシーバーやジャイロセンサー、加速度センサーなどを内蔵しており、スマートフォン単体でアプリを使うナビサービスよりも、高精度な測位・ナビができるのが特長だ。これがGALAXY Noteに対応すれば、ドコモドライブネットのサービスそれ自体の優秀さと相まって、まさに“カーナビに負けない”ナビサービスになることは容易に想像できる。ドコモにはぜひ、ドライブネットクレイドルのGALAXY Note対応を行ってもらいたいと思う。
翻ってカーナビ市場全体を見ると、地図更新やリアルタイムコンテンツの提供ニーズは高まっており、カーナビの基本ニーズが「通信(テレマティクス)型」に向かうのが自然な流れとなっている。一方で、カーナビ向けに通信料金を追加で支払うことへの抵抗感は大きく、自動車メーカーの純正カーナビを除けば、据え付け型カーナビの価格の高さも嫌忌され始めている。ここに“スマートフォンのカーナビ利用”の新たな市場が成長する可能性がある。
この潮流を踏まえてGALAXY Noteを見れば、5.3インチという画面サイズはカーナビゲーションサービスの利用には十分なサイズであり、解像度の高さや通信機能内蔵であることを鑑みれば、数十万円する据え付け型カーナビよりも、“道案内の道具”としてはむしろ高機能で便利である。筆者は今回、実際にNAVITIMEドライブサポーターとスマートフォンホルダー CKT-01を組み合わせて使ってみたが、そのユーザー体験はこれまでのスマートフォン向けカーナビのそれを大きく超えるものだった。
GALAXY Noteというと、とかく手書き入力を前提にしたPDA的な用途が注目されがちだが、地図とナビサービスの分野にも、この端末の大きな可能性があると言えるだろう。GALAXY Noteの購入を検討している人・購入した人はぜひ、地図やナビアプリを試してもらいたい。
Samsungは日本でもNoteを育てられるか?
GALAXY Note最大の課題は、同機の特長やユーザー体験に最適化されたアプリ市場の小ささだ。サムスン電子では独自マーケットの構築などを行っているが、今後iPhoneに対抗する"もうひとつのスマートフォン"となるためには、各国地域にあわせたアプリ市場の育成が必須だろう
GALAXY Noteの日本発売前から、Samsung電子は「Noteを新しいカテゴリーとして育てたい」(Samsung電子幹部)と強く主張していた。それは2月にバルセロナで開催されたMobile World Congress 2012にもよく現れており、同社は昨年までの“スペック訴求”から一転し、ブース全体でGALAXY Noteを打ちだし、Noteという新たなユーザー体験を訴求していた。単なるスペック競争から脱し、新たなユーザー体験から新市場を創出しようというアプローチは、これまでAppleが得意としてきたもの。サムスン電子もNoteで、このステージが上がったと言える。Appleのフォロワーではなく、自らが市場を創る側に回ったのだ。
むろん、創造者の道は楽ではない。Samsung電子が“Note”を新分野として成功させるには、Note向けにアプリやサービス、アクセサリー類を供給するエコシステム(経済生態系)が必要だ。すでにSペン向けのアプリ市場創出については、国内外で開発者支援の取り組みが始まっているが、今後はNoteアプリが“よく売れる”ための流通市場の整備・育成も必要だろう。ここではスマートフォンユーザー向けポータルサイト「dメニュー」で多くの国内ユーザーを持つドコモとの連携ができるかも注目すべきポイントだ。
また、GALAXY Noteは“実際に触らないと価値が分からない”製品である。単なる広告宣伝ではなく、市場創出のためのマーケティングが必要なのだ。Samsung電子では、全国150カ所以上で体験型イベント「GALAXY Note Studio」を実施し、まずはGALAXY Noteを試す場を用意する。これはNoteの市場を創るための“最初の一歩”としては有効な取り組みだ。しかし、もし中長期的にNoteというユーザー体験を日本にも根付かせたいのならば、一時的な体験型イベントに留まらず、ブランド体験の拠点となる場所の確保も必要だろう。
少し厳しい言い方もしたが、筆者は今回のGALAXY Noteについて、“iPhoneとは異なる、もう1つのスマートフォン市場”を作る可能性があると考えている。Samsung電子とドコモは短期的な販売動向だけでなく、中長期的な「新市場の創造」こそを重視してもらいたいと思う。
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