「iOS 6」で変わること/シャープ夏モデルの進化点/細分化が進むLTE定額サービス:石野純也のMobile Eye(6月11日~6月22日)(1/2 ページ)
6月11日にAppleがWWDCで「iOS 6」が発表し、マップや「Passbook」などの新機能が注目を集めた。18日にはシャープが夏モデルの詳細を説明し、新たな技術やUIが紹介された。20日にはドコモが月額4935円のXiパケット定額プランを発表。今回はこれら3つのニュースを取り上げたい。
6月11日から22日は、AppleやMicrosoftといったプラットフォーム事業者の発表が相次いだ2週間だった。日本メーカーの活躍という点では、シャープの夏モデルや、それらの端末に搭載される「Feel UX」に注目が集まった。また、20日にはドコモがXi向けの新たなパケット定額プランを導入することを明らかにしている。今回の連載では、AppleのWWDC、シャープの夏モデル発表会、ドコモの新料金プランを取り上げ、それぞれの内容を紹介するとともに、ユーザーや業界にとってどのような意味があるのかを読み解いていきたい。
「iOS 6」発表、FaceTimeの携帯網対応やPassbookは次期iPhoneへの布石?
Appleは、6月11日(現地時間)に開発者向けイベントのWWDCを米国・カリフォルニア州のサンフランシスコで開催した。キーノートスピーチには同社のティム・クックCEOをはじめとする幹部が登壇。MacBook Air/Proの新ラインアップや、Mac OS Xの新バージョン「Moutain Lion」に加え、秋に正式版が登場する「iOS 6」を披露した。モバイルという観点の連載であるため、ここではiOS 6に焦点を当てていきたい。
iOS 6には「200を超える機能が搭載される」(Senior Vice President、iOS Software、Scott Forstall氏)という。約1年ぶりとなるメジャーアップデートだけあって、内容は多岐にわたる。大幅に刷新される機能も少なくない。その中でも、ユーザーに対して最も大きな影響を与えそうなのが、マップの刷新だ。iPhone、iPadユーザーには、現在、GoogleのGoogle マップをベースにした「マップ」というアプリが内蔵されている。ただし、このマップはOSに組み込まれたもので、アップデートは個別に行われてこなかった。iPhone登場時からの変化も驚くほど少ない。このマップが、iOS 6で全面的にリニューアルされる。
地図のデータはベクター形式になり、斜めからの表示に対応。3Dボタンを押すと、立体的になり位置関係がよりつかみやすくなる。データベースの数は「1億を超える」(Forstall氏)といい、Yelpと連携。「ターン・バイ・ターン」のナビ機能を搭載し、匿名の情報をベースにした渋滞情報を表示することもできる。マップの刷新は「日本も含まれる」(Apple関係者)ため、既存のユーザーも注目しておいた方がよさそうだ。ただ、メリットばかりではない可能性がある点には注意したい。まず、データベースが変わってしまうと、今まで表示されていた情報が検索できなくなるおそれがある。従来対応していたストリートビューも、iOS 6ではなくなってしまう。地図関連の機能は、ネット企業のGoogleですら、コツコツと地道に改善を図ってきている。例えば、Androidのマップで店舗内情報を表示する「インドアグーグルマップ」は、建物の権利者と1件ずつ交渉した結果生まれたものだ。先進的なiOSだが、ことマップに関してはフォロワーの立場でもある。新しいマップアプリでこの差をどの程度埋められるのか。Appleのお手並みを拝見といったところだ。
モバイル業界のトレンドを踏まえた機能という観点で、「Passbook」も興味深い。預金通帳やクレジット帳を意味する名前が示しているように、Passbookとはクーポンや搭乗券を1つにまとめるアプリのこと。WWDCのキーノートでは、スターバックスのクーポンや、ユナイテッド航空の搭乗券などが表示するデモが行われた。Passbookは位置情報や時間とも連動し、端末に通知が現れる。現在地付近の店舗で使えるクーポンがあったり、飛行機の搭乗ゲートが変更になったりすると、その情報がプッシュで送られてくるというわけだ。既存のサービスでは、NTTドコモの「トルカ」や、おサイフケータイのクーポンに近い機能といえるだろう。
ただし、端末内のデータの読み取りはQRコードやバーコードで行う。画面にクーポンなどを表示させ、読み取り機にかざすのが基本的な使い方になる。ユーザーとサービス提供者の双方がハードウェアを用意しなければならないおサイフケータイより、ハードルが低い仕組みといえるだろう。その半面、やはりおサイフケータイや海外で始まっているNFCサービスに比べると、やはり“スマートさ”には欠ける部分がある。ユーザーエクスペリエンスを重視するAppleが投入してきた機能だけに、もしかしたら将来的なiPhoneのNFC対応をにらんだ機能なのかもしれない。これはあくまで筆者の推測に過ぎないが、iPhoneの普及台数を考えると、もし実現すれば、日本のような非接触IC決済の環境が世界的に広がる一助になることは確実だ。
キャリアにとって悩みの種になりそうなのが、「FaceTime」のモバイルネットワーク対応だ。FaceTimeはAppleが提供するテレビ電話のような機能で、現在はWi-Fi接続時にしか利用できない。これを、3GやLTEなどに開放するというのが、iOS 6でのアップデートの中身だ。ただし、Appleのサイトにはキャリアによっては利用できない注意書きがある。日本での対応は現時点では未定と考えておいた方がいいだろう。3GでのFaceTimeはネットワークに負荷がかかるうえ、時間単位の音声通話に課金しているキャリアのビジネスモデルにも影響を与えかねない。一方で、LTEなどの高速データ通信の普及にともない、IP電話アプリやメッセンジャーアプリも急速に普及している。あえてFaceTimeの接続を拒否するだけの明確な理由も、もはやなくなりつつある。次期iPhoneのLTE対応は確実視されているが、本当にそうであれば、日本でもFaceTimeを場所を選ばず自由に使えるようになっても不思議でない。
ほかにも、Facebookとの連携や、時間を指定して着信音を消す「Do Not Disturb」、Siriの強化、フォトストリームでの写真共有対応など、iOS 6にはユーザーにとって利便性の高い機能が多数搭載される。こうした改善は、いちユーザーとしても素直に歓迎したい。
ただ、キーノートを取材した限りでは、iOSの本来的な魅力であった“UIのシンプルさ”が次第に失われつつある気もした。Facebookとの連携を例に取ると、確かにあってしかるべき機能だとは思うが、その分、メニューに表示されるボタンの数が1つ増えてしまい選択のわずらわしさが生じる。また、新たなSNSが台頭するたびにOSをバージョンアップするはあまり効率的な方法とはいえないし、どうしても対応に時間がかかってしまう。「携帯電話の再発明」をうたって登場したiPhoneだが、バージョンアップを続けることで複雑さが増していることは否めない。OSの機能競争と、直感的なUIの折り合いをどうつけていくのか。今後の舵取りにも注目したい。
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