TD-LTE/FDD-LTEデュアルモードの基地局とスマホも開発――ZTEのLTE戦略:ZTEキーパーソンに聞く(3)
携帯電話やスマートフォン、ネットワークインフラを世界各国で提供する中ZTE。日本ではソフトバンクにAXGPの基地局を供給している。次世代通信サービスとして普及しつつある「LTE」を中心に、同社のネットワーク事業について聞いた。
中国の携帯電話メーカーZTEは、携帯電話やスマートフォンなどの端末に加え、基地局やコアネットワークソリューションも開発し、世界の通信事業者へ供給している。日本ではソフトバンクのみまもりケータイやスマートフォン、モバイルWi-Fiルーターなどを投入しているほか、ソフトバンクがWCP(Wireless City Planning)のMVNOとして通信サービスを提供する「AXGP」のインフラも、ZTEが開発している。ZTEは今後どのようなかじ取りでネットワーク事業を展開していくのか。日本の報道陣向けに開催したメディアツアーで、ZTE副総裁 兼 ワイヤレス製品企画部 部長、TDD製品部門 部門長のワン・ショウチェン(王守臣/Wang Shouchen)氏に話を聞いた。
LTEの主流はTD-LTEか、FDD-LTEか?
3Gの次世代に位置づけられるLTEサービスが日本、北米、欧州などで開始されており、着々とエリア化が進んでいる。中でも日本、欧州、北米の3つを「重要な市場」とワン氏は話すが、特に重視しているが日本と北米だという。「日本におけるLTE事業の投資は欧州全体を上回る。欧州のスケールはそれほど高くない」(ワン氏)
ZTEは上りと下りで異なる周波数帯域を使うFDD方式の「FDD-LTE」、上りと下りで同じ帯域を使うTDD方式の「TD-LTE」に対応する基地局を開発しており、「LTE関連の特許を35個保有している」(ワン氏)という。ワン氏は「ZTEのアドバンテージは、業界で初めてSDR(Software Definede Radio)をベースとしたプラットフォームを発表したことだ」と続ける。SDRではソフトウェアをアップデートすることで、ハードウェア(基地局装置)を変えることなくGSM、UMTS、CDMA2000、TD-SCDMA、FDD-LTE、WiMAX、TD-LTEといった複数の通信方式に対応できる。例えばこれまで3Gサービスを提供していた通信事業者は、基地局装置を変えずに3Gと4G(LTE)サービスが提供可能になる。
ZTEはFDD-LTEとTD-LTE、どちらに重きを置いているのだろうか。現時点で世界におけるLTEの主流はFDD方式であり、ZTEとしてはTD-LTEとFDD-LTEどちらの基地局も開発していく。「FDD-LTE基地局はドイツテレコムやフランステレコム、(スペインの)テレフォニカなどの通信事業者に提供している。実証実験もしており技術的な評価が高い」とワン氏は話す。ただ「TD-LTE基地局の契約数と市場シェアはZTEが世界1位」と同氏が話すように、同社のインフラに対する投資額はTD-LTEの方が大きいという。またワン氏はTD-LTEとFDD-LTEは「1つの方式には統一されない」とし、2方式が今後も共存するとの考えも示した。
世界初のTD-LTE/FDD-LTE対応基地局を開発
日本ではTD-LTEと100%互換性のあるソフトバンクのAXGP向け基地局も、ZTEが開発している。「ソフトバンクのAXGPネットワークもZTEにとって重要なビジネスだ。日本のデータサービスの成長スピードは速く、ソフトバンクのネットワークはZTEにとって世界的にも規模が大きい」とワン氏は話す。さらに、ZTEは世界初のTDD/FDDデュアルモードの基地局を、スウェーデンの通信事業者・Hi3Gに供給している(外部リンク参照)。デュアルモードにするメリットは、TD-LTEとFDD-LTE基地局を個別に建てるよりも安いこと。また基地局装置とアンテナをTD-LTEとFDD-LTEで共用できるので、「(TD-LTEとFDD-LTE)2つの基地局を設置するほどのスペースがない場所に設置しやすくなる」とワン氏は話していた。ソフトバンクモバイルは2012年末にFDD-LTEサービスの開始を予定しているが、ここでZTEのデュアルモード対応基地局が採用されるのだろうか。ワン氏は「ソフトバンクモバイルが決めることだが、選ばれるなら喜んで作りたい」と述べるに留めた。
「Grand X LTE(T82)」はTD-LTE/FDD-LTEをサポート
ネットワークだけでなく、ZTEは端末についてもTD-LTEとFDD-LTE両方をサポートしたものを開発している。同社は2011年にスウェーデンのHi3G向けにTD-LTEとFDD-LTE両対応のモバイルWi-Fiルーターを投入し、スマートフォンでは6月に発表した「Grand X LTE(T82)」がTD-LTEとFDD-LTE通信に対応している。Grand X LTEのTDD/FDD対応はQualcommのチップ「Snapdragon S4」によるところが大きく、「まずはFDD-LTE対応版を開発している」(ワン氏)という。なおLTEの周波数は国によって異なるが、周波数のサポートは「ソフトウェアで対応できる」(ワン氏)とのこと。
日本では先述のとおり、ソフトバンクモバイルが2012年内にFDD-LTEサービスの提供を予定しているほか、年内にはAXGP対応スマートフォンの投入も明言している。ワン氏は「TD-LTE対応のスマートフォンは日本で発売したい」と述べており、TDDのみ、またはTDD/FDD対応のGrand X LTEがソフトバンクから登場する可能性がある。ワン氏は「一番求められているのはスマートフォンだ。Wi-Fiルーターのみでは通信事業者はあまり収益を上げられない」とも話し、端末事業ではあらためてスマートフォンに注力する姿勢を強調した。
TD-LTE/FDD-LTE対応のデュアル端末では、ネットワークはどのように切り替えるのか。ワン氏によると、信号の強さや品質など、無線の状況を見ながら自動で切り替わるという。またユーザーにとってTD-LTEとFDD-LTEどちらで通信をしても、速度などの「差分はあまりなく、違いを意識することもあまりない」とした。
日本では2012年6月には290万契約を突破するなど好調のWiMAXも、世界的な規模はLTEほど大きくはない。「WiMAXについてはどう思うか」と問われると、ワン氏は「全体的にWiMAXへの投資は減っている。WiMAXとTD-LTEは周波数帯が同じなので、ZTEの正規のソリューションとして、WiMAXからTD-LTEに基地局をアップデート(移行)することもできる」と説明。WiMAXとTD-LTEは共存するのか、それともTD-LTEへ統合されるのかは興味深いところだ。
TD-LTEとFDD-LTEそれぞれに対応する基地局や端末、1台で2方式をカバーするハイブリッド製品を開発することで、事業者の求める通信方式に対して柔軟に対応できる。「顧客(通信事業者)へのカスタマイズ」を重んじるZTEにとって大きな強みといえるだろう。
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