堕ちたIPモバイル電話――JMネットの“闇”(1/3 ページ)

» 2004年01月23日 13時46分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 「IPモバイル電話で定額かけ放題」――。その夢のようなサービスは、“悪夢”となって終わった。

 ジャパンメディアネットワークは既報のとおり、1月19日に東京地裁へ自己破産を申請した。同社が提供をうたっていたIPモバイル電話サービス「MobdeM」は、複数ユーザーから数万円単位の初期費用を集めながら、満足なサービスを提供できないまま、終焉を迎えた。負債総額は、20億円を超える見通しだという。

 もっとも、この結末を予想していたユーザーも少なくなかったに違いない。MobdeMに対する同社の説明は、当初からつじつまの合わない点、不審な点が多かったからだ。このような画期的なサービスが「成功する」とユーザーを信じさせるには、あまりにも多くのものが欠けていた。

 同社が、どのような経緯で世間を騒がせ、一部からの強い批判をうけ、混乱のうちに市場から退場したのか。そのてん末を、もう一度確認してみたい。

Photo 同社の事務所は、西新橋にあった
Photo 現在は、このとおり閉鎖されている(文書の内容は、クリックで拡大)

説明なき発表

 ITmedia編集部がジャパンメディアネットワークの存在を知ったのは、2002年末のこと。編集部に届くニュースリリースの中の1つが、「ユーザーの携帯電話を即時に“IP電話化”して、通話料金を定額にする」という、にわかには信じがたいサービスの開始を伝えていた。

 同社の報道発表によれば、通常のPDC方式のコネクタ部に専用端末を挿すことで、「通話をVoIPとして送信できる」とのこと。これが、MobdeMである。

 しかし、そのリリースの文章は極めて短いもので、肝心の技術上の詳細は、残念ながらまったく欠落していた。そもそもPDC方式の通話が、小型の端末を介するだけでどうすればIPパケットとして伝送できるのか、判然としなかった。

 また、“定額制”の部分も疑問だった。自社網内で通話が完結する場合ならいざ知らず、ほかの通信事業者とインフラを相互接続するなら、その事業者との間で接続料(関連記事参照)が必要になる。

 ADSL事業者などが手がけるIP電話サービスでも、NTT東西地域会社、あるいは携帯キャリアとの間で接続料が発生するような通話は、当然ながら従量課金となる。「IP電話だから定額制」と言えないことは、原理として自明だ。

 編集部では、上記の疑問をさっそく電話で問い合わせたが、満足のいく説明は得られなかった。「技術上の質問は、メールで」とのことだったが、教えられたアドレスに宛てた質問に、回答のメールが返ってくることは結局なかった。

透けて見えた “話題先行”の姿勢

 しばらくして、これらの謎を解くための格好の機会がやってきた。ジャパンメディアネットワークは、製品を紹介する場として、同社内にデモルームを設置したというのだ。

 それなら、直接出向いてデモを体験しよう――。こう考えた記者は、年が明けた2003年1月8日、西新橋の第7東洋海事ビルにあった、同社デモルームを訪れた。

 ところが驚いたことに、対応に出た女性は、「事前の予約がない場合は、デモを見せられない」と、デモルームへの入室を拒否する。それまでのいきさつから、仮に予約を申請しても、受け入れられるか信じられなかった記者は、「それならしかるべき責任者に会わせてほしい」旨を告げた。

 これを受けて登場したのが、同社の業務推進部長、告原敏昭氏。同氏は、「あまり技術の秘密を明かすのは、ビジネスとして問題がある。このため、結果的に取材に応じるのを渋っていた」と説明し、写真撮影の禁止を条件に、記者をデモルームへと案内してくれた。

 ところが、である。そこで記者が見せてもらえたのは、プラスチックベースの、ごく単純なモックアップだけだったのである。“デモルームでのデモ”は、残念ながら見ることができなかった。告原氏はまた、技術上の詳細を一切明かさず、接続料の問題については「携帯キャリアと交渉中だが、難航していて困っている」とも話した。

Photo 西新橋にあったデモルーム。現在はひきはらわれて、がらんとしている
Photo 同社が配布していたパンフレット。記者が見たモックアップは、ここに写っているものと同じだ

 この際の取材で、同社が数人の体制で運営されていることが分かった。ジャパンメディアネットワークは、1998年の設立後、すぐに休眠状態に。2002年に、岩田誠一代表がこれを買収し、IPモバイル電話サービスを提供する企業として活動を再開したわけだ。

 いずれにせよ、社員が数人しかおらず、関係事業者との交渉も途中。実際に利用できる端末すら、用意できていない状況で、サービス開始をアナウンスしていたことが分かった。編集部では、少なくとも客観的に見てサービスを開始できると判断できるまで、同社に関する報道を控えることにした。

 だが、同社をめぐる騒動は拡大していくことになる。

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