視界不良に陥った「ワンセグ・モバイル」(1/2 ページ)

» 2004年05月13日 12時10分 公開
[西正,ITmedia]

 地上波デジタル放送のメリットとして散々宣伝されてきた移動受信だが、ここに来て放送局各社からはそのビジネス性を疑問視する声が出始めており、サービスの開始時期も含めてその先行きはまったく不透明になってきた。

「ワンセグ・モバイル」がなかなか始まらない事情

 地上波デジタル放送で放送局に与えられる帯域は13のセグメントに分けられる。そのうちの12セグメントは通常の放送サービスに使われる。ハイビジョン放送(HD)を行うのであれば12セグメントをまるまる使うことになるし、標準放送(SD)を行うのであれば4セグメントずつの3チャンネルが放送できる。

 残る1セグメントを使って、携帯電話などによる移動受信サービスが行われることになる。そのため、ワンセグ・モバイル(1セグメント放送)という呼ばれ方がされている。

 地上波放送がデジタル化されることによる視聴者側のメリットとしては、高画質・高音質のデジタルハイビジョン放送が視聴できること、双方向のあるデータ放送が利用できること、そして鮮明な画像で移動受信が可能になることの3点が挙げられた。

 しかしながら移動受信以外の二つのメリットについては、既にBSデジタル放送でも提供されており、加えて同放送の普及が今一つ順調でなかったこともあって、地上波デジタルならではのサービスとして、ワンセグ・モバイルが注目されるに至ったわけである。

 このワンセグ・モバイル放送が2003年12月の地上波デジタル放送の開始とともにスタートできなかったのは、画像圧縮技術に伴う特許使用料をめぐって、特許団体と日本の地上波局各社との話し合いが決着しなかったからだと言われている。

 だが、その問題も今年の3月には決着がつき、いよいよサービスが開始されるかと思ったが、そうも行かないようだ。その理由は、アナログ周波数変更対策が遅れているため、地上波デジタル放送を電波で受信できる地域が限られているからだと説明されている。

 確かに、関東地方についてはそうした説明も十分納得できる。東京タワーからの電波は東京湾に向けて発せられていると言われており、電波で受信している世帯はわずか十数万世帯でしかないからだ。残る人たちはケーブルテレビに加入することによって地上波デジタル放送を受信しているのである。このように電波受信が難しい状況では、確かに携帯電話などによる移動受信は不可能であると言わざるを得ないだろう。

 2005年になれば、電波で受信できるエリアが大幅に拡大することから、ワンセグ・モバイルも実現可能になるというのが公式説明である。しかしながら、その理屈はどこかおかしい。確かに、関東地方では電波受信が可能なエリアが限られているが、中部地方や近畿地方では、放送開始当初から電波受信が可能なエリアがかなりの広さに渡っているからだ。

 特許使用料問題がサービス開始を遅らせるネックであったとするならば、それが解決した今、中部圏、近畿圏からでもワンセグ・モバイルが開始されて然るべきはずなのである。関東圏で始められるようになるまでは、サービスが開始できないということは、いくら何もかもが東京一極集中であっても、説得力に欠けるとしか言いようがない。

広告媒体にならない可能性

 ワンセグ・モバイルがなかなかスタートできない本当の理由は、そのビジネス性が疑問視され始めたからではないかと考えられる。

 NHKの受信料の支払い義務が発生するのは、「テレビを持っている」という事実が明らかになった場合である。よく「ウチは見ていないから」と言って、受信料の支払いを拒んでいるケースを耳にするが、本当はテレビを置いているかどうかで支払い義務が発生するのであり、見ているかどうかは関係ない。

 もっとも、そのテレビも最初の一台目についての話であって、二台目以降のテレビは関係ない。携帯電話の普及により、一人暮らしの人が固定電話を持たなくなっていると伝えられている。ただ、テレビの場合には、モバイル受信が可能になったからといって、“固定テレビ”を持たなくなることは考えにくい。番組のジャンルにもよるが、やはりある程度のサイズの画面で見ないことには楽しめないものが多いからだ。

 モバイル受信が可能になったとしても、その携帯機器が一台目のテレビであるとは考えられない。となれば受信料収入に影響することはないから、NHKの場合、ワンセグ・モバイルの採算性を検討する必要はない。

 問題は、広告収入に拠っている地上波民放の方だ。ワンセグ・モバイルを始めたからといって、広告収入がアップすることはほとんど考えられないことが明らかになってきたからである。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年