視界不良に陥った「ワンセグ・モバイル」(2/2 ページ)

» 2004年05月13日 12時10分 公開
[西正,ITmedia]
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 テレビ広告費の水準を決める物差しとして視聴率が使われることが多い。それゆえ、放送局が視聴率至上主義に陥ってしまうことの善し悪しがよく議論されるが、そうは言っても他に適当な物差しが存在しない以上は視聴率に拠らざるを得ないことになる。

 当然のことながら、スポンサー各社も視聴率を物差しとして、テレビ広告費を払っている。逆に言えば、視聴率がカウントできないことになると、広告費自体を支払う側としても、いくら支払うのが適当なのかが分からないということになる。

 ワンセグ・モバイルの抱える問題は、この視聴率がカウントできないというところにある。視聴率を図るためにはテレビ受像機は、ある地域、ある場所に固定的に置かれていることが前提になる。そうした事実が改めて再認識されたのも、モバイル受信のビジネス性を検討してみた結果だから皮肉なものである。

 地上波民放の場合には、東京キー局を中心に系列ネットワークが存在するものの、一つ一つのテレビ局は原則として県域免許を与えられた別々の会社なのである。

 ワンセグ・モバイルのサービスを携帯電話で受けるとしよう。同じくTBS系の番組を見ているとしても、その視聴者がたまたま北海道に出かけていたとすれば、その携帯機器で見ているのは北海道放送の番組である。その人が翌日に沖縄まで出かけていったとすれば、そこで見ているのは琉球放送の番組である。

 つまり、携帯機器自体は持ち運びが自由であるが故に、いつ、どこで、どのテレビ放送を受信しているのか判別できないことになる。それ故に視聴率をカウントする機器とはなり得ないのだ。

2008年まではいいが……

 ワンセグ・モバイルでどのような番組を流すのか。総務省からは2008年までは現行のテレビ放送と同内容の番組を流すこと(サイマル放送)が義務づけられている。義務づけられていると言っても、放送局各社からすればありがたい義務である。ワンセグ・モバイル用に独自の番組を制作することになれば、その制作費をどこから調達するかが問われることになる。視聴率がカウントできない以上、広告収入を当てにすることは非常に難しい。

 有料放送にすることになれば、課金認証システムの構築をはじめとして、さまざまな設備投資を新たに行わなければならない。ただでさえ、デジタル化投資の重さに喘いでいる中、ワンセグ・モバイルがどの程度まで利用されるのかが見えてこない段階で、そうした投資を行うことは無謀である。

 ドラマや映画を画面の小さな携帯機器で見ようと思う視聴者はあまりいないだろう。ワンセグ・モバイルが生かされるとすれば、情報系の番組を屋外で自由自在に見られるというシーンが予想される。

 制作費のめどがつかないまま、サービスを開始してしまうことは難しい。仮に、ワンセグ・モバイルが有料でないと成り立たないビジネスであると、将来的に放送局側が判断する可能性がある場合、安易に無料広告放送をサイマルで流し始めることのリスクは大きい。有料で始めたものを無料にすることは簡単だが、無料で始めたものを有料にすることは難しいからだ。

 地上波デジタル放送の大きな目玉の一つと言われたワンセグ・モバイルだが、そう簡単にはサービスを開始できそうもないのは、公式に説明されている事情よりもむしろこうした点にあると思われる。

 携帯電話各社から見れば、新たなサービスが機器に付加されるため、サービス開始への期待は大きいと思われる。また、放送局側としても事前に散々宣伝してしまった手前、どこかの時点では始めざるを得ないだろう。

 しかし、そのタイミングは微妙に後ろ倒しになっていきそうである。地上波デジタル放送の目玉のサービスは、依然として視界不良のままだ。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク、日本総研メディア研究センター所長を経て、株式会社オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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