あの「カシャッ!」は意味なし? スマホの「シャッター音」実態に即さず、ネットに見直しを求める声

» 2026年06月15日 15時00分 公開
[金子麟太郎ITmedia]

 スマートフォンのカメラは私たちが日常的に利用しているツールの1つだ。静かなレストランや美術館、あるいはすやすやと眠る子どもやペットの愛らしい姿を撮影しようとした際、「カシャッ」という大きな電子音が鳴り響き、周囲の視線を浴びて気まずい思いをした経験はないだろうか。

 現在、SNSの「X(旧Twitter)」を中心に、このスマホカメラのシャッター音を強制する自主規制の見直しを求める声が大きく広がっている。世界的に見ても異質なこの仕様は、なぜ日本で定着し、そしてなぜ今、強く批判されているのだろうか――。

スマートフォン シャッター音 カメラ 日常的に利用するスマートフォンのカメラ機能だが日本国内のモデルはマナーモード時でも大きなシャッター音が強制的に鳴り響く仕様になっており周囲への配慮が必要な場面で気まずい思いをする利用者が少なくない(出典:過去記事)

なぜ日本のスマートフォンはシャッター音を消せないのか

 そもそも、なぜ国内向けに販売されているスマートフォンの多くはシャッター音を消すことができないのだろうか。この歴史は、2000年に発売された最初期のカメラ付き携帯電話「J-SH04」にまでさかのぼる。当時から、携帯電話のような小型カメラによる盗撮行為を防ぐ目的で、シャッター音が鳴り、利用者がオフにできない仕様が採用されていた。

スマートフォン シャッター音 カメラ 日本のスマホでシャッター音が消せない歴史は2000年発売のカメラ付き携帯電話にさかのぼり当時から小型カメラによる盗撮行為を防止する目的で利用者が音をオフにできない仕様が自主規制として採用されていたカメラ付き携帯電話「J-SH04」(出典:過去記事)

 日本においてこのシャッター音の強制は、法令や都道府県条例による法的な規制ではない。あくまで通信キャリアやメーカー間の自主規制として、20年以上にわたり慣例的に続いているものだ。大手通信キャリア各社への聞き取り調査でも、共通して「盗撮抑止やプライバシー保護を目的に、シャッター音が鳴る設定にしている」「盗撮防止が目的のため、利用者による設定変更ができない仕様にしている」という回答があった。

 各都道府県の迷惑防止条例に配慮する形で、業界全体がこの仕様を維持してきた側面が強いが、他国の事情は日本とは異なる。スマートフォンのシャッター音はオフの設定にできる国や地域が大半で、シャッター音の強制仕様が具体的に規定されているのは、事実上日本と韓国の2カ国のみ。つまり、日本市場のスマートフォンは世界標準から大きく外れたガラパゴス的な仕様ともいえる。

一般ユーザーに押し付けられる不便、噴出する不満の声

 本誌(ITmedia Mobile)が過去に実施したアンケート調査によると、「スマートフォンのカメラのシャッター音は鳴らない方がいい」との回答が全体の75%を占め、「オフの設定が欲しいか」という問いには90%が「欲しい」と回答している。実際に、飲食店での料理の撮影や、動物、子どもの寝顔の撮影など、日常生活のさまざまなシーンでシャッター音が周囲の迷惑になったり、被写体を驚かせてしまったりする実害が多数報告された。

 SNS上でも、この仕様に対する不満が見られる。「飲食店などでよく写真を撮影するが、特にトラブルになったことはない。盗撮をしているわけではないし、周囲の環境を考えるとシャッター音はできるだけ小さい方が助かる」や、「自分はシャッター音を消したい派だ。飲食店や静かな場所で大きな音が響くのは不快に感じる。観光地なら仕方がないと思えるが、シャッター音を気にしない人はスマホの設定自体にあまり関心がないのだろう」「シャッター音の強制仕様はそろそろ廃止してほしい。日本向けの端末だけこのような仕様になっているのは、あまり気持ちの良いものではない」といった実体験に基づく切実な声が多数上がっている。

 多くのユーザーは、写真を撮るという正当な目的であるにもかかわらず、大きな電子音によってまるで悪いことをしているかのような視線を浴びてしまうことに、強い違和感を抱いているのだ。

無音カメラアプリの氾濫で実質無意味化する端末の仕様

 盗撮防止という大義名分のもとに続けられている自主規制。しかし、その実効性には極めて大きな疑問符が残る。その最大の理由が、無音カメラアプリの存在だ。

 現在、Appleの「App Store」やGoogleの「Google Play」などの公式アプリストアで検索すれば、複数の無音カメラアプリが無料で配信されている。例えば、Google Playで配信されているある無音カメラアプリは1000万回以上もダウンロードされている。これらのアプリは本来、静かな場所での撮影マナーを考慮して開発されたものだが、盗撮に悪用されるケースもあり得る。

 この矛盾点について、SNS上では極めて冷静かつ的確な指摘がなされている。

 「盗撮目的であればすでに無音アプリが数多く存在するし、スマホより小型なカメラも使われるだろう。標準カメラの音が鳴る仕様になっていても盗撮が減るわけではないため無意味な機能だ」

 「標準アプリで音が鳴るよう強制しても、盗撮犯は無音アプリを使っているため全く意味を成していない。これでは正当な理由で音を消したい人が損をするだけの無駄な機能だ」

 無音カメラアプリがこれだけ手軽に入手できる現状において、純正カメラなど端末だけの仕様を変更し、シャッター音を強制しても実質的に無意味であるという認識が広まっている。

 悪意を持つ者はアプリの導入によって容易に音を消して犯行に及ぶ一方で、ルールを守って標準のカメラを使う善良な一般ユーザーだけが不便を強いられている。この極めて理不尽な構造こそが、自主規制が事実上、意味を成していない証であり、欠陥であるともいえるだろう。

変わりつつある市場環境 あの手この手でオフに切り替える人も

 こうした不満の声や市場のグローバル化を受け、日本国内でもわずかながら状況が変わりつつある。近年、スマートフォンメーカーが発売し、通信キャリアを介さずに家電量販店やECサイトで販売されるオープンマーケット版(SIMロックフリー版)のスマートフォンにおいては、シャッター音をオフにできる機種が登場し始めている。

 例えば、シャープやXiaomiなどの一部の機種では、海外展開を意識したり、設定地域を日本と韓国以外に変更したりすることで、シャッター音を消すことが可能になっている。iPhoneにおいても、韓国を除く海外地域で現地のSIMカードを使用したり、海外の通信回線に接続したりすると、OSの仕様によってシャッター音がオフになる仕組みが導入されている。

スマートフォン シャッター音 カメラ Appleのサポートページでは、iPhoneのシャッター音を調整する方法が説明されているが、日本ではシャッター音をオフにしたり音量を調整したりできない(出典:Apple公式サイト)

 日本市場で自主規制がいくら浸透しても、一部のリテラシーの高いユーザーはすでにあの手この手でシャッター音を回避しているのが実情なのだ。

 同じくシャッター音の規定が存在する韓国でも、政府機関の調査で約85%のユーザーがオフの設定が欲しいと回答しており、業界団体へ規定の見直しを働きかける動きが見られるという。

盗撮対策は必要 決して軽視できず

 盗撮という犯罪行為への対策は当然必要であり、決して軽視してはならない。しかし、実効性を伴わず、無音アプリによって容易に骨抜きにされてしまう形骸化した自主規制を、一般のユーザーにのみ強制し続けることが果たして最適解なのだろうか……。

 「スマートフォンのシャッター音について曖昧な自主規制に頼っているため、意見が対立してしまうのではないか。本格的に規制を行うのであれば明確な法律を整備すべきだ」という声もあるように、業界全体でこの問題にどう向き合うかが問われている。

 SNS上で大きく広がる見直しを求める声は、実態にそぐわなくなったルールの再考を促せるのだろうか――?

おことわり

SNS上の意見は、文脈の変わらない範囲で体裁を整えています。


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