NECは5月25日、FOMAの64Kbpsデータ通信を利用した放送局向け音声中継機「mobilestudio」を開発したと発表した。本体価格は99万円で、最少2台からシステムを構築できる。なお、カード型FOMAなどは別途用意する必要がある。
ラジオなどのライブ中継を現地から行いたい場合、いちいちアンテナを搭載した専用の放送中継車を繰り出すのでは制限も大きい。mobilestudioならば1台をスタジオに設置し、もう1台を現地に運ぶことで、レポーターの音声を中継できる。
2003年11月にドコモと文化放送が「FOMA高品位音声中継システム」の開発を発表していたが(2003年11月17日の記事参照)、その際コンセプトとして示されていた端末を実用化したもの。NECの第ニネットワークソフトウェア事業部部長、川西政朗氏は、両社からライセンス供与された技術に加え、NEC独自の音声符号化技術を組み合わせてmobilestudioを開発したと話す。
3G携帯電話の通話で利用されているオーディオコーデックのAMRは、“人間の声を拾って伝える”ことを意識して設計されている。しかし、ラジオ放送局では「単純に声だけでなく、雑踏のざわめきや周囲の物音も伝えて臨場感を持たせたい」という要望が多かった。
このためNECでは、より多くの音を拾えるAACをベースに「通信回線上で安定するようチューニングしたコーデック」(川西氏)を採用。放送に耐える品質で、かつレポーターと放送局間で掛け合いができる程度の低遅延を実現した。
「64Kbpsの回線交換だが、“FOMAのテレビ電話”ともまた異なる。テレビ電話よりも強く安定する、1ランク品質を上げた方式だ」(同)
なお、昨年11月の発表時では“パケット通信方式”と説明されていたが、通話品質が確保できないため回線交換に方向転換している。
端末側では、通信相手を互いに設定しておく必要がある。設定はルータのように、LANケーブルでPCと接続してブラウザベースで行う。通信相手を6台まで登録可能で、これが端末のスイッチの1〜6番に対応することになる。
「端末はISDNルータ(上写真参照)に電話をかけ、そこで登録された通信先かどうか認証される。この認証が通れば、両端末にIPアドレスが振り出されて2台の端末がPtoP接続される」
文化放送の佐藤重喜社長は、「この中継システムが、ラジオ中継に革命をもたらすと信じている」とコメント。会場にいた文化放送の説明員も、「アンテナを搭載した専用の中継車を用意する方式だと、車の維持費がかかる上に取材体制が大がかりになる」として、mobilestudioの可能性に期待していた。
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