韓国で最大の話題となっているのが、携帯電話の盗聴・傍受だ。8月に入り、国家情報院や情報通信部といった国家機関が盗聴をしていた事実を相次いで認めた。一般国民も対象になり得ることから韓国中に大きな波紋を広げている。
8月5日、韓国政府の国家情報院は、携帯電話などの盗聴・傍受の事実を正式に認める発表を行った。同院では「国民の政府」(金大中大統領時代)の1998年から4年間、独自に開発したシステムを利用して、一定範囲内での盗聴・傍受を行ってきたことを認めている。しかし2000年9月に携帯電話のシステムがCDMA2000にアップグレードし装備が利用できなくなったのと同時に盗聴を中断。2002年3月には通信秘密保護法が改正・施行されて国会機関の盗聴装備の国会申請が義務化されたことなどや、これ以上装備の利用が不可能だったこともあり、廃棄処分したとしている。
続く8月16日、今度は韓国政府の情報通信部が、携帯電話の盗聴・傍受は可能であると認める正式発表を行った。同部では、国家機関による傍受は可能であることを認めた上で、今後は犯罪防止や国家安保のため、社会的な合意を得た上で合法的な携帯電話の傍受が可能となるよう進めていかなければならないとしている。
情報通信部や国家情報院はこれまで、再三にわたるマスコミなどの盗聴疑惑報道に対して、「理論的には可能だが、実際に行われてはいない」という態度を貫いてきた。今回の発表はそうした態度を180度転換するものだ。国民の間に不安を広げたうえ、合法とはいえもし傍受が行われれば国民全体もその対象となりえるということで、今後議論は拡大しそうだ。
しかしなぜ今、盗聴問題が浮上してきたのだろうか。それは盗聴テープが流出してしまったことに端を発している。盗聴テープは、国家情報院の前身である安全企画部に勤務していた元職員から、その知人などを経由して、韓国民放局MBCの記者の手元に渡ったという。テープの内容は、財界トップ同士が大統領選挙の資金援助に関して話し合っているというものだ。MBCでは内容のあまりの重大さに公開の有無を検討し続けていたが、結局テープの存在を知らしめる報道を行い、国民の知るところとなった。
こうした報道がなされてからは、隠されていた事実が芋づる式に出てきた。まず盗聴は安全企画部内に結成された特殊チームが行っていたということだ。初期には政財界の会合が行れるレストランなどに機械を仕掛けたうえで特殊チームが直接盗聴を行い、その後は携帯電話の盗聴も行なわれたという。こうした証言を行ったのは、1993年から2000年までに国家情報院に勤務していた元職員だ。
盗聴事件がマスコミで大きく取り上げられると、国民の間からは批判や不安の声が集中し、政府や検察、事件の当事者たちも知らぬ顔ではいられなくなってきた。7月末には選挙資金関連の話をしていたトップの所属企業がWebサイトに謝罪文を掲載したほか、すでに企業を離れ別の職についていた当時のトップは辞職を表明。さらに元盗聴チーム長が自宅で自殺するといった事件までが起こる始末となった。
一方検察では盗聴特殊チーム長の自宅を捜査。その日のうちに274本もの盗聴テープが押収されたという。さらに8月19日には国家情報院に対する強制捜査が実施されるなど、事件の核心に迫る捜査が次々行われることで政財界に緊張感が高まっている。
韓国内でもトップクラスの優秀な人物を選抜するといわれる国家情報院は、大統領直属の国家情報機関。国家の安全保障に関わる情報法案、および犯罪捜査に関する事務を担当している。そんな政府機関が起こした不祥事に、さまざまな報道や憶測が飛び交い、国民の間には自分の携帯電話も盗聴対象となりうるのではないかという不安感や、政府に対する不信感などがつのった。
国民のそうした不安を払拭しようと、情報通信部ではCDMAで使用する暗号を改正するという方針を発表している。具体的には複製が不可能で、W-CDMAと同等の安全性を持った認証キーが端末に内蔵されるという。早ければ来年末に実用化するとの見込みだ。
今回の事件は政府が秘密裏に携帯電話の盗聴を行っていたという点に大きな問題点がある。携帯電話の技術を変えることで不安感を払拭できるのかは未知数だが、今後の顛末は政府の出方で大きく左右されることとなるだろう。
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