メゾン・ド・ヒミコ「歯磨きしながら電話してる私も、非常識ですけど」Mobile&Movie 第182回

» 2005年10月07日 15時25分 公開
[本田亜友子,ITmedia]
作品名メゾン・ド・ヒミコ
監督犬童一心
制作年・製作国2005年日本作品


 沙織は母親が数年前に亡くなって以来、1人でたくましく生きてきた女の子。家庭の事情で抱えた借金のために、昼間は塗装会社の事務員として働き、夜はコンビニでアルバイトをしていました。会社でもひたすら真面目に働いていた沙織。専務の細川は気になる存在でしたが、どうやら別の女子事務員と関係がありそうな雰囲気。あえて、距離を保つようにしていました。地味な格好で、おしゃれもほとんどしない沙織でしたが、もっとお金を稼ぐために水商売のアルバイトでもしようかと考えていました。

 そんなある日、沙織のもとに見知らぬ男が訪ねてきました。春彦と名乗るその美しい男は、なんと沙織の父親の恋人というのです。幼い頃に自分と母を捨てて、ゲイになった父親を沙織は激しく憎んでいました。父のせいで母が苦労して、早死にしたと思っており、父のことは父とも認めたくない沙織。春彦は、沙織の父とはゲイバーのママ・卑弥呼として出会い、その店の2代目を継いだこと、そして卑弥呼が重い病に倒れ、あとわずかの命であることを伝えます。さらに卑弥呼が、海の近くにゲイのための老人ホームを設立し、そこで暮らしていることを告げ、ホームを手伝いに来てほしいと頼み込んできました。

 父親に会うことを拒んだ沙織でしたが、破格のアルバイト代と、卑弥呼の遺産相続をほのめかされて、しぶしぶ引き受けることに。こうして、ゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を手伝うこになったのです。春彦に案内されホーム内に入ると、次から次へと個性的な住人が登場。沙織は不快な感情をあらわにします。父のせいでゲイ自体に嫌悪感を抱く沙織は、お金のためと自分に言い聞かせ、会社が休みの日だけそこで働き始めます。

 「メゾン・ド・ヒミコ」に通う回数が増え、住人たちとの会話が増えていく中で、沙織はゲイとして生きてきた彼らの苦悩を少しずつ知ることになります。異端として傷つけられても、明るくふるまう彼らの姿に、沙織も徐々に嫌悪感が薄れ、暖かい感情を抱くようになっていったのです。しかし、父のことはいまだ許せず、ほとんど口をきくこともないまま、時間は過ぎていきました。しかし、春彦とは奇妙な連帯感が生まれ、心を通わせるように。

 沙織が働き始めて数カ月が過ぎた夏の日、「メゾン・ド・ヒミコ」はお盆の支度に追われていました。会社もちょうどお盆休みで、朝からホームを手伝う予定でしたが、沙織の携帯電話が突然鳴ります。

 「今日? ダメです。用事あるんで」

 電話の相手は細川でした。

 「歯磨きしながら電話してる私も非常識ですけど」

 まわらない口で答える沙織。

 「盆休みにいきなり、会社に出て来いっていう専務も非常識だと思うんですけど」

 休み中の会社に呼び出されるということは、細川と2人きり。沙織は一度は断りましたが……。

 その夜、永遠に続くと思っていた穏やかな夏が、突然終わりを迎えたのでした。携帯電話で呼び出され、沙織が細川と会社にいる間に、取り返しのつかない出来事が起こってしまうのです。1人で生きてきた沙織が、やっと見つけた居心地のいい場所とは、どこだったのでしょう。

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