京都で開催されている「ケータイ国際フォーラム」に、ウィルコムの八剱洋一郎社長が登場。「『逆転戦略』の現状と今後」と題した講演で、純減傾向だったウィルコムがなぜ好調な企業へと生まれ変わることができたかを話した。
PHS業界でウィルコムの“1人勝ち”状態が続いている。しかしもともと、PHSはNTTの技術者によって作られたテクノロジーだったはず。八剱氏は「NTTという本家本元が撤退するのに、なぜウィルコムは続けられたのか?」という疑問をよくぶつけられると話す。
その答えの1つは、1970年代に宇宙に打ち上げられた無人惑星探査機「ボイジャー」とウィルコムネットワークの共通点にある――と八剱氏。
ボイジャーは当時、打ち上げてから惑星に到達するまで十何年という歳月がかかることから、完成度が比較的低いままで打ち上げに踏み切ったのだという。「ハードウェアはひとまず完成させて、ソフトウェアは打ち上げ後に完成したものをどんどん無線経由で更新する方式をとった。そして、宇宙で写真を撮影する機能などをどんどんアップデートしていった」
ウィルコムの基地局も、同様のアプローチを取っている。「我々の基地局も開発が遅れていて、1995年に開業するときソフトウェアが一部未完成だった。そこでハードとソフトを分離し、ネット経由でダウンロードできるようにした。現在ウィルコム基地局のハードウェアは第3世代目だが、ソフトウェアは第36世代目だ」
絶え間ないソフトウェア更新によって、ウィルコムの基地局はほかの事業者の基地局に比べ“スマートなアンテナ”と呼ばれるようになった。これが、結果的にコストダウンに大きく寄与している。
「ソフトウェアが当時完璧に完成していたら、分離策は取らなかったのではないか」。スタート時に正しい方針をとったことが、今日の成功の大きな要因の1つだとした。
八剱氏はまた、社長に着任した当初を振り返りながら、“個人向け音声事業”という頭の痛い問題に取り組んだと振り返る。経営陣に参画して状況を把握してみると、「法人向けデータ事業」「法人向け音声事業」「個人向けデータ事業」ともに、順調な見通しだった。ただし個人向け音声事業だけが不振で、会社全体としても「この分野は純減でも仕方ないよね」という雰囲気だったという。
「個人向け音声事業はかなり下降気味で、せっかくほかが伸びているのに(個人向け音声事業だけで)帳消しにしているような状態だった。世の中の風潮としても、『PHSで音声はないんじゃないか』と。この個人向け音声事業を、少なくともプラスマイナスゼロにしたいと考えた」
ウィルコムとして、どういうことができるか考え、打ち出したサービスが「音声定額」だ。同社が強みとするマイクロセルのネットワークなら(2005年3月の記事参照)、音声定額のネットワーク負荷にも耐えられると踏んでのことだが、これが見事に当たった。
「音声定額の広告は、5月ぐらいまでしかやっていなかった。しかしグラフを見ると、5月以降のほうが伸びが加速している」。音声定額の特徴として、自分が加入したから友人にも加入させる、という正のスパイラルが生じ、ユーザーが増えたのだろうという。
八剱氏はまた、当初は恋人同氏が音声定額を選択するケースが多いだろうと予測したと話す。「“2台買い”が多いのではと考え、Web上でも複数台数を購入できるようにして動向を観察した。するとWeb上で2台をまとめ買いするユーザーは、全体の74%に達した。それ以外ではほとんどが“1台買い”で25%。それ以外が1%という結果だった」
その後、2台買いをするユーザーの比率は下がったものの、当初は音声定額が恋人マーケットに受け入れられたのだろうとした。
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