既報の通り、ウィルコムは5月1日から音声定額プランを提供する。ウィルコム端末同士の通話、メール送受信が月額2900円固定になるほか、固定・IP電話への発信が10.5円/30秒、携帯電話への発信が13.125円/30秒と非常に安価だ。
なぜ音声通話サービスを定額で提供できるのか──ウィルコムが挙げる理由として代表的なのは「マイクロセルネットワークだから」「ITXを導入するから」というものだ。マイクロセルネットワークとはなにか、そしてなぜ定額で音声通話が提供できるのだろうか。
「音声の定額サービスを実現するためには、2つの要素が必要」とウィルコムは説明する。1つは無線容量の確保、もう1つはネットワークコストだ。
無線容量とは「電波資源をどのように使うか」。あるエリアをカバーするためには、高出力の基地局を1つ置いて、エリア内の多数のユーザーをカバーする(=マクロセル方式)方法と、出力の小さい基地局をたくさん置き、基地局がカバーするユーザーを分散させる(マイクロセル方式)方法がある。マクロセル方式は携帯電話で、マイクロセル方式はウィルコムなど、PHS事業者が採用している方法だ。
マクロセル方式では、基地局数が少なくても大勢のユーザーをカバーできる代わりに、トラフィックが集中すると、1ユーザーあたりの使える電波容量が低下してしまう。例えば携帯電話でユーザーが使える電波容量が減ると、通話品質を落として音声サービスを提供することが多い。
一方マイクロセル方式の場合は、1つあたりの基地局につながるユーザー数が少ない代わりに、常に32Kbps分の電波が保証されている。「PHSは音質がいい」のは、このためだ。しかも簡単に複数の基地局をとらえられるので、ユーザーあたりで使える電波容量も大きく、余裕がある。
しかし基地局の出力が小さいマイクロセル方式の場合、1つの基地局でカバーできるエリアが狭く、たくさんの基地局を設置しないと広いエリアをカバーできない。「電話が圏外になってしまう」ということが簡単に起こりうる。そのためウィルコムでは、基地局の数を増やし、サービスエリアを広げる努力を続けている。現在ウィルコムは、日本全国に16万の基地局を設置、人口の96%をカバーしており、来年には人口の99%まで引き上げる予定だ。
また、1基地局当たりのチャンネル数増加(=使える電波容量を増やす)も進行中だ。現在設置されている基地局の多くは1基地局あたり3チャンネルだが、10チャンネルまでカバーできる大容量基地局への交換を進めている。
もう1つの課題がネットワークコストだ。従来、ウィルコムは通信のバックボーンを2つに分け、音声は回線交換網(ISDN)、データ通信はIP網を利用していた。現在は音声もデータ通信もバックボーンをIP化し、コストを定額化している。さらに必ずNTTの回線網を通していた(=コストが発生する)点を改め、自社のIP網の中だけで完結するように、NTT交換局内へのITX(NTT地域網をバイパスする装置)の設置を進めているところだ。NTT地域網をバイパスできれば、NTTへ支払うアクセスチャージが発生しないので、コストを下げられる。ウィルコム端末同士の通話やEメールを定額で、しかも安く提供できるのはこのためだ。
現実には「5月1日のサービス開始時点では、ITXを経由するところはまだほとんどない。今年の夏からITXの設置を本格化し、来年(2006年)末にはほぼ完了するはず」(八剱氏)と話すが、「確かにスタートダッシュはリスクだが、それは織り込み済み(同氏)」とする。
今回の料金プランでも、固定電話や携帯電話にかける場合には別料金が発生する。ウィルコム端末から、固定電話や携帯電話にかける場合はネットワークをまたがって通信することになり、アクセスチャージ(ウィルコムが固定電話事業者や携帯電話事業者に支払う料金)が発生するためだ。
「携帯電話への通話料金を固定化するニーズが一番あるのは分かっているが、これは難しい。しかしIP電話についてはある程度先が見えているし、固定電話についても鋭意検討中」(八剱氏)としており、固定電話やIP電話への定額料金コース実現も、将来的には不可能ではなさそうだ。
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