「完全撤退ではない」――日本市場に足がかりを残したVodafone

» 2006年03月17日 21時13分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 既報のとおり、ソフトバンクはボーダフォンを買収すると発表した。ただし、英Vodafoneが日本市場から完全に撤退するわけではない。

 ソフトバンクと英Vodafoneは、今回の買収に合わせて戦略的提携を行い、ジョイントベンチャーの設立を検討すると発表した。これによってVodafoneは日本市場への足がかりを残し、またソフトバンクは世界に5億人いるVodafoneグループのユーザーをターゲットにしたコンテンツサービスの提供を目指す。

笑顔を見せる両社代表。左から、ボーダフォンのウィリアム・モロー社長、ソフトバンクの孫正義社長

 ジョイントベンチャー設立自体は、双方の思惑が一致した結果だとソフトバンクの孫正義社長は話す。「データおよびコンテンツの分野で、世界的なジョイントベンチャーを作れないか? と提案したところ、先方もちょうど同じことを行いたいと考えていた」

 全世界の携帯加入者約21.5億人のうち、Vodafoneグループの加入者は約5.1億人で全体の約24%を占める。ソフトバンクが影響力を持つYahoo!グループの加入者も世界に3.6億人おり、両社が協力すればこの規模のユーザーを潜在顧客として考えられるという。「ボーダフォンは、日本では1500万加入で3番手と見られるかもしれないが、世界で見ればこれだけの潜在顧客がいる」

 新たに設立する企業の詳細は現時点では固まっていないが、ソフトバンクが取り組むブロードバンド映像配信サービス「TVバンク」や、各種ゲームコンテンツを提供する事業者になる様子。ボーダフォンとして提供するコンテンツサービスには、現在ボーダフォンライブ!があるが、これを強化して世界展開するイメージのようだ。「大いなるチャンスがあると、実は目論んでいる。日本のモバイルポータルを世界のモバイルポータルにしたい」(孫氏)

激突した双方の主張

 今回の買収で、当初英Vodafoneはボーダフォンの株式をすべてソフトバンクに譲渡せず、一定の影響力を残したい考えだった。交渉の最初にVodafoneが話したのは、世界でも最も先進的なマーケットの1つである日本市場との関わりを、事業売却によって失いたくない――ということだったという。

 だがソフトバンクは、ボーダフォンの97.68%の株式を譲り受け、さらに残りの少数株主の株もTOBによって取得していく考え。これによりボーダフォン日本法人を、完全にソフトバンクの傘下に収めたい意向だった。

 交渉で意見をすり合わせるのが大変だったポイントはどこか、との質問に孫氏は「ほとんどすべての項目。非常にタフなネゴシエーションだった」と笑い、「紳士的に、そして誠心誠意、激しく交渉した」。横でこれを聞いたウィリアム・モロー社長も苦笑しながら、「この数週間は、孫さんと会っている時間が一番長かった」とコメントする、こうした調整項目の中に、互いの株式の比率が含まれていたことは想像に難くない。

 最終的には、孫氏がジョイントベンチャーを作ることでボーダフォンを説得した。「先進的なマーケットを、我々がデータサービスなどで引き続きさらに、もっと強化する。これをワールドワイドのユーザーにジョイントベンチャーを通じて提供したならば、これはVodafoneとしても『撤退』ではなくて『強化』だ」

 英Vodafoneには、米投資ファンドからも「ボーダフォンを買収したい」というオファーが来ていた(3月16日の記事参照)。だが日本でブロードバンドの実績があるソフトバンクと良好な関係を結ぶほうが、ワールドワイドの事業展開にも得策だと判断した。

 「ギリギリまで、夜を徹して行われた」交渉は、17日の記者会見の直前まで続き、その影響で会見が30分遅れるほどだった。しかし結果的に、買収総額1兆7500億円という世紀の買収案件は、双方が納得するかたちで決着した。

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