NTTドコモは10月27日、2007年3月期の中間決算を発表した(10月27日の記事参照)。業績は増収減益で、上期に当初の見込みほど端末の販売数が伸びなかったことを理由に、営業収益の通期予想を4兆7990円に下方修正したものの、通期予想に対する進捗率を見る限り、おおむね好調といって良さそうだ。
ところでこの会見は、番号ポータビリティ(MNP)が始まってから初めての中村維夫社長の会見ということもあり、列席した記者からは盛んにソフトバンクの動向や施策に対する感想、意見、対策などを問う声が上がった。ここでは中村社長の発言から興味深かったものを取り上げてみたい。
まず中村社長は「10月23日の夜からソフトバンクの孫(正義)社長には言いたい放題言われっぱなしだ」と苦笑いし、「こちらも言いたいことはいっぱいある」と話した。
孫社長が「日本の携帯電話会社は儲けすぎで、ドコモが1兆円、KDDIは5000億円も儲けを出している」と会見で話したことを引き合いに出し、「そもそも数字がいい加減だ。ドコモの営業利益は2006年3月期で8300億円、KDDIの営業利益も2006年3月期は3000億円程度。切りのいい簡単な数字でものを言うこと自体、自分の都合のいいように話を持っていきたいことの表れではないか。余りにもいい加減で憤りを覚える」(中村氏)
メリルリンチのアナリストが「日本の携帯電話事業社が番号ポータビリティの準備や対策のための投資を行ってきたため、利益率は主要先進国中で最低水準に低下している」とリポートしている新聞記事を引用して「儲けすぎ」に反論した。
また孫氏がよく「日本の携帯電話料金が世界一高い」と話すことに対しても疑問を呈した。総務省が8月1日に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査」の結果では、東京の携帯料金はロンドンやパリ、デュッセルドルフなどよりも安い場合が多く、中位の水準であることが明らかになっている。「世界一高いという根拠がどこにあるのか」とも問いたいと中村氏。
ソフトバンクがドコモの料金プランを模倣して「常に210円安い」とする「ブループラン」については、請求書の送付にかかる料金やインターネット接続サービスを利用する際の料金などを考慮すると「別に安くはない」と断言。
「ドコモでは請求書の郵送が必要ない“eビリング”を利用していただいているお客様には料金を105円引かせていただいている。しかしソフトバンクはそのような値引きはない。さらに請求書の郵送を希望する場合は105円が追加で必要になる。さらにソフトバンクではインターネット接続サービスを利用するのに“S!ベーシックパック”に申し込む必要があるが、これは315円かかる。ドコモでiモードを利用するのに必要な“iモード付加機能使用料”は210円で、ここにも105円の差がある。この時点ですでに差額はない」(中村氏)
「こんなことを言うと差額を400円にするかもしれませんが」と冗談を交えつつ、「細かな点を色々検証すると、210円しか引かないのではむしろ値上げになるのでは」との見解を示す。
月額2880円で利用可能とうたう「ゴールドプラン」については、「色々なケースがあるので一概には言えないと思うが、ドコモのもっとも標準的なユーザー像(典型的な料金プラン、通話比率、契約年数のユーザー)でシミュレーションを行ってみると、ドコモの料金プランでゴールドプランに負けるプランは1つもない」という。
「あの2つのプランに入るメリットは全くない」(中村氏)と切り捨て、「よく値下げに追随するかと質問されるが、追随するつもりは全くない」と断言した。
また、かつて立川敬二社長時代に議論が起こった、固定発携帯着の通話料金についても言及。かつては3キャリアとも3分120円だったことを振り返り、「ドコモはその後3分70円にまで値下げした。KDDIも今は3分80円程度。しかしソフトバンクはボーダフォン時代から3分120円のままだ。そういったことには一切触れず、料金が高い高いと言われるのは心外だ」とも話した。
さらに、新聞に掲載された広告を指して「こういう発表の仕方もどうかと思う。0円、0円というが、例外条件があまりにも多い。0円に魅力を感じてソフトバンクに加入したお客様は、あとで『こんなはずじゃなかった』と感じることになるのではないか。こういう(プロモーションの)やり方はフェアではないのではないかと思う」と中村氏。「『複雑怪奇な従来の料金システムをシンプルにする』と孫さんはおっしゃっていたが、ソフトバンクさんの方がよっぽど複雑だ。ソフトバンクから他社の携帯への通話料金だけを取っても、1日に4種類あって、さらに月火水、木金、土日祝と1週間で3種類も料金が変わる時間帯もある。我々の料金プランを指して複雑怪奇と言われるのもひどいという気がする」
ソフトバンクが打ち出した音声定額サービスについては、ドコモとしては慎重な姿勢を見せた。
「音声定額のつらさは、トラフィックが読みにくいところにある。音声通話を定額にすると、トラフィックは最低でも5倍くらいになると見ているが、現状ドコモが持っている周波数帯域で実現するのは難しい。どのくらいトラフィックが増えるかは精査する必要があるが、おそらく増え方はパケットを定額にした場合の比ではないはずだ。ドコモでそれ(音声定額)をやったら都会では普通の人の電話が通じなくなる可能性がある」(中村氏)
ただ、料金については、番号ポータビリティ前から下げてきており、これからもコスト削減などの努力を行って下げていくという方針を示した。「今のままでいいと言うつもりはない」(中村氏)
10月24日に始まった番号ポータビリティは「具体的な数字は言えないが、下馬評通りauが強い」と中村氏。しかしその数は「こんなものしか出てこないの?」というイメージだといい、ユーザーは冷静に判断しているとの見方を示した。
「10月24日に満を持してキャリアを変更するお客さんが結構いるのかと思っていたらそうでもなかった。土日は天候もいいようだし、何か動きがあるとすれば、家族連れなどもショップに行きやすい週末になるのではないかと見ている」(中村氏)
MNPについての所感は「MNP後初の土日となる今週末の状況を見てからにしたい」とコメントを避けた。
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