モバイルコンテンツ関連市場は1兆円規模に──モバイル・コンテンツ・フォーラム 岸原孝昌氏ワイヤレスジャパン2007 キーパーソンインタビュー(1/2 ページ)

» 2007年07月17日 19時34分 公開
[石川温,ITmedia]

 日進月歩の勢いで進化する携帯電話/PHSの機能は、同時に携帯向けのコンテンツの購入・消費や、携帯を使った商取引の拡大にもつながっている。モバイル・コンテンツ・フォーラムの調査によると、2006年のモバイルコンテンツ関連市場の規模は9285億円に達した。2007年には1兆円市場に成長すると目されている。

 そんなモバイルコンテンツの現状と今後の展望を、モバイル・コンテンツ・フォーラム事務局長の岸原孝昌氏に聞いた。

Photo モバイル・コンテンツ・フォーラム 事務局長の岸原孝昌氏

1兆円弱まで成長したモバイルコンテンツとモバイルコマースの市場

ITmedia まずはモバイルコンテンツ関連市場の近況を教えてください。

岸原孝昌氏(以下敬称略) 2006年のモバイルコンテンツ市場は3661億円、株式投資なども含めたモバイルコマース市場は5624億円で、これらを合わせたモバイルコンテンツ関連市場の規模は9285億円になりました。産業として1兆円近くなるのはかなり大きなインパクトがあると思います。2007年にはおそらく1兆円を超えてくるでしょう。

 伸び率で見るとモバイルコマースが強く、前年比138%で伸びています。コンテンツについては前年比116%となっています。

ITmedia コンテンツ市場の中でも、特に成長が著しいジャンルというのはありますか?

岸原 新しく出てきたコンテンツとしては、デコメール/デコレーションメール/アレンジメール関連と電子書籍が大きいですね。それぞれ400%ぐらいずつ伸びています。また着うたは年間で35%ぐらい伸びていますが、昨年後半からやや伸びが鈍化しつつあります。ただし着うたフルは、前年度比240%で推移しています。

 一方着メロは対前年比で約20%減となっています。コンテンツプロバイダが苦しんでいるのは、ここの売り上げが落ちているのが原因だと思われます。

ITmedia ここ最近のコンテンツ市場を概観すると、どのような特徴があるでしょうか。

岸原 コンテンツ市場全体の伸びは16%程度ありますが、これはやはり定額制ユーザーの広がりが大きいと思います。コンテンツを購入することへの抵抗がなくなりつつあるわけです。そのため、音楽のジャンルを見れば分かるとおり、「着うた」「着メロ」といったモバイル特有のコンテンツが減少傾向にあり、「着うたフル」のようなフルパッケージのコンテンツが伸びてきています。パッケージ系のコンテンツが本格的にモバイルで流通するようになってきているわけです。

 デコメールのような携帯電話特有のコンテンツも依然伸びつつありますが、これまで元のデータを切り貼りしてモバイル向けに配信していたコンテンツは、電子書籍や着うたフルのようにフルパッケージでの流通に変わってきているのが特徴です。

ITmedia フルパッケージの流通が増え始めると、これまでとは違うコンテンツプロバイダーなども盛り上がってくるのでしょうか。

岸原 コンテンツホルダーの力が強くなってきていると思います。とにかく、まずはコンテンツの品ぞろえが必要になってきているのです。着メロの時代は、JASRACなどの著作権団体と契約し、努力すれば、ほぼすべてのサイトで同じ品ぞろえを実現できていました。しかし、着うたフルのようなフルパッケージとなると、集中的に権利を管理している団体がない場合、まずコンテンツホルダーに許諾を取る作業から始めなくてはいけません。これがとても大変なのです。例えば1つの権利者/社に対し、100社以上が許諾を求めて群がっている状態となり、経済上の原理で売る方が強くなってきているわけです。

ITmedia この状態は今後も続くと予想されていますか。

岸原 音楽などを含めて品ぞろえが豊富なところが強くなってきているのは事実ですが、この状況が延々と続くかといえばそうとも言えません。確かに初期段階では権利を持っているところが強いでしょう。しかし、コンテンツホルダーがコンテンツを用意し、自ら紹介し、そのまま販売するという形態を取ると、ユーザーにそっぽを向かれてしまう可能性もあります。それではただの広告と販売を一緒にした媒体でしかないからです。これからは、コンテンツを提供するコンテンツホルダーと、コンテンツを紹介するメディア、そしてコンテンツを販売する会社がそれぞれ別になり、「本来的なメディア」としての存在価値を高める必要があると思います。

ITmedia 「本来的なメディア」にとって、必要なものとは何でしょうか。

岸原 もともとコンテンツを持っているところは、ただリアルにあるコンテンツをモバイルに流すだけでなく、モバイルからもコンテンツを新たに生み出していかなくてはいけないと思います。実際、このような動きはすでに出始めています。例えばケータイ小説の「魔法のiランド」などが挙げられるでしょう。CGMにより生まれたコンテンツが、リアルな流通で100万部売れる時代になっています。コンテンツが生み出せる環境を構築できれば、メディアとして独立できるようになると見ています。

 今後は端末からのデータのアップロード速度も高速化されていきます。音楽であれば、自分で作った曲をアップロードして投稿し、支持を受けた人がデビューする、といった環境もあり得ます。逆に何も生まれてこないメディアは、ユーザーに深く浸透していかないでしょう。

フルブラウザがコンテンツ市場にもたらす影響

ITmedia 昨今、携帯電話の標準的な機能となりつつあるフルブラウザは、コンテンツ市場にも影響がありますか?

岸原 フルブラウザはSNSの更新などで多く利用されているようです。mixiのようなサイトは、勤務中などに更新ができないので、通勤、通学の間に使われることが多いみたいですね。

 また、ニュースなどの情報系コンテンツは、PCと同様の広告モデルに引きつけられているようです。一方、着メロや着うたなどのダウンロード型のものは従来の課金モデルとして残っていくでしょう。今後、フルブラウザ搭載機が増えていくと、さらにPC型の広告モデルが浸透してくると思われます。

ITmedia すべてのコンテンツビジネスが広告モデルへの転換を求められるのでしょうか。

岸原 100万人集められるコンテンツと比べると、1万人程度しか集まらないようなコンテンツでの広告ビジネスは難しいでしょう。しかし1万人であっても、ユーザー課金型であれば、1人から300円を回収すれば、十分に採算ベースに載せられます。今後は広告ビジネスと課金ビジネスをどう両立させていくかが課題になってくるはずです。

 このような動きはテレビ局に近いと思っています。テレビ局の場合、無料の地上波放送で媒体として大きな影響力を持ち、そこから人気のあるドラマはDVDで販売し、さらに関連グッズなども販売するおちう流れがあります。

 モバイルの世界も、ユーザーを大量に集めて広告ビジネスを展開し、大きなメディアとして価値を高めたうえで、生まれ出てきたコンテンツなどを課金ビジネスとして売っていくというのが理想です。モバイル向けのコンテンツは、広告もできるし、課金もできるというのがメリットといえるでしょう。

 それからコンテンツにはコレクション性があるということが分かってきました。ユーザーには、手元に持っておきたいというニーズが確実にあります。例えばiTunes Storeなどで購入した楽曲データや着うたフルのCDをあとで購入するユーザーも少なからずいます。これはCDのアルバムジャケットなどが、パッケージでしか入手できないからではないかと思います。

 従来CDを買うという行為は、音楽を聴けるという価値の購入に加えて、ジャケットやアーティストの写真などをトータルで手に入れるという意味を持っていました。しかしデジタルデータで配信される音楽が担えるのは、聞く権利だけです。今後はさらに、ネット配信とパッケージメディアでの販売といった組み合わせも出てくるように思います。

ITmedia モバイルコンテンツがメディアとしての価値を得たとき、いままでのようなキャリア依存体質から脱却していく可能性もありますか?

岸原 コンテンツプロバイダとしては、キャリアにブランディングやプロモーションをしてもらうのはとても大きいメリットです。

 モバゲータウンや魔法のiランドのように、最近は自社ですべてをまかなえるようなところも出てきました。しかし、楽曲データなどを売ろうと思ったら、やはりキャリアと組む必要が出てきます。ほかの課金システムを導入してもできますが、そうすると購入のたびにユーザーにIDやパスワードを入力してもらう必要が出てきます。

 キャリアのプラットフォームを利用したビジネスは、これからも継続していくと思いますが、それだけでは3つのプラットフォームでしかビジネスモデルが生まれて来ません。今後携帯電話は、いろいろなメディアを融合していきます。始めにキャリアのプラットフォームありきで展開するのでは、ユーザー本意なものは作れません。

 キャリアが持っているネットワークや課金システムなど、必要なところは使わせてほしい。しかし、新たなビジネスモデルを構築できる環境を整える意味でも、オープン化できる部分は解放して行っていただきたいですね。

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