携帯販売員向けの新検定試験、“ケータイソムリエ”に実効力はあるのか神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2008年02月06日 11時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 携帯電話を買うときに、さまざまなアドバイスや手助けをしてくれるショップの販売員。彼らの「資格制度」をめぐり、携帯電話業界が揺れている。

 事の発端は、総務省が1月22日に発表した1つの方針案だ。「携帯電話サービス等の販売員等に係る検定試験に対する総務省後援の運用方針(案)」と名付けられたそれは、端的にいえば、販売員の検定試験を新たに作り、それを総務省が“後援する”というスタンスでお墨付きを与えようというもの。一部の報道機関はそれを「ケータイソムリエ」と表現し、一般メディアやネット上でも話題になった。

総務省の狙いは“公正中立”な立場の販売員を検定すること

 今回、総務省が出した検定試験の狙いは、携帯電話のサービスや料金プランが複雑化し、端末機能も高度化する中で、ユーザーと対面で接する“販売員の資質向上を図るもの”とされている。2007年に発表された「モバイルビジネス活性化プラン」の中にも販売員の資格認定試験や検定試験を検討するという項目があり、今回の方針はそれを受けたものだ。

 方針案によると、検定試験は公益法人またはそれに準ずる団体が実施し、総務省がそれを後援する形で運用される。検定の内容は、キャリアが提供する“特定のサービス”の情報や“特定の機種など”の操作に偏らず、携帯電話サービス全般の基礎的な知識を見るものになるという。また、検定合格者には定期的な再受験を科し、資格の更新が必要になる見込みだ。

 「現在でも各キャリアの販売員がサービスや端末の案内をしていますが、それは特定のキャリアの知識に限られています。(方針案の)検定試験では公正中立という観点から、個々のサービスや料金プラン、端末操作の詳しさを問うというよりも、『特定のキャリアに偏らない幅広い知識』を持っているかを検定します」(総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課)

“店長になったら維持するのが難しい”超難関なキャリアの資格制度

 総務省は今回の検定試験における大前提を「販売員の資質向上」に置いている。検定試験を後援することで、販売員のスキルを向上させて、消費者が「携帯電話サービス等の契約及び携帯電話端末等の購入に際し、正確な情報に基づく選択を可能にすること」(総務省方針案より抜粋)を目指すというのだ。

 しかし、現在の携帯電話業界では、今回の方針案にある目的や内容以上の「販売員資格制度」をキャリアが実施している。

 例えばNTTドコモでは、2001年から販売員資格制度を導入しており、現在は販売窓口担当者向けの「スキルA〜C」と、故障修理受付担当者向けの「テクノマスター認定」という資格がある。この中で最も下位にあたるスキルCは、ドコモ側が販売店に求める販売員の資格取得率が100%という基本的な知識を問うものだが、最上位のスキルAでは高度な知識と接客スキルがなければ合格できない超難関資格となっている。

 「スキルAはペーパーテストだけでなく、ロールプレイによる面接もあり、携帯電話全般に詳しい“販売のプロ”でないと取得できません。携帯電話のことが好きで、サービスや端末の情報にいつも目を光らせているような人じゃないとスキルAは取れないでしょう。

 さらに(スキルAは)一度合格した販売員でも、(ドコモショップの)店長などになって多忙になり、ちょっと油断すると2年後の再試験で不合格になってしまうこともあるという超難関資格です。はっきりいって、ドコモの正社員でもスキルAに合格できない人はいるでしょうね」(販売会社幹部)

 また、総務省は「キャリアの資格制度では、そのキャリアの知識しか判定できない」(総務省担当者)としているが、実際にスキルAを持つ販売員はそれを一笑に付す。

 「スキルAのロールプレイ試験では、他キャリアを検討されているお客様に相対するというシナリオが用意されています。これは他社のサービスや料金、端末にかなり詳しくなければ合格できない内容なのです」(スキルA資格を持つドコモショップ販売員)

 ドコモ以外のキャリアでも、資格制度はしっかりと運営されている。例えばKDDI(au)では、2002年から販売員資格制度を導入、現在は知識を審査する「プロスタッフ」、接客スキルを検定する「ハートフルスタッフ」、そして基本的な知識・接客能力を認定する「マナースタッフ」の3つがある。また、ソフトバンクモバイルも旧J-フォン時代から販売員資格制度を導入しており、現在は「CA(チーフアドバイザー)」、「SA(シニアアドバイザー)」、「JA(ジュニアアドバイザー)」の順に知識や接客能力を検定している。

 さらに各キャリアの取り組みは、資格制度を用意しているだけではない。それぞれの有資格者に対して、販売会社に「支援金」という形で資格手当を支払っている。例えばドコモでは、有資格者1人あたり最大5万円/月の支援金を販売会社に支払い、「お客様の窓口となるドコモショップで、スキルの高い販売員が増えるように支援している」(ドコモ幹部)という。ドコモ以外の各キャリアも同様に、有資格者の数に対して支援金を出すことで、スキルの高い販売員を育成するよう販売会社に要請しているのだ。

 「各キャリアは資格試験を実施するだけでなく、定期的に販売員向けの講習会を開催しています。我々販売会社は、ローテーションを組んでスタッフをこの講習会に参加させている。むろん、講習会に参加するための交通費や、その日の給料も負担しているのです。販売員の資質向上のために負担しているコストは、キャリアと販売会社ともに小さくないのです」(販売会社幹部)

NTTドコモの販売員資格制度
資格名称 支援金(資格手当)/月 一時金 有効期限等
スキルA 3万円(2年以下) 4万円(2〜4年) 5万円(4年超) 3万円 2年
スキルB 2万円(2年以下) 3万円(2年超) 2万円 2年
スキルC 1万円 2万円 2年
テクノマスター認定 3万円 3万円

auの販売員資格制度
資格名称 支援金(資格手当)/月 一時金 有効期限等
プロスタッフ 2万円 1年
ハートフルスタッフ 2万円 2年
マナースタッフ

ソフトバンクモバイルの販売員資格制度
資格名称 支援金(資格手当)/月 一時金 有効期限等
CA(チーフアドバイザー) 5万円 1年
SA(シニアアドバイザー) 1万8000円 1年
JA(ジュニアアドバイザー) 7000円 1年
※関東での各キャリア資格制度の状況について、筆者が独自調査

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