ITmedia 静電容量方式のタッチパネルのお話を伺いたいのですが、せっかくですからその仕組みから教えてください。
前田氏 静電容量方式は、指と回路基板上の導体の間でいわゆるコンデンサを形成するんです。タッチパネル自体は導体と絶縁体でできていて、そこに導体である指が触れると絶縁体が静電容量を持ちます。それを検知するんですね。
ITmedia でも、指を通して流れる電気なんて、ものすごく微弱ですよね。
前田氏 そうです。特に携帯電話は難しいですね。液晶パネルからノイズが出るので、検出がすごく難しいんです。ノートPCだと“何もないところに落ちている針を探すようなもの”なのでいいのですが、携帯は液晶からノイズが出ているので、“砂の中で針を探す”ようなものなんです。その中で、とても小さな信号を検出しなければならないですから。
ITmedia どうやって解決を?
前田氏 実はプラダケータイのときは、ノイズの少ない液晶なので比較的楽でした。実際には、どうやって物理現象を解析し、それをファームウェアに入れて安定して動かせるかが大変です。
ITmedia 実際に指の位置を検知するために、細かいマトリクス状のパターンを使っているのでしょうか?
前田氏 実はセンサーの形はダイヤモンド型なんです。接点は15×12で180個くらいですね
ITmedia そんなに少なくて済むんですか?
前田氏 これがPC用タッチパッドの実物です(写真)。接点は大きめですが、指で触ったとき複数の接点で検知することで細かい場所が分かるんです。斜め方向にも検知しますから。結果的に1000dpi(1インチあたり1000ドットの分解能)くらいの精度が得られます。
ITmedia それは予想以上でした。
前田氏 回路基板の接点数より高い精度で分かるんですよ。その検出の仕方がシナプティクスの特許です。
ITmedia これをどうすると透明になって、液晶パネルに張り付けられるようになるのでしょう?
前田氏 PCのタッチパッドは接点のパターンを銅で作っていますが、液晶パネルに重ねる透明のものはITO(酸化インジウムスズ)という透明な導電体を使ってます。それを透明な絶縁体のPET(合成樹脂の一種。ペットボトルのペット)やガラスに入れて厚みを調整してやると、ちょうど見えなくなるところがあるんです。上手くやらないと内部のダイヤモンドみたいなパターンが見えてしまうので、この厚みの調整が難しいんですが、そのあたりのノウハウが当社にはありますから。
ITmedia 表面にはPETやガラスが使われているんですね。
前田氏 SH906iにはPETを使ってます。現在はガラスを使った製品を開発中です。
ITmedia かつて、タッチパネル付きの液晶というと、どうしても“ディスプレイがちょっと暗くなる”というイメージがあったのですが、最近はそんなことを感じなくなってきました。どのくらいまで透明になってるんでしょう。
前田氏 液晶から出る光を100だとすると、PETで88%くらい、ガラスだと92〜93%くらいですね。ガラスの方がきれいに見えます。
ITmedia もう1つ伺いたかったのが、距離です。コンデンサを形成するとなると、導体(指)と絶縁体(タッチパネル表面)の距離が重要になりますよね。実際、静電容量方式のタッチパッドは指で触らないとダメだけれども、表面に保護フィルムを貼ったり、薄い手袋をするくらいなら検知します。これはそのようにチューニングしてるのでしょうか?
前田氏 そうですね。開発時に“どういう人が、どう使うか”を想定して感度を設定していきます。難しいのは、全面が同じように動くようにできるかどうかですね。「中央部はうまくいくが端はダメ」というのでは困りますから。うまく調整すれば、例えば“手を近づけるだけでスイッチが入る”ような製品も作れます。
タッチパネルがトレンドになっているとはいえ、それは“搭載すればいい”というものではなく、最終的に重要になるのは、“タッチパネルを使って何をどうするか”という点だ。
前田氏は「携帯電話は今後も多機能化が進み、そうなればなるほど操作が簡単じゃないと使ってもらえない。そこでタッチパネルの出番です」と話す。確かに、「画面に表示されているものに直接指で触れる」というインタフェースは、うまく作れば直感的で分かりやすい操作を実現できる。少なくとも、カーソルキーでメニューを動かして選ぶよりはずっとダイレクトだ。
シナプティクスは、製品開発時に端末メーカーと一緒に「その端末をどんなお客さんが使って、どんなことをするのか」という観点でコンサルティングに近いことまでやっているという。
例えば静電容量方式は2本指も感知できるが、実際に2本指を使わせるかどうかは、その端末のコンセプト次第なのだ。ドラッグとフリック(指ですっとはねるように動かす)といったジェスチャーを使うか使わないかも同様だ。
米Synapticsには、さまざまな家電やデバイスを買ってきて、ユーザー目線でさまざまな組み合わせのモバイル機器を作ってみる「コンセプトプロトタイピングチーム」があるという。“おもちゃ部隊”とよばれる、このチームから生まれる新たな発想が、シナプティクス製品の“使いやすさ”を支えていると前田氏は胸を張る。
タッチパネル自体は単なるパネルでしかなく、“それをどう使うか”を、シナプティクスは提案し続けるのである。
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