MediaFLOで目指すのは「放送のWeb化」──クアルコムジャパン会長 山田純氏に聞く神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2008年09月17日 10時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 9月11日、島根県松江市で「島根ユビキタスプロジェクト」が始まった。詳しくはリポート記事に譲るが、同プロジェクトはユビキタス特区事業の1つであり、最新の通信・放送技術を活用し、先進的なサービスやビジネスモデルの実証実験を通して、情報通信分野における国際競争力を高めるのが狙いだ。

 この島根ユビキタスプロジェクトにおいて、特に注目なのが、携帯機器向けのモバイルマルチメディア放送「MediaFLO」の活用だ。MediaFLOは北米ですでに商用サービスがスタートしており、日本のワンセグよりも多機能かつ高性能。さらにオープン性とグローバル展開が重視されており、ワンセグやワンセグを発展させた「ISDB-Tmm」のように、日本市場だけに閉じた"クローズドな技術"ではないという特長を持つ。島根ユビキタスプロジェクトでは、このMediaFLOが日本で初めて屋外で使用され、新たな放送サービスの可能性を探る。

 今回の実証実験において、MediaFLOは何を狙うのか。また、そこから見いだされる可能性とは何か。クアルコムジャパン代表取締役会長の山田純氏のインタビューをお届けする。

Photo クアルコム ジャパン 代表取締役会長の山田純氏

北米ではモバイルTVのデファクトスタンダードに

ITmedia(聞き手:神尾寿) MediaFLOはすでに北米で商用サービスが始まっています。こちらの最新状況を教えてください。

山田 MediaFLOの採用オペレーターは、当初Verizon Wireless 1社でしたが、今年からAT&Tも採用し、対応都市も全米58都市まで拡大しました。北米では、着々と“モバイルTVのデファクトスタンダード”の地歩を築いています。エリア拡大がもう一歩進み、オペレーターの利用促進がさらに積極化すれば、いよいよブレイクスルーするのではないかと見ています。

ITmedia 北米での商用サービス開始から1年余りが経過したわけですが、現地での手応えはいかがでしょうか。

山田 ワンセグが普及した日本を除けば、モバイルTVが本格普及している地域は世界的に見ても少ないんです。しかしそのような状況下で、北米市場でMediaFLOをスタートし、オペレーターや端末メーカーにモバイルTVの可能性を実際に見せられたメリットは大きなポイントです。

 一方で、現時点で(北米市場で)明らかな課題だと感じているのが、「多チャンネルストリーミング放送」「Pay TV」というスタイルは、(ケーブルTVが一般的な)北米ではポピュラーですが、それだけではモバイルシーンにおけるユーザーのニーズすべてに応えきれないということです。MediaFLOは技術的に「クリップキャスト」や「IPデータキャスト」の仕組みを用意していますが、こちらはまだ商用サービスは始まっていません。今後はこれらの活用をしていかなければならないと実感しています。

ITmedia コンテンツホルダーの評価はいかがでしょうか。

山田 (映像コンテンツを持つ)コンテンツホルダーのメリットは、極めて明確に認識していただけるようになりました。北米のコンテンツホルダーを取りまくビジネス環境や意識は、日本の放送業界と異なり、「マルチチャンネル」「マルチウィンドウ」が基本戦略になります。ですから、コンテンツの流通チャンネルは多いほどビジネスチャンスが広がります。当初はモバイルTVの市場性に疑問の声もありましたが、現在では放送・パッケージ(DVD/Blu-ray Disc)・インターネット配信に次ぐ流通チャンネルとして、モバイルTVが認知されるまでになっています。

ITmedia 北米の映像コンテンツホルダーは、コンテンツのマルチユースモデルに積極的でしたが、その中で”モバイル”がしっかりと認知されてきたわけですね。

山田 ええ。現在では「モバイル市場に適した映像コンテンツとは何か」という模索も始まっています。ストリーミング放送だけでなく、クリップキャストに適した映像コンテンツの在り方なども検討が進んでいます。

 また、MediaFLOの放送チャンネルについても、Foxなどが追加チャンネルの申請をしていまして、新たに3チャンネルが追加されて13チャンネルになります。

島根で模索する「ローカル放送の可能性」

ITmedia MediaFLO全体の戦略において、今回の島根ユビキタスプロジェクトはどのような位置づけになるのでしょうか。

山田 日本におけるMediaFLOの取り組みは、大きく2つあります。

 1つはKDDIやソフトバンクモバイルなど通信キャリアと共同で進めている“全国規模のモバイルマルチメディア放送になる”ということ。

 そして、もう1つが、今回の島根でも推進する“ローカルなモバイルマルチメディア放送”としてのMediaFLOの可能性です。このローカルでのモバイル放送の実証実験は、世界的に見てもあまり例がありません。ローカルなモバイルマルチメディア放送で、どのようなサービスやビジネスモデルが考えられるか。今回の島根ユビキタスプロジェクトは、クアルコム ジャパンはもちろん、米Qualcomm本社でもとても注目している実証実験となっています。

ITmedia 「ローカル性を生かしたビジネスモデル」は、新たなサービスやビジネスの登場も含めて、注目が集まっている分野ですね。

山田 そうですね。それをモバイル放送で考えると、低コストで参入障壁の低いローカルメディアがあってもいいのではないか、ということです。例えば、Googleがインターネットを使って(広告の)ロングテールモデルを作ったように、MediaFLOもローカル放送におけるロングテール型のビジネスモデルを可能にするのではないかと考えています。

ITmedia MediaFLOは当初から多チャンネルと、クリップキャストも含めた技術的な柔軟性の高さが特長でしたので、MediaFLO上で全国規模の放送チャンネルと、ローカル規模の放送サービスや映像コンテンツ配信を共存させることができるわけですね。

山田 キラーコンテンツは現在のテレビ番組のように、きちんとコストがかかり、マスに向けた映像コンテンツになるでしょう。しかしそれと同時に、もっとローカルで低コストな映像コンテンツも存在し、それらを放送メディアで配信できると、大きな可能性が生まれるでしょう。これは個人的な直感ですけれど、1つの地域の中で考えても、今の放送チャンネルの枠組みが緩和されれば、もっと多くの映像情報の流通が起こるのではないかと思っています。インターネットの世界ではUGCやCGMというトレンドがありましたが、放送の世界でも、低コストかつローカル性という切り口の中に、そういった新しい映像コンテンツの可能性があると考えています。

ITmedia 確かにインターネットの世界では、情報発信コストの低廉化と、発信できる情報容量の制限緩和、そして“必ずしもマス向けでなくてもいい”という考え方が、ネットに新しいメディアとしての可能性を与えました。そういった価値観の転換が、モバイル向け放送の世界で起きるとさまざまなサービス・ビジネスの可能性が生まれますし、ユーザー側の選択肢も増えますね。

山田 ええ、今回の島根の実証実験での眼目もそこでして、ここでさまざまなトライアルを行い、そのノウハウを今後に生かしたいと考えています。

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