情報通信分野における国際競争力の推進を目的として導入された「ユビキタス特区」事業。その第一次プロジェクトの1つであり、携帯機器向けマルチメディア放送「MediaFLO」や非接触IC「FeliCa」の活用で注目されている「島根ユビキタスプロジェクト」の推進協議会が9月11日、設立された。島根県松江市の島根大学松江キャンパスでは、同推進協議会の設立発表会が開催されるとともに、実証実験の模様や利用設備などが報道関係者向けに公開された。
島根ユビキタスプロジェクトは代表申請者であるメディアスコープが中心となり、実施される実証実験プロジェクト。地域での産学公民の連携も重視されており、推進協議会には島根大学・学長の本田雄一氏を筆頭に、島根県知事の溝口善兵衛氏、松江市長の松浦正敬氏など、地元の大学や自治体トップも名を連ねている。また、ICT業界からは、クアルコムジャパン代表取締役会長の山田純氏、フェリカポケットマーケティング代表取締役社長の納村哲二氏、トヨタ・電通・ソニーの3社が出資するメディアラグの代表取締役社長、藤井雅俊氏なども参画。MediaFLOやFeliCaといった最新の技術が、どのように人々の生活向上や、地方の経済振興に役立つかを、複数のサービス実験やビジネスモデル実験を通じて検証していく予定だ。
今回の島根ユビキタスプロジェクトにおいて目玉となるのが、屋外では日本初となるMediaFLO試験放送だ。MediaFLOは米Qualcommが開発したモバイル機器向けのマルチメディア放送方式であり、日本ですでに普及している「ワンセグ(ISDB-T)」よりも、高い映像品質を実現し、柔軟なサービス開発が行えることが特長だ。クアルコム ジャパンでは、既存のワンセグとMediaFLOを1チップで併存させる形で、MediaFLOを次世代モバイルマルチメディア放送の一方式として市場化することを推進している。
島根ユビキタスプロジェクトでは、このMediaFLOをUHF帯(767MHz/62チャンネル)で運用。島根大学内とテクノアーク島根の2カ所に送信局を設置し、島根大学を中心とした松江市の中心エリアをカバーする。クアルコム ジャパンと島根大学では、島根ユビキタスプロジェクトを通じて、約3年をかけて、UHF帯におけるMediaFLO電波伝搬実験を実施。プロジェクト全体を支えるインフラとして機能しながら、技術的な改良や改善も行っていく。
MediaFLOを利用したサービスとしては、まずはストリーミングによるリアルタイム放送を実施。学生向けの「キャンパスチャンネル」や、商店街からの情報を配信する「商店街情報」を用意するほか、「行政情報チャンネル」「観光情報チャンネル」などを通じて、公共サービスの向上や、観光振興などにも活用する。
利用端末はUSB型のMediaFLO受信端末「muCard」を主に利用する。これをデジタルフォトフレームや街頭ディスプレイに接続、MediaFLO放送を受信することで、インフォメーションディスプレイ的な利用を行う模様だ。報道関係者向けのデモンストレーションでは、北米仕様のMediaFLO対応携帯電話も用意されていたが、こちらは一般モニター向けではなく、運営関係者向けとのことだ。
筆者も公開デモンストレーションに参加したが、MediaFLOの映像クオリティは北米で商用サービス中のものとまったく同じ。EPGもきちんと用意されており、チャンネル切り替えもすばやい。ストリーミング放送は10チャンネル分のコンテンツが用意され、QVGA/30fpsで放送されている。
また、近日中にはクリップキャスト(蓄積型マルチメディア放送)やIPデータキャストの実験も追加される模様だ。こちらはデジタルサイネージ端末へのコンテンツ配信で使われる予定であり、「深夜などリアルタイム放送のトラフィックが低いときに、クリップキャストでコンテンツを配信したり、定期的に大容量の画像データを配信して(デジタルサイネージ端末の)広告コンテンツを入れ替えるといった応用を考えている」(クアルコム関係者)という。
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