今回もまた「行動支援サービス」についてのお話です。前回はドコモさんの「iコンシェル」についていろいろと書いていたわけですが、auさんも、来年早々に「『感性型』エージェントインターフェース」と呼ばれる、iコンシェル的なサービスのβ版を開始さするそうで、こちらにも注目です。
ただ、auさんの場合は、すでに「行動支援サービス」の実績をお持ちですよね。そう、スポーツ支援サービスの「au Smart Sports」です。何キロ走ったか、何カロリー消費したのかといった行動履歴の蓄積、さらにはトレーニングメニューのレコメンドなど、範囲が限定されているがゆえに完成度の高いサービスだと思います。
au Smart Sportsには、11月に、食事のアドバイスまでしてくれるという健康管理機能「Karada Manager」が追加されました。機能はいくつかありますが、個人的に妄想の扉を開いてくれたのは「Foodマネージャ」。約6000のメニューから、食べたものを検索すれば、摂取カロリーや栄養素を登録できる……というサービスなのですが、ここまでできれば、そこから先にはいろいろな未来像が浮かんできます。
以上は、「行動支援サービス」を「行動改善サービス」にまで発展させていった場合の妄想です。あえて妄想3 まで書いてみましたが、これが具現化するとなったら、「なんだよ、個人情報使って金儲けかよ! どうせろくでもないものススメてきやがるんだろ!」と、ネット上でバシバシ叩かれちゃいそうな予感がします。
でも、お金につながらなくちゃ、企業は動きたくても動けません。当たり前ですが、誰かのためになることでお金を頂けるのがこの世の中ですから、金儲け自体は悪くないはずです。要は“節度”を保ちつつ、多くの誰かのためになるよう、真摯な姿勢でそのビジネスに取り組めるかどうかっていう話ですよね。
じゃあその“節度”って何よ? といわれたら、「ユーザーの生活範囲・価値観の範囲を超えるレコメンドはしない」ということ。コレは別に、距離的な範囲を指している話じゃありません。ユーザーがよく行く場所、よく買っているもの、よく利用しているコンテンツなのかどうかという話です。
「いつものお店」のクーポン情報が届くのはいいけど、いくら近所だからといって、入ったこともない店のクーポンが大量に届いたら嫌です。1年365日外食生活な自分にとっては、スーパーの特売情報などまったくいらないお知らせです。ただ単に「近所だから」という理由でそうした情報を送られたらたまったもんじゃありません。
そこは“節度”を持って抑える。一方で、深夜帰宅の都市生活者にとっては、コンビニが生活インフラですから、コンビニで使えるクーポンは欲しい。単なるユーザーのわがままともいえますが、ひつじのしつじさんやその他のエージェントキャラクターさんたちには、主人の生活範囲を逸脱したレコメンドをしないよう、やっぱり“節度”が必要だと思うのです。いくら「これがオススメだよ」とかわいいキャラクターにいわれても、ユーザーにそれが広告だと感じられてしまえばアウト。かわいい顔した“デジタル客引き”です。
“節度”を保つなんていう微妙な感覚をどうやってコントロールするかといえば、それはもう、「圧倒的にユーザー履歴を集めまくって、超精度のレコメンドを実現する」か「レコメンドする内容をそもそも絞り込んでおく」かのどちらかでしょう。
「現段階では」「発表会の資料を読むと」とダブルかっこ付きで言うと、ドコモさんのiコンシェルは、あくまでユーザーが自分で選んだものに関する最新の情報を提供・更新する……という範囲のサービスに、あえて抑えているように思えます。それ以上のレコメンドもできるけど、あえてやらないという。でも、それが正しいように思うんですよね。きっと、いつしか超精度のレコメンドを実現してやろうと考えてはいると思うのですけども、今はまず、サービス認知と、前回触れたユーザーとの信頼関係構築が重要ですからね。
うだうだ書きましたが、こうしたサービスが一般的なものになって、いつしか超精度の「行動改善サービス」までもが普通のものとなると、本当に新たな世界が待っていると思います。過去の自分=各種履歴を参考にしながら、よりよい自分になるよう、日々向上していけるという空想科学小説のような世界に。これは人類が過去経験していない世界ですよ。ニュータイプ時代の到来ですよ(笑)。
「それも、結局はどこかの誰かのレコメンドに操られてるってことじゃん」と言われてしまえばそれまでですが……。でも、その「どこかの誰か」が、決して営利目的の企業ではない、善意の第三者集団の集合知になっていれば、そんなに悪いもんでもないはずです。それでも操られたくなければレコメンドの言うとおりにしなければいいわけですし、「とにかく嫌!」という方は、使わなきゃいいだけです。まぁ、「ユーザーが言うとおりに動かないとすねる初音ミクエージェント」とか作られたら、ネット世論が誘導されかねませんが。
さてはて、iコンシェルから始まるケータイ業界の新たな流れ「行動支援サービス」。うまく軌道にのれるか、はたまた時間がかかってしまうのか。これからに注目です。
ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。
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