守りを固めたドコモ──KDDIの巻き返しはあるのか2008年の通信業界を振り返る(1)(2/4 ページ)

» 2008年12月26日 23時55分 公開
[房野麻子,ITmedia]

新ドコモ宣言とは何だったのか

ITmedia まだ評価ができるような段階ではないかもしれませんが、4月に発表された新ドコモ宣言については、どう捉えていますか?

神尾 あれは石川さんが言ったとおり、社内的な号令ですよね。外にではなくて、内に向けての宣言です。ドコモほど会社の規模が大きくなって、ステークホルダーの数もべらぼうに多くなってくると、新しいことをするときにエクスキューズ(言い訳)が必要なんですよ。そのときに、新ドコモ宣言という1つのエクスキューズを作った。不満を抑え込むのに必要なことですよ。宣言がユーザーの方向に向いて作られている以上、自分たちの利益を損なうことになっても、それに反する意見は出しづらくなります。だから、どちらかというとマネジメントの世界の話かな、という感じです。個人的にはドコモ2.0よりはマシかな、と思っていますが。

ITmedia 確かに、ドコモ2.0のときよりは、“変わった感”は出てきていますね。

石川 ただ、「初めにいろんなことを言わなくてもいいじゃん」という気はします。アンサーも然り。そんなこと言わなくても、1個1個のクオリティを上げるとか製品を出すとか、そういった驚きを出した上でやってくれた方がいいのに、とも感じます。

神尾 言わないと分からないということもあるんですよ。

石川 う〜ん。でも、これ見よがしに言われてもなあ

Photo 「3キャリアで同じ価格帯の料金プランがあったときに、1ユーザー当たりにかけているインフラコストや次世代への研究開発投資はドコモが圧倒的に高い」(神尾氏)

神尾 私が思うに、例えば基地局をユーザーの声に応えてきっちり建てたり、災害時にいち早く復旧させたりといった、ドコモは当たり前だと思ってやっていたことが、他キャリアにとっては、そうじゃないこともいっぱいあったわけです。高コストだけれどインフラ事業者としてやるべきことのクオリティが、ドコモは他社より確実に高い。それをしっかり見せよう、情報共有しよう、ということでしょう。ユーザーだけじゃなくて、同じドコモにいる別のセクションの人が全く知らないこともいっぱいあったわけです。だから、見せるのはいいことだと思いますね。

 キャリアのビジネスでは、大災害が起きたときにどれだけ安心して使えるかというような、見えないサービスも売っているわけです。そういうものは1つ1つ言っていかないと、分からないでしょうね。アンサーをずっとやり続けると、さすがにくどいかもしれないですけど、「このタイミングで全部、一通り見せましょう」というのは、再確認の意味ではいいのかもしれません。

 例えば、3キャリアで同じ価格帯の料金プランがあったときに、1ユーザー当たりにかけているインフラコストや次世代への研究開発投資はドコモが圧倒的に高いわけです。ドコモは移動基地局車や電源車の所有数がけた違いに多いし、災害対策への投資額も大きい。KDDIやソフトバンクとは、災害時対策用の機材や、普段は使わないけど、あると安心するもののストック数が全然違う。ドコモでは、離島の基地局が1つ壊れると、チャーター機を飛ばしてでも直しに行くんですよ。こういったことは「自分たちはこうやっている」としっかり言わないとユーザーに伝わりません。

石川 ユーザーには響きにくいところではありますが、そういった災害対策みたいなところを際立たせてアンサーって言えばいいのに、パケットの準定額制もアンサーに入れている。「今さらその答えを出すなよ」みたいな気持ちになるんですよ。「今さらなにを言ってるんだよ」みたいなのも同じ土俵に並べるから、なんかおかしく見えるんですよね。

神尾 (笑) あれは「今までウチにはなかったけど、作ったんですよ」という意味ですよ。擁護するわけではありませんが、宣伝下手だったところがドコモにはいっぱいあります。なので、しっかりとそこを見せることは悪いことではないし、逆に「準定額制があります」とはっきり言わないと、いつまでたっても「ドコモにはないんでしょ」と言われ続けちゃうじゃないですか。

 基地局にしたって、FOMAのサービスエリアがauに並んだのは、ずいぶんと前なんですよ。1年以上前には、auを追い抜いて3キャリアで一番“つながるケータイ”になっていたのに、ユーザーのイメージが変わるのに時間がかかりました。「最大手が細かいことをくどくどいうのか」という意見は確かにあるでしょうが、言わないと分からないこともあります。

石川 そうですね、あまりに今までサボり過ぎていたことが、“独り負け”につながっていましたし……

神尾 新ドコモ宣言の前までは「しっかり仕事をして、いい品質のものを提供していれば、言わなくてもユーザーは分かってくれる」「いちいち言うもんじゃない。やって当たり前だ」という認識が、ドコモには根強くあったんです。でも、これって公務員体質なんですよ。「しっかり仕事をしているのに、なんで認めてくれないんだ」と嘆くのは公務員のわがままです。しっかり仕事をしているんだったらしっかり言いなさいってことですね。アピールするのが民間の企業なので。少なくとも今のドコモの言い方だったら、誇大広告にはなっていませんし、この10年間、言わずにきたことを言っているのだから、多少はくどくてもいいと思いますね。

 2000年代初期のドコモは、ヘンなところはすごくアピールするのに、地味なところは全然アピールしませんでした。ドコモ自身も、あのアンサーをすることで、自分たちの価値や魅力を再確認したいんだと思うんです。あれだけ会社が大きくなると、彼ら自身も見失ったところがいっぱいあって、気づかないところもあるでしょうし。

石川 そうですね。やっと答えを出してきたので、来年以降は新しいことをどんどんやってもらいたいと思いますね。攻めるドコモを見てみたいです。

神尾 同感ですね。アンサーは今年で終えて、次の10年に対するクエスチョンを出してほしい。今は、ドコモがこの10年間でやってきたことを、全部答えとして出しているだけです。では次の10年に何をするのか、という問題提起をしてほしいですね。それができるかできないかで、ドコモの度量が分かるのかな、という気がします。言われたことを真面目にコツコツやるのは、ドコモのみなさんは得意ですしね。そういう意味では、あのアンサーは自問自答しているんだろうなと思いましたね。

 アンサーを始めてドコモが自信を持ってきているのは確かだと思います。自信を持ってサービスを投入してきていますしね

これからはカリスマではなくて「集団の力」を見せてほしい

石川 あとはキーマンが抜けた後、どうなるかというところが気になりますね。

ITmedia “おサイフケータイの父”こと夏野剛さんが抜けたあとのドコモがどうなるか、ということですね。

石川 「iコンンシェル」までは夏野さんの仕込んだものと言われているので、あの後、次に何が出てくるかは注目に値します。

神尾 そこは注目ですね。夏野さんは非常に個性の強い人だったので、彼が能力を発揮できたところもあれば、彼がボトルネックになっていたところも確実にあるわけです。1人がやれば、それは当然ですよ。たぶん、次のドコモは集団で問題解決していく形になるでしょうから、その体制でどう出るかというのは注視したいと思います。

 細かい話ですが、初期のドコモのプロパーの人たち、いわゆる“1990年代のドコモ”を作り上げていたときに若手だった人たちが、今ドコモの中で、中堅以上のポジションになってきているんです。いわゆる(初代NTTドコモ社長の大星公二氏とともに仕事をした)

“大星ファミリー”の人たちです。ドコモ立ち上げの時代に若手だった人たちが、現在担当部長クラスまで出世していて、ちょうど脂がのってきています。新ドコモ宣言でも発表された25のプロジェクトチームの中核メンバーが、まさにこのドコモプロパーの担当部長たちなんですよ。彼らの集団の力が今後は注目だと期待しています。

 90年代当時、現場で働いていた人たちが全国に散らばっているのですが、彼らはドコモを立ち上げているので、ベンチャースピリットがあるんです。ドコモの最初期、「携帯電話なんて、一部の特殊なユーザーしか買わない」なんて言われていた時代に、1994年の端末売り切り制が始まったあたりから1998年くらいまでを血みどろでがんばって作り上げた人たち。彼らは“夏野さん”みたいに誰とはいえなくて、集団なんです。すごい逆境の中でがんばった人たちですから、彼らはよく「最近の若手は頭はいいんだけど、ガッツがない」というようなことをいうんですけど(笑)、その人たちががんばってくれるんじゃないかと思いますね。

 2000年代は、外様といったら語弊があるかもしれませんが、夏野さんとiモード初期のゲートウェイビジネス部(後のiモード事業部)、つまり外から来た新しい人たちのエッセンスが強かった。今度は最初期のドコモを作ってきた人たちが、どれだけ次の10年のドコモを作れるのかという正念場でもあるし、彼らのポテンシャルを見られるいい機会なのかもしれません。

石川 でも、集団だと面白いものは作れないんじゃないかと思うんですよ。

ITmedia カリスマが「オレがやりたいから、こうするんだ」ということで強く動くという部分は確かにあると思います。それが必ずしもいいとは限りませんが。

Photo「キーマンである夏野剛氏が抜けたあと、ドコモがどうなるかに注目したい」(石川氏)

石川 そうですね。失敗もいっぱいするでしょうが、ここ数年を見ていると、カリスマがいて、その人が作りたいものを作っているからこそ面白いものができる、みたいなことがありますよね。「iPhone」もそうでしょうし、今のソフトバンクモバイルなんかもそうです。

 たぶん、iモードが絶好調だった頃もそうだったと思うんです。そう考えると、集団になって、モノは出るかもしれないけれど、面白いものじゃないような気がするんですよね。

神尾 私はそこは違う意見です。90年代にもドコモの全盛期がありましたが、そのときはカリスマは存在していないんですよ。いるとすれば社長の大星さん。でも、大星さんはヴィジョンを示して決断する人で、実際に動いて何かをやったわけではない。デジタルムーバでドコモの礎を築いて、全盛期作ったのは、“特定の1人”ではなかったんです。あのときは集団の力でやったんですね。

 そう考えると、インフラから丸ごと作る時代には、カリスマや特定の1人はいらないのかな、という気がします。夏野さんがiモードを作った1999年というのは、90年代のドコモが作ったインフラの上でアプリケーションを作るレイヤーだったじゃないですか。そのときには、特定の1人のキャラクターというか、ハンドリングが出やすいですが、ドコモの次の勝負はスーパー3Gなどのインフラ作りなので、総力戦ができる体制の方がいいのかなと思うんです。

 スーパー3Gのインフラがある程度できた後、それを使ってどういうニーズを作るのか、という段階には、もしかしたら石川さんがおっしゃるように強いキャラクターが必要なのかもしれません。ただ、インフラや新事業領域の構築期である2010年代前半に関して言えば、組織としての総合力の方が重要です。25のプロジェクトチームは、苦しい90年代を知っている人たちが横でつながっているので、エリアの立ち上げや必要なインフラを作る面で、彼らの力がいい形で出るのかなと。あと、特定の1人だけの感覚でモノを作れるほど、ケータイ業界はもう小さくないという気もします

石川 ああ、なるほど。

神尾 夏野さんは優秀なプランナーだと思うんですが、夏野さんの力が及ばない場所で見過ごしていた領域も結構あったんです。でも、ここ最近、例えば法人をターゲットにしたBluetoothの活用やモジュールビジネスなんかに火が付いてきましたよね。ここは、夏野さんは直接タッチしていないし、Bluetoothなどはむしろ否定的だった部分です。そういうのが着実にビジネスとして花開いてきていて、世の中のインフラを動かすようにもなってきています。

 携帯電話業界がハンドセットの中だけで収まらなくなっているんですよ。そういう時代においては、たぶん、特定の1人ですべてを見ることはあり得ない。もしキャラクターが必要だとすれば、数人はいないとフォーカスしきれないと思うんです。逆にいうと、私は、今後のドコモは特定の1人のカリスマを求めてはいけないと思っています。事業領域が広がる時代に、特定の1人のパフォーマンスの中でしか物事が動かないというのはまずいと思います。市場の開拓を、その人のパフォーマンスに委ねてしまうわけですから。

 コンシューマーユーザー向けのハンドセット(端末)開発の中だけで見た場合は、1人のすごく能力のある人がやった方が、面白いものが出るかもしれません。でも、すでに携帯電話ビジネスは一般のユーザーに携帯電話を売って回っているだけではありません。そう考えると、夏野さんは2000年代の「iモード時代」を築いたことで、ドコモでのミッションを終えたんでしょうね。

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