屋内でも“GPSケータイナビ”を実現──神戸自律移動支援プロジェクトの今(前編)神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2009年02月12日 10時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 カーナビゲーションから始まり、携帯電話/スマートフォン、PND、ポータブルゲーム機にノートPCまで。GPSによる位置測位システムの搭載は急速に広がり、「位置情報とデジタル地図」はさまざまなサービスやビジネスのインフラとして着実に普及している。

 国内の携帯電話ビジネスを振り返れば、auの「EZナビウォーク」が先駆けとなり、GPSの搭載と地図ナビゲーション市場が急速に拡大。今ではNTTドコモやソフトバンクモバイルにもGPS搭載端末が増えている。ユーザーの裾野も大きく広がり、この分野の草分けであるEZナビウォークの利用者数は2008年12月末時点で550万人を突破。ナビタイムジャパンやゼンリンデータコム、インクリメントP、ユビークリンクなど地図/ナビゲーション企業の成長も続いている。

 しかし、順風満帆に見える携帯向けGPS地図ナビサービスの前には、越えるべき壁が存在する。それが「屋内での位置測位/ナビゲーションサービス」の実現だ。今後、位置情報と地図がさまざまなコンテンツ/サービス提供の素地になるほど、“屋内ナビ”の重要性が増す。

 屋内での位置測位はどこまで進化するのか。また、それをケータイへ実装することは可能なのか。

 2月5日、国土交通省が兵庫県神戸市にて、「神戸自律移動支援プロジェクト」実証実験のプレス向け体験会を実施した。これは屋外・屋内のシームレスな移動支援サービスを、携帯電話や専用のモバイル端末(ユビキタスコミュニケーター:UC)向けに提供するというもの。健常者だけでなく、ベビーカーや車いす利用者、視覚/聴覚障害者向けに“快適な移動支援を行う”ことを目的とし、携帯電話とUC合計110台を用いて、2月6日から2月26日まで実施している。民間企業グループとしては、ナビタイムジャパン、KDDI、KDDI研究所、横須賀テレコムリサーチパークがこの実証実験に参加している。

 Mobile+Viewsでは、このプレス向け体験会に参加して体験できた、最新の“屋内ナビ”とそのサービスの現状を、2回に分けてリポートする。

GPSケータイで屋内ナビを実現する「IMES」とは?

 地球上を周回する複数のGPS衛星からの信号をキャッチし、現在地を割り出す。これがGPS測位の基本だ。精度の高い位置測位(3次元測位)には少なくとも3つのGPS衛星を見通せる必要がある。携帯電話の位置測位では、ビル街や地形も考慮し、基地局情報も組み合わせることで、1〜2個のGPS衛星からの信号しか受信できなくても実用的な精度で位置測位を行うが、いずれにせよ「GPS衛星が1つも見通せなければ測位はできない」ことに変わりはない。

 では、見上げる空のない屋内で、どのようにしてGPS測位を行うのか。

 神戸自律移動支援プロジェクトで、ナビタイムジャパン、KDDI、KDDI研究所の3社が採用したのが、「IMES(Indoor Messaging System)」と呼ばれる屋内GPS測位技術である。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と測位衛星技術(GNSS)が共同開発したものだ。GPS衛星の識別に使われるPRNコード(擬似雑音記号)を拡張し、それを屋内の送信機に割り当てることで、地上で「GPS衛星を見立てて」GPS測位を行うというものだ。

PhotoPhotoPhoto IMESの送信機。外部から電源を取るのみで、時刻同期などは行っていない。機材そのものは小型でシンプルだ。将来的には「無線LANのアクセスポイント並みに気軽に設置できるようにしたい」(KDDI研究所)という。送信機をよく見ると、内部のGPS信号の発信部が透けて見える。これはGPS衛星に搭載されているものと同じで、本来ならば地上で目にすることはない

 今回の神戸自律移動支援プロジェクトでは、KDDI研究所とGNSSが協同でIMESインフラを構築。三宮中央通り連絡通路を中心とする実験エリアに、合計68基のIMES送信機を設置した。

 さらにKDDIとナビタイムジャパンがau携帯電話のソフトウェアとEZナビウォークを改修することで、「既存のau携帯電話のハードウェア構成を変えることなく、ソフトウェア改修だけでIMES対応を実現した」(KDDI コンテンツ・メディア本部 コンテンツサービス企画部課長の幡容子氏)のが大きなポイントである。

IMESインフラ構築でノウハウの蓄積

Photo KDDI研究所 開発センター 主幹エンジニアの大原晃氏。「今回の実証実験を通じてIMESの技術的なノウハウを収集し、将来に向けて運用性を高めていきたい」と話した

 しかし、IMESを用いた“既存のGPSケータイによる屋内測位”は、試行錯誤と苦心の連続であったと、KDDI研究所 開発センター 主幹エンジニアの大原晃氏は述懐する。

 「地下街の通路では、壁や床の材質によっては(発信する)IMESの電波を乱反射してしまいます。一方で、歩行者は電波吸収体ですので、設置場所の周辺環境と通行量を鑑みながら、IMES送信機を一基ずつ手作業でチューニングしていきました。電波の照射特性や出力の部分ではかなりの試行錯誤をしました」(大原氏)

 なかでも特徴的なのが、電波の飛ばし方だ。IMES送信機からの電波は単純に照射・拡散させるのではなく、「送信機の下に電波が(紡錘形の)繭をつくるように、らせん状の特性をつけて照射している」(大原氏)という。出力もギリギリまで抑えて、床や壁で乱反射せず、なおかつ携帯電話で検知できるギリギリのレベルまで調整している。

 「さらに(今回のIMES導入で)難易度が高かったのが、IMESの送信機同士が時刻同期していない点です。将来的な運用性や設置コストを考えれば、これは当然なのですが、GPS測位では『正確な時刻同期』が必要になります。これを端末側だけで調整するのが大変でした」(大原氏)

 KDDI研究所とGNSSでは今回の実証実験を通じて、多くの人が利用する屋内の実空間でIMESシステムの設置・運用のノウハウを蓄積。このフィールドテストで得たデータをもとに、将来の製品やサービス開発、IMESインフラの普及に向けた取り組みを続ける方針だ。

 「現在は1基ずつ手動で(IMES送信機の)チューニングを行っていますが、将来的にはIMESのシステムが設置場所の状況に応じて、自動的にエリアの最適化を行うのが望ましい。無線LANのアクセスポイントのような感覚で、屋内に設置していけるような形が理想的でしょう。そうした最適化に必要なデータも集めていきます」(大原氏)

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