「魔法のような」
これは故スティーブ・ジョブズ氏が、「iPad」を紹介する時によく使った形容詞だ。PCの使いにくさを払拭し、洗練されていて、誰もが使える新たなコンピューターを作る——。そんな思いから生まれたiPadのユーザー体験は、“ポストPC時代の到来”という革命を起こした。2〜3歳の幼児から高齢者まで、多くの人々が、iPadならば気軽に利用することができ、アプリとインターネットによってITの利便を享受することができる。iPadの登場は新たなデバイス市場を創出しただけでなく、人とコンピューターの関係を今までよりもずっとシンプルで良好なものにした。家庭のリビングルームから始まり、カフェや空港のラウンジを、オフィスを、医療や教育の現場を、さまざまな風景をiPadは変えていった。
これがポストPCという名の、iPadの魔法である。
そして2012年10月。iPadに初めてバリエーションが登場した。先のApple Special Eventで発表された「iPad mini」である。そしてiPadも新しくなり、第4世代のiPad、「iPad Retinaディスプレイモデル」になった。
筆者は今回、このiPad miniと第4世代iPadのWi-Fi版を、発売前にいち早く試す機会を得た。iPad miniがもたらす新たな価値はどのようなものか。そしてiPad miniとiPadの2モデル体制により、iPadのイノベーションはどのような変化をしていくのか。リポートを交えながら、考えていきたい。
まずは注目のiPad miniについて見ていきたい。
既報のとおり、iPad miniは7.9インチのディスプレイを搭載した「小型のiPad」だ。薄く、軽く、持ちやすくなったのが特長で、サイズは幅は134.7ミリ、高さは200ミリ、厚さは7.2ミリ。重量はWi-Fi版が308グラム、遅れて発売されるWi-Fi+Cellular版が312グラムである。このコンパクトさと軽さはiPad mini最大の特長だ。片手でひょいと持ち上げて使い始められる気軽さは、9.7インチのiPadにはなかった感覚である。
デザインも、これまでのiPadから大きく変わった。
パッと見た時の印象にiPadの面影はもちろんあるが、デザインのテイストとしては、むしろ「iPhone 5」に近い。ホワイト&シルバーとブラック&スレートという色名はiPhone 5と同じであるし、狭額縁化された表面、角の部分がダイヤモンドカットされているところなど共通点は多い。
さらに手に触れた時のアルミの質感、個々のボタン類やスピーカー、Lightningコネクタの金属加工精度の高さなどは目を見張るものがある。iPhone 5の時に「まるで高級時計のようだ」と筆者は感嘆したのだが、それと同じ高級感が、iPad miniにも宿っている。ひとたびiPad miniを見て触れてしまうと、プラスチッキーな他のタブレット端末が、ずいぶんと安っぽくお粗末なものに見えてしまう。
持ち運びのしやすさと、デザイン・仕立てのよさ。
この2つが高いレベルで両立されていることは、7インチクラスの“モバイルタブレット”にとって、とても重要なことだ。
iPad miniは片手で苦もなく扱えるサイズと重量であるため、利用シーンを選ばない。特に日本の都市部では電車・バスなど公共交通を利用することが多いので、カバンに入れてもかさばらず、狭いスペースでも気軽に使えることは大きなメリットだ。また、電車の中などで立ったまま片手で電子書籍などを楽しむようなシーンでも、iPad miniの小ささと軽さであれば無理なく行える。ただし、その場合はストラップ付きでホールド性のいいケースが欲しくなったのも事実だ。Appleでは、iPod touch用に「iPod touch loop」という画期的なストラップ機構を用意しているが、これと同様の“iPad loop”を、将来のiPad miniでは実装してほしいところだ。
一方、美しさという点では、iPad miniは申し分ない出来映えだ。精緻かつ凝縮感のあるiPad miniのデザインは、カジュアルでお洒落なカフェから、高級なホテルやレストランといったフォーマルな場まで、どこで出しても恥ずかしくない。外で使うタブレットに求められる“身だしなみのよさ”が、iPad miniには十分に備わっている。
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