「メイドインジャパンでは飯が食えない」現実に挑む CIOが“国産充電器プロジェクト”始動、2026年秋に第1弾発売へ

» 2026年07月01日 22時00分 公開
[金子麟太郎ITmedia]

 いま、国産の製品を世に届けようとしている企業がある。CIOという企業だ。スマートフォンやPC向けの小型充電器、モバイルバッテリーなどを自社で企画・開発している。中国などに現地法人・子会社を置き、現地のサプライチェーンと連携して開発・製造を行っているCIOがなぜ国産に取り組むのか、7月1日のイベントにて語られた。

CIO 国産充電器プロジェクト 7月1日に開催されたイベントで発表された国産充電器プロジェクト。日本のモノづくりへの挑戦を掲げ未来の当たり前を日本から作っていくという決意が示された

なぜプロジェクトが進行しているのか 背景と目的は

 CIOは設立から10年目を迎え、雑居ビルで1人で立ち上げた時代から、今では多くのユーザーに支えられる企業へと成長した。これまでユーザーからは日本企業だから応援する、いずれかは日本でモノづくりをしてほしいという期待の声が数多く寄せられていた。しかし、CIOの代表取締役である中橋翔大氏は、アサヒ電子を訪問した際に収録されたYouTube動画の中で、同社菅野寿夫社長の以下の発言に同意している。

 われわれは、モノづくりをしてる人間なので、こんなこと言っちゃいけないんですけど、メイドインジャパンって飯食えないんですよ。

CIOの代表取締役である中橋翔大氏は、アサヒ電子を訪問した際に収録されたYouTube動画の中で、日本で電子機器を製造する厳しい現実を語っている(引用している発言は8分10秒あたりで聞ける)

 単に日本製という愛国心に訴えかけるだけで価格が従来の2倍や3倍になってしまえば、結局はニッチな市場で終わってしまい、一人一人の身の回りにCIOがあふれる世界を実現することはできないからだ。

 この厳しい現状の中で、プロジェクトが本格的に始動する大きなきっかけとなったのが、モノづくりYouTuberであるイチケン氏との出会いだった。7月1日に開催された新製品・国産充電器プロジェクト発表会において中橋氏が明らかにしたところによると、2025年7月に発売した充電器に対し、イチケン氏が分解、検証動画を公開し、サーマルスロットリングによる電力降下で熱いという厳しい指摘を行ったのだという。中橋氏によれば、この動画は話題になったそうだが、CIOはこれを真摯(しんし)に向き合うチャンスと捉え、ユーザーからの実需に気付いたのだという。

 そこで中橋氏は、ユーザーの国産への期待と熱設計や安定性への要望を掛け合わせ、妥当なコストバランスを保ちながら、見た目にも心くすぐる高い完成度(ビルドクオリティー)を持った製品を目指すと、アサヒ電子との会談の中で語っている。

CIO イチケン 会場に展示されたCIO中橋氏とモノづくりYouTuberイチケン氏のメッセージパネル。厳しい指摘を真摯に受け止め共に妥協のない充電器開発へと挑む経緯が記されている

アサヒ電子との基本合意と連携から、イチケン氏による技術監修と部品の国産化まで

 現在、国産充電器プロジェクトは、パートナー企業の開拓と部品の国産化において大きな進展を見せている。

アサヒ電子との基本合意と連携

 中橋氏によれば、国内での製造委託先を探す道のりは困難を極めたという。CIOは約30社の国内工場に声をかけたが、話を聞いてくれたのはわずか3社程度であり、設計は日本でも量産は中国で行っているか、1日の生産台数が合わないという理由で実現が難しい状況だったそうだ。しかし、福島県で40年近くモノづくりを続けるアサヒ電子と出会うことができた。

CIO アサヒ電子 海外依存からの脱却と国内生産体制への移行を示す発表会でのスライド。国内部品を前提としアサヒ電子などの国内工場でPCBA(基板実装)から最終検査までを一貫して行う体制を目指す

 CIOはアサヒ電子と約4カ月にわたる綿密な交渉を経て、製造委託に関する基本合意に至った。

 アサヒ電子はISO9000番台の品質管理体制を持っている。同動画内でアサヒ電子の担当者は、壊れた原因を追究する品質改善のサイクルや、物を無駄にしないもったいない精神を重視しており、これらが長期的なコスト低減と信頼性の向上に最も効くと説明した。中橋氏もこれに同意し、価値観を共有できるパートナーとなっている。

イチケン氏による技術監修と部品の国産化

 イチケン氏によると、実際の製造ラインを見たからこその知見を得るため、中国の工場に赴きどう連携していくべきかを確認したという。また中橋氏とイチケン氏の対談によると、プロジェクト開始当初、充電器の中身は日本の部品が0%という状態だった。USB充電器向けの小型部品はサイズの制約が厳しく、価格や納期において、サンプル調達だけで3カ月かかるなどの壁が立ちはだかったそうだ。

 しかし、イチケン氏の紹介もあり、長野県にマザー工場を構える抵抗器メーカーのKOAやルビコンなどとの連携が始まった。7月1日の発表会ではKOAの有賀善紀社長からのメッセージが代読され、車載市場で培われた高い品質と信頼性を、身近なUSB電源でも安心してご使用いただけるものと考えており、挑戦のパートナーとして支援したいとの力強い意向が寄せられた。

 こうした取り組みの結果、発表会で示された資料によれば、現在では最大約59%の部品を日本メーカー製で占めるまでに進展している。

CIO KOA 会場で展示された充電器内部のメイン電源変換基板や通信制御基板などのパーツ群。KOAなどの国内メーカーと連携して部品の国産化率を高め高い信頼性と品質を追求している(写真は基板・機構パーツの分解展示)

日本製は非常に困難も、2026年秋頃に製品を発売予定

 今後の国産充電器プロジェクトは、3つの展望を持って推進されていく。まず、中橋氏がYouTube動画内で言及しているように、国内の人手不足や初期コストといった厳しい現実があるため、最初から100%全工程を日本で行うことはリスクが高く困難だ。

 そのため、まずは中国工場で担う工程と分け、日本人の細かさや慎重さが生きる組み立て、すなわち液晶の取り付け以降の後工程から日本のアサヒ電子へ移管してスタートさせる。将来的には、部品調達の国内化が進むにつれて、SMT(表面実装)などの前工程も日本で行い、設計段階からアサヒ電子と共同で入り込んで品質を作り込む。

 CIOはアサヒ電子と中長期的なパートナーシップを築いていく予定だ。7月1日の発表会で流されたビデオメッセージの中でアサヒ電子の菅野社長が語るように、日本でしか生まれない価値を一緒に作るニューファクトリーを目指している。

アサヒ電子菅野社長 発表会においてビデオメッセージを寄せるアサヒ電子の菅野社長。品質改善のサイクルと物を無駄にしない精神を重視しCIOと中長期的なパートナーシップを築いていく(写真はビデオメッセージ)

 このプロジェクトの成果は、新たなラインアップである「NovaPort III」シリーズ、その第1弾の「NovaPort DUOIII 65W2C」がリリースされる予定だ。

CIO NovaPort プロジェクトの第1弾として2026年秋頃に発売が予定されている充電器「NovaPort DUOIII 65W2C」の展示。妥当なコストバランスを維持しつつ日本の高い品質を実現する

 このプロジェクトにおける最大の挑戦は、妥当なコストバランスを維持しながら、日本の高い品質を量産ラインで実現することだ。イチケン氏が中国の製造現場で目撃したような勝手な部品変更リスクを排除するためには、品質改善のサイクルを確実に回せる国内工場の存在が不可欠だった。アサヒ電子はその要求を完全に満たす。

 液晶の取り付け以降の後工程を日本国内へ移管することにより、最終的な製品の品質はより確かなものになる。また、KOAなどの信頼性の高い国内メーカー製部品を約59%まで組み込んだ回路設計は、かつて指摘された電力降下や異常な発熱といった問題を根本から解決する。ユーザーが真に求める安定性がここにある。

 CIOは、YouTubeを介したオープンな情報発信を続けることで、製造プロセスの透明性を担保する。これは従来のメーカーが隠しがちだったコストの壁や開発の失敗を、あえてユーザーと共有する試みだ。不特定多数の読者やユーザーが開発の裏側を知ることで、製品に対する執着と信頼はさらに強固なものになるだろう。

 7月1日の発表会で組み立てを担うパートナーとして紹介されたアサヒ電子で組み立てられ、日本の技術が詰まったNovaPort IIIシリーズは秋頃に市場へと投入される。国産充電器の誕生は、日本のモノづくりの可能性を再び広げる。この新たな挑戦が市場、そして次世代のスタンダードとなるのか、注目したい。

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