そもそも、チャッピー構文はAIが発明したものではありません。結論を先に書く、要点を箇条書きにする、読者に共感してから本題に入る。どれも、ビジネス文書やWeb記事で人間が昔から使ってきた「分かりやすい文章」の型です。AIは人間が書いた膨大な文章を学習しているため、まずこうした型を身に付けます。
では、なぜここまで極端な形になったのでしょうか。理由の1つは「人間からの評価」にあります。
ChatGPTのようなAIは、回答に対する人間の評価から、より好まれる答え方を学んでいきます。回答の下に表示される、親指を上げた「高評価」ボタンと親指を下げた「低評価」ボタンも、その材料の1つです。
ただ、人間はほめられると、つい高評価ボタンを押してしまうものです。OpenAIは2025年4月、GPT-4oのアップデート後に回答が過度にお世辞っぽくなったとして、アップデートを取り消しました。 または 以前のバージョンに戻しました。同社は、ユーザーの短期的な評価を重視しすぎたことが原因だったと説明しています。「その感覚、むしろ健全」「あなたはかなり強い」といった全肯定のせりふは、こうした仕組みから生まれやすいわけです。
文章の見た目についても、同じことがいえます。AIの回答を人間が見比べて投票するランキングサイト「Arena」(旧Chatbot Arena)は、米カリフォルニア大学バークレー校の研究者らが始めたものです。その運営チームが2024年に公開した分析によると、人間は長くて見た目の整った回答に票を入れがちなようです。最も影響が大きかったのは回答の長さで、見だしや太字、箇条書きにも票を少し押し上げる効果が見られました。人間が「整った見た目」を好むからこそ、AIもそのように書くようになるのです。
つまりチャッピー構文は、「人間に好かれるよう最適化された文章」といえます。人間の好みに合わせてAIを育てた結果、誰もが一目で分かるほど型が固まってしまったのです。
AIは人間の文章をまねて育ちましたが、今度は逆に、人間の方がAIの言葉をまね始めています。
ドイツのマックス・プランク人間発達研究所の研究チームは、大学などの学術機関がYouTubeで公開している講演動画や、ポッドキャストの話し言葉を大規模に分析しました。すると、ChatGPTが好んで使う英単語が、ChatGPTの登場後にはっきりと増えていたのです。研究チームはこの結果を、人間が話し言葉でAIをまねていることを示す証拠だとしています。
増えた単語の1つが「delve」です。「掘り下げる」という意味で、ChatGPTの英語の回答にやたらと出てくることで知られています。チャッピー構文でおなじみの「深掘りできるよ」と、どこか通じるものがあります。
英語圏で起きているのは、AIの言葉がいつの間にか人間の話し方に入り込んでいく、という現象です。日本の状況は分かりませんが、日本語でも同じことがすでに起きているのかもしれません。
人間の文章を学んだAIが、人間に好かれる型を身に付け、その型を人間がまねる。そして、その文章がネットにあふれ、また次のAIの学習データになっていく。人間とAIが合わせ鏡のように互いの言葉を映し合っていく様子に、私は少し怖さを感じてしまいます。
とはいえ、チャッピー構文はAIっぽさを分かったうえで、あえてまねる遊びです。AIがさらに進化して「AIっぽさ」そのものが消えてしまえば、こうした遊びも成り立たなくなるでしょう。「AIっぽい」と笑っていられるうちは、まだ平和なのかも……。そんなことを考えてしまいました。
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