ISDB-Tmmか、MediaFLOか?――携帯端末向けマルチメディア放送の公開説明会(3/3 ページ)
携帯端末向けマルチメディア放送の受託事業者に名乗りを上げている、ISDB-Tmm陣営とMediaFLO陣営による公開説明会を総務省が開催。端末、エリア品質、基地局設置、混信対策、(コンテンツを提供する)委託事業者との連携など、さまざまな面から議論が交わされた。
「米国でMediaFLOはマジョリティ?」――石川氏
mmbiからメディアフロージャパン企画への質問のターンでは、二木氏が委託放送事業者への割安な料金プランについて触れ、「エリア品質とのバランスだと思うが、割り引きは厳しいのでは」と質問。増田氏は「エリア品質に対するお客さんの要求は高いので、安かろう悪かろうではいけない。ある一定の委託放送事業者の参入を想定した場合、コスト回収は想定できる」と回答した。
mmbiの石川氏は端末について言及。「我々はドコモとソフトバンクモバイルから、(開始5年目で累計5000万台の出荷という)数字に基づいた端末の普及計画をいただいている。メディアフロージャパン企画さんは2020年度に7000万台の“普及予測”としている」と、数字があいまいではないかという旨の指摘をした。この点についてはKDDIの小野寺氏が「米国でVerizon Wireless(CDMA2000)とAT&T Wireless(W-CDMA)がMediaFLO向けの端末を開発しているように、受託放送事業者が1社に決まれば、すべての通信事業者が(その方式に合った)端末を作ることになる」と話し、「受託事業者が決まった後に、お互いに話をせざるを得ない」とまとめた。
続いて石川氏が「MediaFLOの商用サービスが始まっている米国では、端末やユーザー数はどれくらいいるのか。またコストはどの程度安くなっているのか」と質問すると、増田氏は「数字は公開されていないが、MediaFLOのインフラは全米2億人をカバーしている」と回答。また、「米国は現在ストリーミング放送のみ利用できるが、蓄積型などの新しいコンテンツビジネスも始まろうとしているし、(チューナー付き)iPhone用のジャケットなど、サードパーティ製の機器も増えている。こういったサービスや機器が加速すれば」と期待を寄せた。
さらに、「MediaFLOは米国でマジョリティを取っているように聞こえるが、米国では実際どのような位置付けなのか」と石川氏が問うと、増田氏は「MediaFLOが先行している事実は間違いないが、今後どういう形でどう広がっていくかは分からない」と回答。また、小野寺氏は「米国にはワンセグに相当するサービスがなく、ストリーミングがメインであるように、どんなコンテンツがあるかが最大の問題。コンテンツによって普及の仕方も違うだろうし、(それ以前に)端末があるかが重要だ」と補足した。
「ISDB-Tmmはどのように省電力するのか」――河合氏
続いて、再びメディアフロージャパン企画からmmbiへの質問となり、河合氏が「MediaFLOは時分割でデータを送信するので、必要なサービスだけを間欠受信でき、省電力が可能になる。13セグメントを使うISDB-Tmmでは、どのように省電力をするのか」と尋ねると、石川氏は「我々は13セグメントの帯域を自由に使えるので、短時間で送信できる」と回答。NTTドコモの永田氏が「高画質のストリーミングといった大きいデータなら、数セグメントで受けるなど、データ量に従って受信する帯域は選べる。大容量のファイルを一括で送る場合は、全部の帯域(13セグメント)を使って一括で送った方がいいだろう」と補足した。
ただ、河合氏の「省電力」について回答が得られなかったことを受けて、増田氏は「委託放送事業が、ストリーミングと蓄積型が混在する形で送信する際に多いセグメントを使うのは無駄がないが、ストリーミング放送の送信に13セグメントを使うと、相当な電力を消費するのでは」と再び質問。これに対しては永田氏が「ケータイの消費電力の約70%がディスプレイから生じており、画像をデコードするために使われている。テクニックを凝らして消費電力を下げるというよりは、ストリーミングと蓄積型が混在した場合は、いっぺんに受けた方が制御しやすいということ」と説明した。
増田氏は、mmbiが、ドコモとソフトバンクモバイルから端末の普及計画の意思決定を得たという点に触れ、「この意思決定とは具体的に何か」と質問。永田氏が「ワンセグケータイのLSIをバージョンアップすることで対応するという意思決定をした」と回答。増田氏が「ソフトバンクモバイルも、ISDB-Tmmのチップセットを搭載した端末を出すということか」と確認すると、石川氏が「そういうこと」と答えた。
「海外展開は技術的には可能、需要に応じて検討したい」――二木氏
mmbiからメディアフロージャパン企画への2回目の質問では、二木氏の「基地局について、我々は125局の調査に4カ月かかった。メディアフロージャパン企画さんは865局を調査したとのことだが、どれくらいの期間にどの程度の調査を行ったのか」という質問が焦点となった。
増田氏は「放送事業者の施設、KDDIグループの施設、業務用無線事業者と、2009年9月ごろから話を始めている。同じ周波数をお使いの放送局さんには、現行の設備を活用するという形で前向きな回答もいただいているが、865局は向こう5年間の設置数。全局の所有者との面談の結果、この段階で(基地局の)使い道がない、アナログ停波後の計画がすでにあって貸せない局は除外している」と話した。
最後に、一般参加者から「海外ではマルチメディア放送を視聴することは可能になるのか」という質問が出た。これに対し増田氏は「海外での一般的なマルチメディア放送は、ほとんどがUHF帯なので、まずは周波数帯を合わせる必要がある。MediaFLOは技術的には複数の周波数に対応できるが、コンテンツプロバイダーが権利処理をする問題があるので、サービスを提供する国との個別の議論になる」と回答した。
二木氏は「周波数は違うが、技術的には可能。世界から欲しいと言わたらチップを作りたい。世界の需要に応じて検討したい」と話すと、増田氏がすかさず「MediaFLOではすでにそうしたチップが商用化されているのでご安心ください」とアピールした。
石川氏は「ISDB-Tmmは海外では使われていないが、物理層はISDB-Tと同じ。ISDB-Tは南米で数多く採用されており、最近はフィリピンとアフリカでも検討が始まっているので、次のサービスとして広めていきたい。また、フィリピンの通信事業者 PLDTや、ドコモが出資したインドのタタとも、ISDB-Tmmについて積極的に話し合いをしている」と海外展開の展望について説明した。
MediaFLOはすでに米国で商用サービスがスタートしていることが大きな強みだが、契約数や端末の出荷台数が公表されておらず、日本での普及を予測する根拠としては心もとない面もある。とはいえ、日本向けの試作機や無線LAN経由でMediaFLOを視聴できる「PocketFLO」、沖縄での実証実験に加え、MediaFLO向けのコンテンツや事業モデルを開発するメディアフロー放送サービス企画を設立するなど、端末やサービスの具体像はイメージしやすい。
mmbiは、日本最大手の通信事業者のドコモと、フジテレビ、日本放送、スカパー!JAST、テレビ朝日、TBSなどの放送局が推進していることが強みといえるが、具体的な端末やコンテンツの提示はなかった。もちろん、これらはマルチメディア放送の開設指針に定められた要素の1つに過ぎないので、最終的には、開設計画の適切性と確実性といった点から、総務省が判断することになる。いずれの陣営が選ばれるにせよ、総務省には公平な判断を願いたい。
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