MVNOのSIMカードでテザリングやおサイフケータイは利用できる?:はじめての格安SIM&SIMフリースマホ 第8回
MVNOが販売しているSIMカードは、ドコモ回線に対応したものがほとんどだ。ドコモのLTEスマホはテザリングが利用できるが、MVNOが提供するSIMカードでも同様に利用できるのだろうか。
大手通信事業者から回線を借り、格安料金を打ち出すMVNO。これまで説明してきたとおり、単体で販売されているSIMカードは、ほとんどがドコモの回線に対応したものだ。SIMカード自体はドコモと認識されるため、第6回で解説したように、たとえSIMロックがかかっていても、ドコモの端末は利用することができる。
一方で、端末のすべての機能を使えるわけではない点には注意が必要となる。テザリングに対する制限も、その1つだ。テザリングとは、スマートフォンをルーター代わりにして、PCやタブレットといった、ほかのデバイスをインターネットに接続するための機能。ドコモは、2011年以降に発売したスマートフォンに、原則としてこの機能を搭載している。AndroidやiOSといったOSにも標準で備わっているため、SIMロックフリーで販売されているiPhone 5s、5cやNexus 5などでも利用ができる。
ただし、MVNOのSIMカードだと、この機能が使えなくなるケースがある。ドコモ端末とMVNOのSIMカードという組み合わせが、それに該当する。これはなぜかというと、端末側にテザリング時にAPNを変更する機能が組み込まれているからだ。APNは第4回で説明した、データ通信を行うための接続先を指定する値のこと。このAPNがMVNOのものだったら通信はできる。ところが、ドコモの端末はテザリング時にのみ、端末側にあらかじめ設定されたドコモのテザリング専用APNに切り替わる仕様になっている。そのため、ドコモ端末とMVNOのSIMカードでは、テザリングした際にAPNがSIMカードの契約情報と適合せず、通信ができなくなってしまう。
これは、かつての料金プランの名残だ。LTEの料金プランでは、テザリングを使おうが使うまいが料金は一定だが、3G用のプランはテザリング利用時のみパケット通信料が上がっていた。ユーザーがテザリングを使ったことを見分けるなら、APNを切り替えるのが手っ取り早い。また、APNを通常の通信と分けることで、データ量が多く、回線を占有しがちなテザリングだけを通常の通信と分けておけば、帯域のコントロールがしやすくなる。ただし、この仕様は利用者にとって不便なことに変わりはない。テザリング利用の有無によって料金の違いがなくなった今、こうした仕様はぜひ再検討してほしい。
通信事業者のカスタマイズが入ったモデルではないが、iPhone 5sや5cも似たような挙動で、MVNOのSIMカードではテザリングができない。こちらも第4回(→SIMを挿してデータ通信を始めるには?――設定手順を確認しよう)で説明したように、iPhoneはドコモのSIMカードを認識すると、APNの設定画面がふさがれてしまう。そのため、MVNOのSIMカードを利用するには、プロファイルをダウンロードして内部の設定を変更する必要がある。ただし、ここで変更できるのは、iPhone単体で通信を行う際のAPNのみ。テザリング用のAPNはユーザーが直接変更することができず、ドコモ端末と同じようにテザリング時に正しいAPNを指定できない。
iPhone 5s、5cは日本のSIMカードAPNの設定すらできず、MVNOのSIMカードだとテザリングもできない。ただし、挿しているSIMカードによっては、画面のようにAPNを手動で入力できることもある
一方で、iPhoneを除けば、SIMロックフリースマートフォンにこうした制限はほとんどない。例えばNexus 5では、通常の通信もテザリングの通信も、同じAPNで行うので、MVNOのSIMカードをセットしてAPNさえ設定してしまえば、テザリングまで自由に使える。第5回で紹介したNexus 4やASUSの端末なども仕様は同じだ。端末の持つ機能をフルに使いたいなら、こうした機種を選ぶのが正解といえるだろう。
テザリング同様、キャリアの提供するサービスも一部利用できない。代表的なものはキャリアメールだが、これは次回で説明する。おサイフケータイもサービスによっては設定などができなくなる。例えば、ドコモのiDは設定アプリを起動すると、ドコモ網で通信しているかどうかをチェックして、画面を表示する。これがMVNOのSIMカードだと利用できない。モバイルSuicaのように回線を選ばないサービスもあるが、すべてが利用できるわけではない点には注意が必要だ。
逆に、キャリアのサービスの中には、回線契約を伴わず使えるものもある。サービスのキャリアフリー化を推し進めているドコモはもちろん、iPhoneであればauのうたパスなども利用可能だ。MVNOのSIMカードで利用できないのは、特定の通信回線や接続先とひもづいたサービスや機能と覚えておけば、大きな間違いはないだろう。
ここで紹介したテザリングやおサイフケータイの一部も、そうした事情で利用できなくなっている。もちろん、キャリアのサービスをもともと利用していなければ問題はないが、キャリアの回線と端末を組み合わせたときと全く同じように使えるわけではないことは、頭の片隅に置いておきたい。
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