多数のタスクを同時に処理する能力は簡単に手に入ると考えている人もいるかもしれないが、Science誌の最新号に掲載されたリポートによると、2つのタスクを処理するときには、脳の左右の前頭葉が自動的に処理機能を2つに分割するという。脳の処理能力を超える複数のタスクを同時に与えると、脳が効果的に機能する能力が損なわれると同リポートは警告している。この研究結果を発表したのは、Institut National de la Santeのシルバン・シャロン氏とEcole Normale Superieureのエティエン・ケクラン氏だ。
リポートによると、同時に複数の目標を追求する能力を実現しているのは脳の前頭前皮質前部(APC)だ。ケクラン氏とシャロン氏は、前頭皮質内側部(MFC)などの脳内動機系が、こういった同時発生目標の追求をどのように促すかを調べたという。両氏は脳画像化技術を利用し、共同で1つのタスクを処理する左右のMFCが、2つのタスクが与えられた状況では処理機能を分割することを確認した。「左MFCが1つのタスクの実行を促す報酬を符合化するのと同時に、右MFCがもう1つのタスクの実行を促す報酬を符号化する」とリポートの要約は述べている。「同様の2分割手法は外側前頭皮質においても観察され、一方、APCは両方のタスクの実行を促す報酬を結び付ける役割を果たした。このように左右の前頭葉は、APCによって調整される2つの同時発生目標に対応して機能が分離される。人間の前頭葉機能は、2つの目標を同時に遂行するのが限界であるように思われる」
米BusinessWeekの取材に対してケクラン氏は、2つのタスクならば大丈夫だが、同時に3つのタスクに取り組むのは脳の前頭葉機能の能力を超えると語っている。「人間の高度な認識能力は基本的に二重構造となっている。人々が2択を好み、3択以上になると難しいと感じる(2つの選択肢の間では簡単に思考を切り替えて判断を下すことができるが、3つの選択肢の間ではそれができない)という事実もこれで説明がつく」と同氏は語る。「この発見は、前頭葉機能が3つ以上の目標やタスクを同時に処理できないことを示している」
この研究は、スタンフォード大学が2009年8月に公表した調査結果の説明になるかもしれない。同大学の研究者たちは、日常的に複数のタスクの処理に追われるている人々は、認識能力に悪影響を受けることを発見した。「Cognitive Control in Media Multitaskers」(メディアマルチタスカーの認知制御)と題された調査報告書によると、タスク切り替え能力のテストでは、メディア上で多数のタスクを処理している人々(ヘビーメディアマルチタスカー)の能力は、少数のタスクを処理しているユーザーのグループよりも劣るという結果となった。これは、急速に広がりつつあるメディアマルチタスキングという社会的トレンドが「基本的な情報処理に対する個別アプローチに関連している」ことを示しているという。
同大学の研究チームは、262人の大学生を2つのグループに分けてテストを実施した。テストの結果、ヘビーメディアマルチタスカーたちは、無関係な環境的刺激や無関係な記憶表出による干渉を受けやすいことが分かった。これは、ヘビーメディアマルチタスカーの方がタスク切り替え能力のテストの成績が悪かったという意外な結果につながった。「無関係なタスクからの干渉を排除する能力が損なわれたのが原因と思われる」と研究チームは結論付けている。
複数のタスクを処理する必要性を少なくすれば、健康面でメリットがあることが分かっているが、小規模企業の経営者にとってマルチタスキングを軽減するというのは容易なことではない。オンライン給与管理サービス企業のSurePayrollが2009年7月に行った調査によると、厳しい経済状況の中で中堅・中小企業(SMB)は経営効率の改善に迫られているが、マルチタスキングの増加が一部のミッドマーケット企業のサービス品質の低下を招いている。この調査では、中小規模の企業の経営者の88%が、マルチタスキングが事業の成功に欠かせない要素となっており、経営者はそれを受け入れなければならないと考えていることが分かった。
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