「結局、今の人はスマホで何千枚も撮りますけど、その中の一つ一つの撮った写真の価値は薄れている可能性もあると思うんですよ。でも、チェキのユーザーさんたちの話を聞くと、やっぱり一枚一枚の価値ってすごく高いんですよね。一枚撮ったら、それをまずプリントしてみるっていう方も多いんです。だから、このクランクについても、その思いに応えるためにも、何周回すのがちょうどいいのか、回す時の固さはどうするか、そういうことも徹底的にやります。思いついたアイデアは、全部、開発に相談します。その分、福田さんにはお手間をかけるのですが」と笑う三浦さん。
その福田さんに、企画から出てきたアイデアで実現できないネタとかありましたか? と聞いたら「実現は全部できます」という答えが返ってきた。「それを製品に載せられるかは、また別の問題になりますけど、実現するだけならできるんです。大変なのはそのあとですね」。
エフェクトにしても、撮る前に全部を設定して、撮ったあとの加工はできない。「撮ったらプリントしてね」というのが、デジカメ的な内部構造を持ったEvoシリーズでも動かさないチェキシリーズの理念だ。一方で、実は、マイクロSDカードを入れれば、撮った写真は自動的にJPEGデータとしてカードに保存されるから、PCなどでも写真を活用できる。
「デジカメならできて当然という機能を、どう削って、どう残すかというのは、悩むところではあるんです。デジタルだから出来るでしょという部分を、そこは価値だからということでできなくすると、やっぱり不満に繋がったりストレスになったりするんです。でも、これはユーザーとメーカーの間で共通した価値観があれば、その機能をオフにしても理解してもらえる。プリントでピッと押したら自動的に出てくるのに、わざわざクランクを回さなきゃいけない、デジタルの効率性と逆行するような機能と、この辺のバランスが多分、instaxの商品化の面白いところだと思いますね」と高井さん。
その意味では、マイクロSDカードに保存された時点で、それは写真ではなくデータであるという理解で、だからそこから先はチェキではなく、コンパクトデジカメの領域ということになるのだろう。だから、データの移動やバックアップができる。本体のメモリの中にあるのは、データではなく写真のネガのようなものという認識だ。
意外だったのは、レンズキャップを付けたのはユーザーからの要望だったこと。ただ、そう言われてみると、それがユーザーがEvoというカメラに求めているものなのだと腑に落ちるものがある。
デザインにしても、クラシカルでありつつも、モダンな部分もあり、どこまでをデジタルの「便利」に振り、どこまでをアナログの「味わい」に振るかという点では、もはやメーカーだけではなく、ユーザーとの関係性の中で作られているように思う。
例えば、このカメラは、手に持って撮る時、ちょっと取り落としそうな不安がある形状で、使っていて、グリップがあればと思うことも何度かあった。ただ、グリップが付いた武骨なルックスが似合うかというと、そこは難しいところだ。ならば、ストラップを付属して、首から提げて使ってもらおうという選択は、なんだかとてもチェキっぽい。
実際、海外のユーザーは首から提げている人が多いという。そうやって、常に持ち歩いて「使う」カメラとして、スマホに比肩し得る存在は、今や案外チェキのシリーズだけなのかもしれないとさえ思った。要するに、これは欲しいということだ。
プリント前提、だから楽しい──「instax WIDE Evo」は大人のハイブリッドチェキだった
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