ユーザーのステップアップに応え始めたインクジェットプリンタ(2/2 ページ)

» 2004年04月28日 18時06分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 まずシャドウ部のトーンカーブが変更され、よりディテールがハッキリと見えるようになった。次に濃青領域での色相が紫方向に転じる傾向がなくなった。そして、不自然に拡張されていたオレンジ色や、少々作りすぎに感じられることもあった肌色(特に日陰などでの低彩度の肌色)や空、森の色における補正が“ホドホド”になっている。

 色相間のグラデーションも、破綻が少なくなっている。これまでのキヤノン製プリンタは、好ましい絵作りを求める余り、補正をかけている色域周辺で階調が破綻する特定の色があったが、今までのところ不自然さは目に付いていない。

きれいさに加えて素直さも同居

 ここまでならば、DPEサービス的にスナップ写真を流し込むときれいに出力されることを狙った従来製品の完成度を高めた製品でしかない。しかし“プロシューマー層を強く意識した”という9900iでは、“きれいさの演出”だけでなく、素直に利用者の意図を反映させる解決策も用意されている。ここが従来機との大きな違いだ。

 キヤノン製インクジェットプリンタは、昨年末に発売された990iと860iから、キヤノン純正メディア用のICCプロファイルが添付されるようになった。このプロファイルを用いることで、カラーマネージメント機能を持つソフトウェアから正しい手順で印刷することで、sRGB外の色域を持つデータを活かし、また意図する色での出力が行える。

 ところが、実際にICCプロファイルを用いて印刷を行ってみると、確かに元データに対して近似した出力が得られるものの、所々で不自然に階調が飛んでしまったり、色相がずれるといった現象が発生する。実際にさまざまなカラーチャートを印刷してみると、デフォルトの色設計ではあまり見られない不自然な階調の変化が、ICCプロファイルを適用する際に現れてくることが分かる。

 インクジェットプリンタの色は、キカイ本来の素の色特性(ヘッド、インク、ドライバのルックアップテーブルの内容などで決まる)に補正をかけて作られている。990iの場合、素の色特性の弱点を、ドライバ内の補正でうまくカバーしている印象だが、素の色特性そのものを数値データで記録したICCプロファイルを用いて補正すると、本来の不自然さが露呈してしまうのかもしれない。

 ところが、9900iは素の特性(おそらくルックアップテーブルに改良が加わったのだろう)が良くなったのか、ICCプロファイルを用いた印刷でもおかしなところが見られなくなった。コンシューマー向け製品の場合、こうした素の特性が重視されることはほとんどない。比較的買いやすい価格帯では、プロユースを意識したエプソンの「PM-4000PX」が、ICCプロファイル適用時の優秀な特性を持っていたが、本機はそれに近い素直さを備えている。

 またモノクロ印刷が良くなっている点も指摘しておきたい。ドライバで[グレースケールで印刷]オプションを入れ、プロフォトペーパーやマットフォトペーパーに印刷した時の出力が大幅改善されている。従来はマゼンタ寄りになり、とてもモノクロ写真には使えなかったが、9900iのドライバではニュートラルなトーンになり、階調ごとに微妙に色相がズレるといったこともなくなった。

成長するユーザーを受け入れる“製品としての奥行き”

 キヤノンはこれまで、コンシューマ向けプリンタを、かなり割り切ったコンセプトで開発してきた。たとえばラインナップを見ても、中級機以下では4色インクでも充分との姿勢が垣間見える。メインストリームの製品は経済的かつ実用性を重視した4色機で構成し、写真画質機をフラッグシップとして据えてきた。

 そのフラッグシップ機も、コンシューマーユーザーの大半がDPE的な使い方をするから、との理由で“きれいさの演出”に力を入れる。この方向が間違っているわけではない。しかし、一眼レフデジタルカメラの市場拡大などに代表されるように、画質に敏感なユーザーは自ら美しい写真を生み出すことに楽しみを見つけるユーザー層も増えつつある。

 すべての一眼レフデジタルカメラユーザーが、とは言わない。しかし、そのうちの何割かは、DPE的なおまかせプリントから、自分の作品を自分の意志で出力する段階にステップアップするだろう。熱心なユーザーは、それに取り組むうちに成長するものだ。

 キヤノンは今回の製品を「増加する一眼レフデジタルカメラユーザーのための製品」と位置付けている。しかし、どんな製品にもユーザーの成長を受け入れる製品としての奥行きは必要だと思う。

 9900iはその奥行きを備えた。では今後のA4機はどうなるのだろうか? 9900iの完成度の高さが、A4版写真画質機にも拡がることを期待したい。

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