自称“IT戦士”の新人記者・岡田有花が、一人きりのクリスマスを無理やり楽しく過ごそうとチャレンジし、華々しく散ったイブから1年。新人ではなくなったものの、相変わらずイブは一人だという彼女だが、今年は妙に浮かれている。「自分をモデルにしたクリスマスグッズが出た」と、えらくご機嫌なのだ。
その名も「線上のメリークリスマスIV」。USBポートにつないでスイッチを入れると、発泡スチロールの雪が舞い、山下達郎の「クリスマスイブ」が流れるという、何の役に立つのか大いに疑問なUSBグッズだ。
ツリーの前にはサンタ姿のフィギュアが一体。このフィギュアのモデルが岡田だという。「つぶらな瞳でITの未来を見上げてるイメージで作ってもらったんです」と本人はご満悦だが、実際は、据わった眼でガンつけてるようにしか見えない。
「私のフィギュアが人気を呼んで、線メリIVは大人気らしいですよ」と岡田。しかし売れ行き好調だったのは発売開始直後だけ。秋葉原のあるショップでは大量に売れ残り、3割引きの大セール中だという。それを聞いても岡田は「残り物には福がありますから」などとうそぶく始末。
線メリの中で岡田フィギュアは一人っきり。トナカイすらいない。本人もそれを寂しく思ってか、どこからともなく紙粘土を取り出し、“相棒”を作り始めた。
10分足らずで完成した相棒人形に「彼氏くん」という何のヒネリもない名前をつけて喜ぶ岡田。彼氏くんを自分フィギュアに引き合わせようと、線メリIVのドーム部を、慣れた手つきではずし始めた。
そういえば、彼女は去年も同じことをして線メリIIIを壊していたが、大丈夫なんだろうか――そんな心配をよそに岡田は、むき出しにした自分フィギュアと彼氏くんをイチャイチャさせ始める。
「『寒いだろ』『ううん、あなたといれば暖かい』『僕もさ……』『ツリーのイルミネーション、きれいね』『ユカタンのほうがきれいだよ』『……(ポッ)』」。自分フィギュアと彼氏くんのベタベタすぎる純愛ストーリーを自作自演する岡田。そう広くはない部屋の中心でバーチャルな愛を口走る。
そして2人の純愛ストーリーはクライマックスを迎える。「ここで雪を降らせてホワイトクリスマスにしようっと」と、岡田はドームを閉じ、線メリのスイッチを入れた。
しかし雪が舞わない。モーター音はするし、ブロアーは動いているようだが、雪が舞う気配がない。去年と全く同じ壊れ方だ。
岡田はしばらく考え込んだ後、おもむろに線メリを裏返し、ネジをはずしてふたを開け、中に掃除機を突っ込んだ。どうやら修理しているつもりらしい。
あくまで岡田の分析によると、壊れた原因は、ドームをはずした際にブロワー吸気部に雪が詰まったためだという。従って雪を掃除機で吸い出せば元に戻る、と主張する。「これで直るはず。私って天才!」(岡田)。
自信満々だが、しかし線メリは一向に動く気配はない。それどころか、今度はモーター音すらしなくなった。呆然とする岡田をよそに、線メリからは「クリスマスイブ」だけが、ただ流れ続ける。♪きっとキミは来ない、一人きりのクリスマスイブ……
「もういいよ」と投げやりになる岡田。2年連続で線メリをぶっ壊し、さすがに参ったようだ。
「人形はもういい。生身の人間として熱いクリスマスをつかみ取ってやる」――そう言い残し、岡田記者は秋葉原に消えた。
2時間後、帰ってきた彼女は赤い服を手にしていた。「クリスマス、女の魅力といえばやはり萌え萌えサンタ服でしょ」とゲットしたのはサンタ服。「『アキバオー』のサンタキャミソールに、COSPAで買ったクリスマスカラーなTシャツ。我ながら完璧なコーディネート!」──エンタープライズITの新しい潮流「ベストオブブリード」を早速採用したIT戦士、っていうかアキバオーってそんな物まで売ってるのか……。
サンタ服とTシャツを着るなり「12月に半袖は寒い……」と当たり前なことを言い出す岡田。アンタが寒いよ。
しかし岡田は、寒さこそがラブラブクリスマスへの最適なソリューションだと力説しはじめた。「『寒い』とつぶやく私の肩に、無言で自分のコートをかける彼。『冷たいね』とさりげなく握る手。寒さを言い訳に、二人は近づく……コレですコレ」。むしろ寒い方がムードは盛り上がると力説する。
「そうだ、室内でダラダラしてる場合じゃない。男子がたくさんいる場所に行けば、ナンパされまくって熱いクリスマスになるに違いない」。
そして彼女は行った。
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