「セル単位提供」でヨットに電子海図が普及するかな勝手に連載!「IT at SEA」(海で使うIT)(1/2 ページ)

» 2005年02月10日 21時11分 公開
[長浜和也,ITmedia]

便利だけど手が出ない「ENCのPCナビゲーション」

 ヨットで(いや、別にパワーボートでもいいんですが)PCを使う王道は「GPSと電子海図の組み合わせ」と、昨年の東京ボートショーの取材記事をはじめとして、私が「勝手に連載」する一連の記事で重ね重ね紹介しているところ。

 電子海図の正統となると、日本では海上保安庁が発行するENC(Electronic Navigational Chart)であるが、そのカバーする範囲は日本周辺のすべての海域を網羅し、その収録されている情報量と精度は正式な設備として認められている紙海図と同等。それだけでなく、紙海図で一番つらく面倒といわれる改補作業も、PCでいうところの「Windows Update」のようにデータをダウンロードするだけであっという間に最新の情報を反映してくれる。

 さらに、紙の海図では航海の各フェーズ(開けた海域を航行中なのか、沿岸航海中なのか、はたまた、入港アプローチ中なのかなどなど)や縮尺、エリアによって複数の海図をとっかえひっかえ、三角定規とデバイダーを駆使しつつ(ひょっとして船酔いしつつ)四苦八苦しながら行うチャート作業が、ENC(と表示ソフトをインストールしたPC)を使えば、マウス1つ動かすだけでPCに表示された海図の縮尺変更やエリアのスクロールができてしまい、せまいキャビンでもチャート作業はらくらくとこなせてしまう。

 ENCとその表示するソフトをインストールし、GPSを接続したPCの組み合わせは、チャート作業のために広い空間を確保できないプレジャーボートでは、実に有用な「航海機器」になるのだ。

 こんなにも便利な電子海図なのに、たった一つの問題がその普及を阻んできた。それはこの一連の連載でもたびたび触れたように「価格がべらぼうに高い」こと。たとえば東京湾から足摺岬までの小縮尺の航海図が収録された「E3001」は7万6800円。東京湾における詳細な航泊図とアプローチ図が収録された大縮尺の「E3011」は3万8955円。

 もともと海運会社向けというITmediaでいえば「エンタープライズチャネル」で扱うようなパッケージとはいえ、海外通販Webサイトならオートパイロットが購入できるほどの価格(これに表示ソフトを加えると、業者に「船底塗装とハルのパフ掛けもよろしくちゃ〜ん」といってしまえるお値段になる)では、個人所有のヨットやボートでおいそれと導入できる代物ではない(ええぇ、ヨット持ちってお金持ちなんじゃないの?というのは過去の話。100万円もしない20年落ちの中古船をなんとか買えた持ち主のほとんどは、メンテナンス費用と係留代でおおかた力尽きる)。

 そのため、PCを使いこなせるプレジャーボートの船長さんは、情報量充実(ただし、文字情報や等高線などの陸上情報などは不満なところもあるが)、改補作業が簡単確実にできるENCをあきらめて、価格が手ごろな日本水路協会発行のPEC(PC用航海参考図)や、工夫して船でも使えるようにしたカーナビソフト、ユーザーが開発したオンラインプロッターソフトなどを使っている。

S63への対応作業でENC表示ソフトメーカーはどこも手がいっぱい。そのなかで国土交通省の「海なび」ブースで展示されていたENC表示ソフト「ChartRescure」は海なびで提供される「釣り情報」と「推奨入港コース」を表示している。ChartRescueを開発している日本総合システムによると、S63対応バージョンは4月の運用開始に出荷できるように作業を進めているところ。既存ユーザーには対応バージョンに交換してくれるとのことだ

これなら私でも買えます「ENCのセル単位提供」

 かように「高くて使いたくとも使えない」というENCだったが、この4月からこの状況が大きく変わる。詳細の正式発表がまだであるため、きょうから始まる東京国際ボートショーの日本水路協会ブースでは大々的に紹介していないが、かれらのWebサイトで告知されているところの「セル単位での提供」「ライセンス制」「コピープロテクト」が新しいENCの配布方式として導入される。

 ENC普及の最も大きな阻害要因だった「価格」を変えてくれるのが「セル単位での提供」だ。たとえば7万6800円もする「E3001」の場合、収録する海域は「東京湾から足摺岬」と一口で言うものの、紙海図に置き換えると縮尺20万分の1から10万分の1の沿岸航海目的海図(東は内房北は三崎港、西は東伊豆で南は御蔵島まで含めた海図番号51「伊豆諸島」で15万分の1)なら23枚、一般航海用海図13枚、概観海図2枚が収録されている。これらをすべて購入しようとすると全図積3360円×38枚で12万7680円なり。たしかにPCユーザー的感覚からいうとENCのほうが割安ですね、となるが、どちらにしても簡単に出せる金額ではない。

 しかし、たとえば横浜港に係留している限定沿海のヨットが巡航できる海域は東は野島崎から西は波勝崎、南は御蔵島までに限られる(取れる休みとヨットの速度を考えれば、東京湾から脱出するのでさえ年に何回あるかどうか)。

 そういうユーザーなら、E3001に収録されているセルのうち、「JP34OJBC」「JP34NC9C」「JP34NC98」があれば事足りる。「2級免許の私は船外機ボートで沖釣りするだけだから」というならJP34OJBCだけでも十分。E3001に収録されている55セルのうち、1〜3セルだけでいいわけで、当然契約料も安く済むはずだ。

 また、入港アプローチや航泊図のような港内周辺の詳細な電子海図が必要になった場合、いままでなら東京湾の「E3011」という20セル収録した3万8955円のパッケージを購入しなければならなかったが、これもセル単位で使えるようになると、自分の係留港と巡航計画時にリストした目的港と避難港(これが大事)のセルだけを入手すればいい。

 このように、自分の使いたいセルだけ選んで入手すれば、かなり安く済みそうなENCの「セル単位での提供」だが、運用開始から2カ月きった現時点でもまだ契約料やライセンスの入手方法など、ユーザーが実際に使うための情報がほとんど明らかになっていない。

 このあたりの情報を、海図の販売を担当する団体「日本水路協会」電子海図事業部の久保良雄参与に確認したところ、正式発表まで具体的な数字は明らかにできないが、たとえば、紙海図W51「伊豆諸島」と航海図セルの1つ「JP34NC9C」といった、ほぼ同じエリアをカバーする両者を比べた場合、セルの契約料は紙海図価格の4分の1から5分の1程度になる可能性が高い、という回答であった。

 なお、この比較はカバーするエリアをそろえるために選んだケースであって、すべてのセルは、その航海目的に関係なく契約料は同じになる。

「海なび」とは国土交通省が進める「さまざまなデバイスで海に関する情報を活用しよう」というプロジェクト。海図や気象、港湾情報を収録するサーバにPC、カーナビ、携帯電話でアクセスできるようになる。このようにカーナビで海図情報を表示する場合は、ENCのデータをカーナビで使うフォーマットに変換してデバイスのストレージに保存して利用する。カーナビ業界で多くのユーザーによって長年にわたって改良されてきたインタフェースによる良好な使い勝手は、専用の舶用機器をも上回る

ENCの「ライセンス制」とはいったいなに?

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