「セル単位提供」でヨットに電子海図が普及するかな勝手に連載!「IT at SEA」(海で使うIT)(2/2 ページ)

» 2005年02月10日 21時11分 公開
[長浜和也,ITmedia]
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ENCの「ライセンス制」とはいったいなに?

 ここまで「販売価格」という言葉を使っていないのに気がついただろうか。4月から導入される新しい概念「ライセンス制」では、従来のようにユーザーがENCを買い取るのではなく、有効期間1年の利用契約を結ぶ、という形になる。詳細はまだ確定していないが、この「ライセンス制」でユーザーが使いたい電子海図のセルを入手する大まかな流れは以下のようになる。

  • ステップ1:ユーザーは販売代理店に対して使いたいセルを指定してライセンスキーの発行を依頼
  • ステップ2:販売代理店は海上保安庁海洋情報部が管理するサーバにライセンスキーを請求。サーバからはユーザーID、ついでライセンスキーが発行される。
  • ステップ3:販売代理店は発行されたライセンスキーとユーザーIDを依頼したユーザーに伝え、ENCデータが収録されているCD-ROMを渡す

 以上の発行手続きをどのような方法で行うか(店頭でのみ発行するのか、FAXや電話で受付るのか、Webを使ったオンライン受付に対応するのか)は販売代理店に一任される。

 どの方法をとるにせよ、ライセンスキーの発行には必ず販売代理店が介在する。契約を希望するユーザーは直接ライセンスキーを発行するサーバにアクセスできないため、PC業界では当たり前の、Webを使ったリアルタイムオンライン発行には「当面対応できない」(久保氏)というのが日本水路協会の見解。

 それでも、契約期間中は、改補データをWebから無料でダウンロードし、海図データを最新の状況にアップデートできる。ライセンス契約期間が終了すると、ENCは対応する表示ソフトで使えるが、改補データのダウンロードは出来なくなる。

 改補データのアップデートをするためにはライセンスの継続手続きが必要。日本水路協会によると、ライセンスの1年間継続料は新規ライセンス契約料と同額になる予定だ。

 契約するセルの構成に変更がなければ、販売代理店にライセンスの継続を伝えるだけで、手続きは済むらしいが、かかる費用からすれば、一年ごとに新規に契約するのと同じことになる。

 「2005年は式根島にいくためにJP34NC9Cを契約したけど、もう、しばらく行かないから2006年は契約は継続しない」ユーザーが2010年に契約を再度伊豆諸島に行くためにJP34NC9Cのライセンスを取得する場合は、新規契約を改めて結ぶことになる。

 ユーザーIDはそのまま使えるが、契約を結んでいない(改補作業をしていない)期間に行われた改補データが収録されたENCの新バージョンCD-ROMが発行された場合、再契約後にダウンロードできる改補データは、新しいCD-ROMに収録された分が抜けてしまうため、「新規契約時に最新のCD-ROMを入手したほうがいい」と日本水路協会では説明する。

光電製作所が参考展示していたRader PC。この手のソフトは米国ではすでに実用化され光電製作所も出荷しているある意味こなれたシステム。日本では法整備がなかなか進まず「参考展示」が続いているが、まもなく動きがみられる雰囲気である

「コピープロテクト」が既存ユーザーに与える影響

 「セル単位での提供」「ライセンス制」とともに導入されるのが気になる「コピープロテクト」だ。今までのENCはメディアにコピープロテクトがかかっておらず、不正複製が可能であったのだが、不正ユーザーの増加に伴って、ENCのコピープロテクト技術としてIHOが制定した「S63」を日本も導入することになった。

 新しいENCの導入を進めている海上保安庁海洋情報部の説明によると、ライセンスキーは表示装置1台につき1つ発行される。ヨットなどでENCを利用する場合、「ENCと表示ソフトをインストールしてGPSを接続したPC」が今のところENCを利用できる唯一のシステムになるが、日本水路協会の説明では「1つのライセンスキーは1台のPCに1回だけインストールできる」(久保氏)。

 もし、ハードウェアに障害が発生して、機器の交換と再インストールが必要になった場合、その時点で残っている期間だけ有効になるライセンスキーが新たに発行され、再度インストールが可能になる(このあたりの対応もPCソフトがどのようにシステムのIDを認識するかで変わってくる)。

 関係機関が正規ユーザーを保護するために導入する、と説明するこのコピープロテクトによって、(皮肉なことに)これまでの正規ユーザーにも大きな影響がでてしまう。ENCの普及を阻害してきた最も大きな原因が、ENCの高い価格と高いENC表示ソフトの価格であることは記事の冒頭でも紹介した。最近では4万円程度から表示ソフトが入手できるようになったが、それでも個人のソフトとしては高めだ。

 このような状況でも、電子海図の利便性に気がついたユーザーはその価格にも負けずに、ENCによるナビゲーションシステムを自前のPCで構築してきたのだが、コピープロテクトの導入によって、これまで入手してきたENCと表示ソフトをすべて入れ替えなければならなくなってしまったのだ。

 移行措置として、既存ユーザーが新しいENCを契約するときに、所有しているENCに含まれるセルの契約料は2008年3月31日まで無料(ただし表示ソフトはコピープロテクトに対応している製品を導入する必要がある)になる。また、従来形式のENCでも2007年3月分までは改補データのダウンロードが可能とされている。

 先ほども述べたが、これまでENCの主要ユーザーが海運会社だっため、多数の小型船舶ユーザーが1枚2枚単位でセルを契約する状況を日本水路協会としては「歓迎すべきかどうか複雑な心境である」(久保氏)と、ある意味、これまで法人ユーザーのみだったメーカーが始めて個人向けの製品を扱うときに感じる心境であるようだ。

 しかし、セル単位による導入コストの低下は、個人レベルでもENCを利用するナビゲーションシステムがあまねく普及する大きなきっかけを与えてくれるだろう。自分の経験からしても、電子海図によるチャート作業は、苦難なナビゲーション作業を楽にしてくれ、ナビゲーション作業で生まれたゆとりは、安全な操船をもたらしてくれる(もちろん、すべてを機械に任せて、見張りもせずにキャビンで漫然としていたら、間違いなく船を失うことになるだろう)。

 「海の安全を確保する」という、海図の最も根本的な目的を実現するために、多くのヨットやパワーボートが当たり前のようにENCを使ったナビゲーションシステムを搭載できるきっかけとなるべく、われらアマチュア船長も新しいENCが「ユーザーにとって」好ましい方向に発展するよう、期待して、かつ注意深く見守っていきたい。

日本水路協会は正式発表前ということで、ブースでは「新しいENC」ではなく、PECのデモと2月1日から開始したオンデマンド印刷サービスをアピール。オンライン印刷サービスはヨット・モーターボード参考図や小型船舶用の港湾案内をファミリーマートに設置された端末から指定して、店舗内の印刷機から出力できる。一部500円
東京湾その1で正式な参考図(上)とオンデマンド出力された参考図(下)を並べると、オンデマンド出力の参考図が縮小印刷であるのがわかる。注意したいのは、オンデマンド出力の参考図や港湾案内はは「沿岸区域」で認められた海図の代用としては使えないのに注意したい
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